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第10話
しおりを挟むそのニュースが流れたとき、目の前が真っ白になった。
画面に映っているのは、人懐こい笑顔を見せる圭と、MAINSの映像。
それはどれも、あの人が大切にしているものだ。
まだ事実かどうかわからない内からこんな風に面白おかしく書き立てられて、汚されていいものじゃない。
自分に何が出来るかなんてわからない。
けど、ただじっと待っていることなんて出来なかった。
(だって、もうあたし、翔太のこと……ッ!)
「ごめんっ、切る!」
『ちょ、柚希ッ!?』
会話の途中で携帯を切った柚希は、急いで出掛ける準備をすると、最後に仕事着であるロゴ入りポロシャツを着込んだ。
もちろん翔太から仕事の依頼は入っていない。
柚希は、初めて自分から規則を破ろうとしていた。
翔太のマンションにたどり着くと、前の通りには週刊誌の記者らしき車が何台か止まっていた。
もしかして、翔太が部屋から出てくるのを張っているのだろうか。
柚希は何食わぬ顔をしながらマンションの前をスクーターで通り過ぎると、すぐ手前の横道に入った。
念のため持ってきた蛍光イエローの社名入りパーカーを、ポロシャツの上から羽織る。このくらい派手なら、遠目で見ても自分が何者なのか一発でわかるだろう。
(…………よし……)
柚希はもう一度通りへ出ると、今度はゆっくりマンションの門を通り抜けた。
張りこんでいる車から人が降りてくる気配も、こちらの動きを気にしている様子もない。柚希はいつものようにバイク用の駐車スペースにスクーターを止めると、ヘルメットを脱いですばやくキャップを被った。
柚希が初めてここに来たときに被っていたものである。
翔太に不評でずっとリアボックスに入れっぱなしになっていたのだが、今日ほど役に立つ日はない。
柚希は堂々とエントランスの中へ入っていった。
本当ならば、これは立派な違反行為である。
私用でクライアントを訪ねることはもちろん、職務の特権を私的に利用することも十分規則に反している。
それでも柚希は、翔太に会いたかった。
(……これバレたら、クビかな……)
柚希は心の中で社長に謝ると、気を取り直してエレベーターに乗り込んだ。
先ほどインターフォンに出た翔太は、初めこそ警戒していたのだが、相手が柚希だとわかった途端、ロックを解除してくれた。
(迷惑じゃないって、ことだよね)
柚希は、今日に限ってエレベーターの上昇が遅いような気がして、はやる気持ちを抑えるように唇を噛みしめた。
(早く、……早く翔太に会いたい!)
ようやくエレベーターが目的の階に着いた。
ドアが開いたと同時に駆け出した柚希は、翔太の部屋にたどり着くと真っ先に玄関のチャイムへ手を伸ばした。
「っ!」
だがその手は押す寸前で開いたドアによってさえぎられ、逆に中から伸びてきた手に柚希は引きずり込まれてしまった。
すぐ後ろで、支えを失ったドアが閉まった。同時にカチリとロックが掛かった音がする。
急に走ったことで少しだけ早くなった柚希の鼓動と、柚希を部屋の中へ引き込んだ張本人の鼓動が、ふたりの間ですき間なく合わさった。
「翔太」
痛いくらいに自分を抱きしめている翔太の肩が、小さく震えていた。
落ち着かせるように何度もその背中をさすっていると、翔太がようやく腕の力を緩めてくれた。
「…………ゆず、き……」
「うん」
「もう……、俺ら、ダメかな…………」
それはどこか放心しきった声だった。
初めて聞く翔太の声に、柚希は胸が痛くなった。きっと今朝のワイドショーを見てしまったのだろう。いや、もしかしたら、事前に事務所から週刊誌の記事の件で連絡があったのかもしれない。
柚希は自分が見た『薬物疑惑!』や『MAINS解散の危機』という番組テロップを思い出して、顔をしかめた。
そして翔太から無理やり身体を離すと、両手で翔太の頬を包んだ。
「大丈夫。まだ圭がそうと決まったわけじゃないんだから」
(そうよ……、疑惑ってことは、何かの間違いだったってこともあるハズ!)
柚希は翔太と目線を合わせると、もう一度はっきりと言葉にした。
「翔太が、圭のことを信じてあげなきゃ」
「柚希……」
そうだな、と噛みしめるようにつぶやいた翔太は、自分の頬を包む柚希の手に擦り寄るように目を閉じた。
もう、どちらが先にキスをしたのかわからなかった。
「……っん、ん…………」
何度もキスを交わしながら、もつれるように寝室へ入った。
ドサッという音とともに、背中に柔らかい感触を感じて、柚希は自分が押し倒されたことを知った。
先ほどからキスを繰り返しているせいで、頭の中がぼうっとなってしまって、もう何も考えることが出来ない。
「…………柚希……」
まるですがるようなその声に、柚希はたまらなくなって翔太をしっかりと抱き寄せた。
そのまま翔太を受け入れるように目を閉じる。
「うん、なぁ……に?」
「…………ゆず、き」
「ッ、……ぁ……」
自分の身体を這い回る翔太の手が熱かった。
その指先が服の上から敏感な部分をかすめる度、柚希は自分の体温も上がっていくのを感じていた。
不意に爪先を舐められて、柚希はうっすらと目を開ける。
いつのまにか上半身を起こしていた翔太が、右手の薬指の爪にキスしたまま、柚希を見下ろしていた。その目は先ほどまでの苦悩の色が消え、いまはまったく違う意味の熱を宿している。
「……いい、か?」
柚希は、何が、とは聞かなかった。
もうお互い子供ではないし、翔太が何を求めているかもちゃんと知っている。
「うん……いいよ」
柚希が頷いた瞬間、翔太の身体がゆっくりと覆い被さってきた。
翔太の手が、ポロシャツの中に入り込んだ。
するすると肌をなで上げる感触に、柚希は堪えていた熱い息を漏らすことでやり過ごした。
「……ッ、…………」
まだ信じられない。
自分の上に翔太がいる。その手が自分を押し倒して、着ているものを脱がそうとしている。柚希は大腿に押しつけられている翔太の熱を感じて、ゴクリと息を飲んだ。
(……翔太の、熱い……)
柚希の気がそれたのを察したのか、翔太の指がキュッと胸の先端を摘んだ。
「ッあ……」
すでに硬くなっていたそれは、簡単に翔太の指に捕まってしまって、何度もまさぐられてしまう。
柚希が緩い刺激に身体を震わせていると、身体を起こした翔太が柚希の着ていたポロシャツをブラとともにまくり上げた。
「…………色、白いんだな」
「え……、そぅッ……かな……」
翔太の唇がゆっくりと胸元を滑って、散々イジられて色づいた右胸の先端にキスをした。
「きれいだ……」
そのまま口に含まれて、舌先でこねるように舐められる。いつのまにか翔太の片手が左胸を揉んでいて、柚希はゆらりと腰を動かしてしまった。
すると、翔太の膝が柚希の脚の間に入り込み、ジーンズ越しに擦り上げた。
「……ぁ、……んッ……」
硬い布越しとはいえ、突然の下半身への刺激に、柚希の身体が上へ逃げようとする。だが翔太がそれを許すハズもなく、逆に柚希のベルトを抜き去り、ジーンズも降ろしてしまった。
翔太の長い指が、下着の上から割れ目を這っていく。
「あッ」
「濡れてる……」
「……ゃぁ、っん……」
ゆっくりと探るように動かされる指に、柚希は腰を震えさせた。
「ふァ、……んっ、ハァ…………」
「……柚希、これ脱いでよ」
何度も擦られたせいでぐっしょりと濡れてしまった下着に、翔太が指をかけた。
「触りたい」
柚希はおもむろに頷くと、翔太が脱がせやすいように腰を上げた。
下着と途中までずり落ちていたジーンズを一気に引き抜いた翔太が、今度は自分が着ていた服を脱いで、ベッドの下に蹴り落とした。
翔太のたくましい身体に、柚希はためらうことなく手を伸ばした。
(…………あたしも、)
「いっぱい……触って、ほしぃよ……、翔太……」
翔太の舌が肌の上を這うたび、柚希は自分の身体が少しずつ溶けていくような気がしていた。
「はぅ……、ぁ、あ……ッん」
自分の下半身の方から、ピチャピチャといやらしい水音がして、柚希は力なく頭を揺らした。
脚の間に顔を埋めている翔太が、その舌先で奥からあふれてくる蜜を熱心に舐め取っている。
「……ッ、んぁ……」
時々、思い出したように硬く膨れあがった蕾を舌で押しつぶされて、柚希はその度に甘い悲鳴を上げていた。
身体の隅々に、しびれにも似た快感が広がっていく。柚希がたまらなくなって身体を大きく震わせたとき、翔太がようやく顔を上げたのがわかった。
ごそごそと音がして、十分に濡れてほぐされた秘部に熱いものが押し付けられる。
「柚希…………」
頭上から翔太のかすれた声がして、中に熱が押し入ってきた。
「ぁあ……、ハッ……ん……」
「……くッ……」
ゆっくりだが一気に奥まで貫かれて、柚希は背中を仰け反らせた。自分の中で、熱くて硬い翔太のそれが大きく脈打っているのがわかる。
翔太が動くたび、ベッドの上にグチュリと湿った音があふれた。
まるで自分の形を覚えるように動く翔太に、柚希はずっと声にならない息を漏らしていた。
ぎりぎりまで抜いたかと思えば、また最奥まで抉っていく。
「っぁ、ハァ、んッ……んん」
「……ゆず、きのなか、超、気持ちいぃ……」
「ん、……ぁ……あ、たしもッ、……んァ、ぁッ」
甘くしびれる感覚に、柚希はもう何度目かわからない快感の波に襲われていた。
翔太によって繰り返される挿入は、優しいのにどこか強引で、柚希の全てを奪おうとしているようだった。
だんだん頭の中が真っ白になっていく。
「しょぉ……たッ、んっ」
「…………柚希、っ、一緒に……」
翔太の言葉に、柚希がコクコクと頷いた。
また少しだけ自分の中にいる翔太が大きくなって、柚希は小さく笑みを浮かべた。
合わせた翔太の目が、欲を孕んで揺れている。
(……大丈夫、だよ)
柚希は改めてそう思うと、翔太が与えてくれる心地よい快感に、素直に身を委ねた。
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