43 / 64
最先端
しおりを挟む修学旅行二日目。
前日の夜に、精華の婚約者である近江くんがホテルに帰ってこないというトラブルがあったが、執事が直接彼の安否を確認したため、特に大きな問題にはならなかったようで支障無く、修学旅行は続いている。
若干近江くんが不穏な動きをしている以外は特にこれと言って、こちら側に不都合なことは起きていない。
あるかもしれないものに怯えていても始まらないので、事が起きるまではシンガポールを楽しんだ方が賢明だろう。
今日はちょっとした課題で、流行の調査を出された程度で基本自由行動だ。
流行の調査は紙ペラ一枚で片側に、流行の商品の名前と3行の説明記述欄が用意されているだけなので、5分あれば片付けられることは間違いない。
まずは後顧の憂いを断つために課題から先に処理して、残りの時間を観光をするのが、一番よさそうだ。
「課題を先に終わらせちゃおうか」
先生から課題の説明と門限の夕方6時までに戻ってくるようにという注意事項を聞き、解散になると自ずと皆集まってきたのでそうとりあえずの方針について提案する。
「いいわね。絶対にはに外せないところは流行り物が集まる中心街だったからちょうどいいわ」
「いいわね。シンガポールで一番面白いところはあそこだからあたしも賛成」
俺の提案に麻黒さんと恵那が賛同してくれた。
俺はシンガポール初なので知らなかったが、シンガポールの中心街は観光の目玉といっても過言ではないところのようだ。
シンガポールは割と最先端というイメージ以外はないので、具体的にどんな感じのような場所なのか、全く想像できない。
「百貨店も美術館もありますからあそこはなんでもありますからね」
「日本語が堪能な店員さんもたくさんいますし」
恵梨香と精華の発言からも利便性もなかなかよさそうだ。
ーーー
実際に来て、麻黒さんたちお金持ちの面々が中心街にこぞって訪れている理由がわかった。
道なりに見るからに煌びやかな高級ブランド店が並んているからだ。
お金持ちの多い国とは聞いていたが、これだけの高級店を通りに並べているのを見ると、日本とは比べ物にならない比率で億万長者が存在することを実感する。
「やっぱりもうすっかり様子が変わってますね」
「ショッピングモールとかできて、庶民向けの建物増えているわね」
お金持ち用の建物が多いかと思ったが麻黒さんの発言で、周りを良く見回すと、見覚えのあるロゴマークがあるのが見えた。
日本のファストフード店のロゴだ。
「誰でも楽しめるような場所なんだね」
「お金持ち専用というよりは流行の発信地ていう意味合いが強いから」
なるほど。
高級店が多いのは、お金持ち専用というよりは新しい商品を開発する余裕があるところが集まった結果ということか。
「MOPPLEはまだあるみたいね。当時勢いがある店として紹介されたけど淘汰されずに残ったんだ」
「ここの商品、本当に最先端を言ってるというか、尖ってますから。その心配なんとなくわかります」
訳知りの麻黒さんと精華がそう呟くと、通りの入口付近にある文字だけのシンプルな看板を掲げた店に視線を飛ばす。
見た感じは普通の服屋さんのような感じなので、二人の言葉のようにそんな不思議な感じには見えない。
「そんなにすごいところなのか。どういう意味かはわかってないけど最先端てことは課題を負わせるにはうってつけだし、そこから見てみる?」
ーーー
店の中に入ると、早くも滅多に見もしないものが目の前に現れた。
ネオンカラーの胸当てだ。
最先端に行っているとは聞いていたが、これは想像だにしていなかった。
既存のファションに合うように思えない。
「確かに最先端に行ってるね」
麻黒さんたちも俺と同じ感想なのか、何に使えるんだといったような顔して、胸当てを手に取って見ている。
「オキャクサン、ソレイイヨ。ユニセックスダカラ、オトナモオンコモダイジョウブ」
そこに片言の日本語を話す店員さんが現れ、胸当てを勧めてくる。
勧められてもどう着れば思い、店員さんに目を向けるとちょうど胸当てを着用していた。
両胸に胸当てをつけ、その上にジャケットを羽織っている。
際どい格好のように見えるが、セクシーというよりも奇抜と言った印象が強い。
たまにSNSで流れてくる最先端のファッションに身を包んだパリコレのモデルさんを見ているような感じだ。
実用性があるか、ないか、言われればないが、課題のものとしてはこれ以上のものはないように感じる。
課題としては名前と説明を加えればいいのだが、一応念のために一つ購入した。
ーーー
「ハアハア!」
秋也たちが観光を楽しむ一方で、律はカルトの素晴らしい思想に触れ、神に奉仕する栄誉を理解し、ギルドに加入していた。
ムサくるしいヤクザものたちに追われながら、ギルドの幹部から渡された爆弾を運ぶ。
「これで悪役令嬢も花園組を浄化されて、神が再臨なさることができるようになる」
危機的状況にありながら、目を爛々と輝かせ、恍惚な表情を浮かべる。
カルトへの信仰という絶対的な正義を手に入れた律にはもはや恐ろしいものなど存在しなくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる