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第三章
二十九話
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宿で風呂も借りて体がスッキリした私は、オルト兄弟に選んでもらった服に袖を通した。
今着ている方が起きている時で、もう少し地味になった方が寝る際の服らしい。
着替えが終わって部屋の外に出ると、扉の前ではヘグとスタンリーの二人が待ってくれていた。
「今のフォルティエナ良い良い。俺たち、いい仕事したよね。このまま嫁に貰いたいくらい可愛いよ」
「調子に乗るな、ヘグ。全く……まだガキのくせに。フォルティエナ、食事をする場所はこっちだから」
私はスタンリーに誘導されて、宿の廊下を歩く。
ここはソロウの村の宿屋だ。
林の中を彷徨っていたところをスタンリーとヘグという兄弟に助けてもらった私は、彼らと行動を共にするうちに、自分の心も少しずつ打ち解けてきた気がする。
「フォルティエナ、食べ物に好き嫌いはないの?」
「んー……分からない」
「そっか……」
兄からヘグと呼ばれている金髪の少年は、少々寂しそうな顔をした。
「少しずつ思い出していけば良いと思うよ」
「そうそう、焦ってもしょうがないからな」
「……うん」
ソロウの街の名物料理は兎肉のトマト煮込みだと教えてもらって、とりあえずそれを頼んだのだが食べたらスープがけっこう辛かった。
嫌いじゃない味だけど、今までこういう感じの料理はあまり食べてこなかった気もする。
というか私は、そもそもどこの料理を食べていたんだろう……。
「肉……じゃが……」
「に、にくじゃが?」
「それは料理の名前なのか?」
「うーん……」
自分の口から思わず出た言葉……。
何か思い出せそうでいて、何も思い出せない。
そんな状態がとてももどかしかった。
「ま、焦らずにな」
スタンリーはそう言って、私のコップに飲み物を注いでくれる。
これは何の飲み物なんだろう?
「……豆の茶だよ。まずは飲んでみな?」
スタンリーに促され、私は一口だけ口の中へ入れてみた……んー苦い。
「うー……」
「はは、苦いのが苦手だったら、このヤギのミルクと花蜜を中に入れたら良い。すごく飲みやすくなるよ」
そう言ってヘグは、ミルクと蜜の小瓶をこちらへと渡してくる。
私はそれらを適度にコップの中へ入れて、スプーンでかき混ぜてみた。
そして、またコップに口をつける。
……うん、これでだいぶ飲みやすい。
この飲み物に似た味を前にもよく飲んでいた気がする。
一体どこで……だったのかな……。
「あぁ! そうだった!」
食事も終わり、まだ食堂の席でゆっくりしていた頃、ヘグがいきなり大きな声を出して自分の鞄の中をゴソゴソと漁り出した。
「急になんだよ、ヘグ。びっくりすんだろ……」
「ごめんごめん、フォルティエナのことを鑑定アイテムで調べてあげようと思ってさ! ヒントとか、何かわかるかもしれないじゃん?」
「あぁ、その手もあったな!」
ヘグの閃きを聞いて、かなり興奮した様子のスタンリーだったが、鑑定アイテムというのは私には聞き馴染みがない言葉だった。
一体それで何が分かるのだろうか。
「フォルティエナ、ちょっとおデコにごめんね?」
ヘグはそう言って、不思議な光を私の額に当てた。
するとアイテムのガラスの部分に、小さな文字が表示される。
性別:女
レベル:34
特技、魔法:回復魔法/中級
パッシブスキル:高貴なる乙女
ユニークスキル:威圧魔法/上級
隠しステータス:改竄されし者
「おぉ、レベルが思ったより高かった。それにやっぱりフォルティエナは平民じゃないね。このパッシブスキルはたぶん貴族の若い娘につく効果だよ」
「ヘグ、それよりもこの隠しステータスって……何だ? こんなの俺は生まれて初めて見たぞ?」
スタンリーは驚いた声を出した。
改竄されし者……か。
どういう意味なんだろう?
「俺もだよ。それに改竄ってあまり良い意味じゃないよね? 不正で勝手に記録を変えるみたいなイメージがあるんだけど……普通こんなの人のステータスにつくものなのかな?」
ヘグの言葉を聞いた瞬間、私の心臓がドクンと強く脈打つのを感じた。
すごく重要な何かを……思い出せそうな気がして……体にゾワゾワと悪寒が走る。
「何か思い出せそう……なのに……あ……頭が……」
「フォ、フォルティエナ? 大丈夫?!」
「あまり無理するなよ。こういうことは急いじゃいけないんだ。まずは落ち着いて……」
ヘグとスタンリーの心配する声が聞こえる一方、今度はぎゅ~っと締め付けられるような痛みが私の頭を襲って、うまく返事ができない。
頭を抱えてしばらく我慢していると、少しずつだが痛みがひいてきた。
「もう……大丈夫だと……思う」
完全に痛みが無くなって私は二人に笑いかけると、ヘグとスタンリーは少し顔を赤らめ、とても安心した様子を見せた。
「笑った顔、初めて見た……いいね。マジで惚れちゃいそう」
「うん、可愛い可愛い。それと、どさくさ紛れに惚れるな、お前は」
「へっへー」
ヘグとスタンリーのこういうのはお世辞? って言うやつなのかな?
うん……。
「そろそろ……部屋に戻るよ」
私はそう言って、椅子から立ち上がる。
「あぁ、ゆっくり休みなね? 俺たち、明日は朝早くからヒエウに向かうんだけど、フォルティエナを探している人がいたら、王都へ行ったと伝えておいてあげるからさ」
「あ、ありがとう……でも、そうか……」
どうやら二人とはここでお別れらしい。
良い人たちだったから、離れるのは少し名残惜しいが……。
「本当は城まで届けてやりたいんだけどな。俺たちにも色々と都合があってな」
スタンリーは申し訳なさそうな表情でそう告げてくる。
「いや、充分……感謝だよ……」
初めて会った人間なのに、色々と良くしてもらった……これ以上ないってくらいに。
「記憶が戻ってさ、いつかクランでフォルティエナを見かけたらまた声かけるよ。その時はどっかのクエストに一緒に行こうよ」
「うん、ぜひ……二人とも……元気で……」
ヘグとスタンリーは私の言葉に頷き、別れの言葉を述べた。
私は食堂を出て宿の部屋へと戻ったら、寝衣に着替えてベッドに横になる。
朝になったら馬車で……王都に行かなくちゃならないから……。
今着ている方が起きている時で、もう少し地味になった方が寝る際の服らしい。
着替えが終わって部屋の外に出ると、扉の前ではヘグとスタンリーの二人が待ってくれていた。
「今のフォルティエナ良い良い。俺たち、いい仕事したよね。このまま嫁に貰いたいくらい可愛いよ」
「調子に乗るな、ヘグ。全く……まだガキのくせに。フォルティエナ、食事をする場所はこっちだから」
私はスタンリーに誘導されて、宿の廊下を歩く。
ここはソロウの村の宿屋だ。
林の中を彷徨っていたところをスタンリーとヘグという兄弟に助けてもらった私は、彼らと行動を共にするうちに、自分の心も少しずつ打ち解けてきた気がする。
「フォルティエナ、食べ物に好き嫌いはないの?」
「んー……分からない」
「そっか……」
兄からヘグと呼ばれている金髪の少年は、少々寂しそうな顔をした。
「少しずつ思い出していけば良いと思うよ」
「そうそう、焦ってもしょうがないからな」
「……うん」
ソロウの街の名物料理は兎肉のトマト煮込みだと教えてもらって、とりあえずそれを頼んだのだが食べたらスープがけっこう辛かった。
嫌いじゃない味だけど、今までこういう感じの料理はあまり食べてこなかった気もする。
というか私は、そもそもどこの料理を食べていたんだろう……。
「肉……じゃが……」
「に、にくじゃが?」
「それは料理の名前なのか?」
「うーん……」
自分の口から思わず出た言葉……。
何か思い出せそうでいて、何も思い出せない。
そんな状態がとてももどかしかった。
「ま、焦らずにな」
スタンリーはそう言って、私のコップに飲み物を注いでくれる。
これは何の飲み物なんだろう?
「……豆の茶だよ。まずは飲んでみな?」
スタンリーに促され、私は一口だけ口の中へ入れてみた……んー苦い。
「うー……」
「はは、苦いのが苦手だったら、このヤギのミルクと花蜜を中に入れたら良い。すごく飲みやすくなるよ」
そう言ってヘグは、ミルクと蜜の小瓶をこちらへと渡してくる。
私はそれらを適度にコップの中へ入れて、スプーンでかき混ぜてみた。
そして、またコップに口をつける。
……うん、これでだいぶ飲みやすい。
この飲み物に似た味を前にもよく飲んでいた気がする。
一体どこで……だったのかな……。
「あぁ! そうだった!」
食事も終わり、まだ食堂の席でゆっくりしていた頃、ヘグがいきなり大きな声を出して自分の鞄の中をゴソゴソと漁り出した。
「急になんだよ、ヘグ。びっくりすんだろ……」
「ごめんごめん、フォルティエナのことを鑑定アイテムで調べてあげようと思ってさ! ヒントとか、何かわかるかもしれないじゃん?」
「あぁ、その手もあったな!」
ヘグの閃きを聞いて、かなり興奮した様子のスタンリーだったが、鑑定アイテムというのは私には聞き馴染みがない言葉だった。
一体それで何が分かるのだろうか。
「フォルティエナ、ちょっとおデコにごめんね?」
ヘグはそう言って、不思議な光を私の額に当てた。
するとアイテムのガラスの部分に、小さな文字が表示される。
性別:女
レベル:34
特技、魔法:回復魔法/中級
パッシブスキル:高貴なる乙女
ユニークスキル:威圧魔法/上級
隠しステータス:改竄されし者
「おぉ、レベルが思ったより高かった。それにやっぱりフォルティエナは平民じゃないね。このパッシブスキルはたぶん貴族の若い娘につく効果だよ」
「ヘグ、それよりもこの隠しステータスって……何だ? こんなの俺は生まれて初めて見たぞ?」
スタンリーは驚いた声を出した。
改竄されし者……か。
どういう意味なんだろう?
「俺もだよ。それに改竄ってあまり良い意味じゃないよね? 不正で勝手に記録を変えるみたいなイメージがあるんだけど……普通こんなの人のステータスにつくものなのかな?」
ヘグの言葉を聞いた瞬間、私の心臓がドクンと強く脈打つのを感じた。
すごく重要な何かを……思い出せそうな気がして……体にゾワゾワと悪寒が走る。
「何か思い出せそう……なのに……あ……頭が……」
「フォ、フォルティエナ? 大丈夫?!」
「あまり無理するなよ。こういうことは急いじゃいけないんだ。まずは落ち着いて……」
ヘグとスタンリーの心配する声が聞こえる一方、今度はぎゅ~っと締め付けられるような痛みが私の頭を襲って、うまく返事ができない。
頭を抱えてしばらく我慢していると、少しずつだが痛みがひいてきた。
「もう……大丈夫だと……思う」
完全に痛みが無くなって私は二人に笑いかけると、ヘグとスタンリーは少し顔を赤らめ、とても安心した様子を見せた。
「笑った顔、初めて見た……いいね。マジで惚れちゃいそう」
「うん、可愛い可愛い。それと、どさくさ紛れに惚れるな、お前は」
「へっへー」
ヘグとスタンリーのこういうのはお世辞? って言うやつなのかな?
うん……。
「そろそろ……部屋に戻るよ」
私はそう言って、椅子から立ち上がる。
「あぁ、ゆっくり休みなね? 俺たち、明日は朝早くからヒエウに向かうんだけど、フォルティエナを探している人がいたら、王都へ行ったと伝えておいてあげるからさ」
「あ、ありがとう……でも、そうか……」
どうやら二人とはここでお別れらしい。
良い人たちだったから、離れるのは少し名残惜しいが……。
「本当は城まで届けてやりたいんだけどな。俺たちにも色々と都合があってな」
スタンリーは申し訳なさそうな表情でそう告げてくる。
「いや、充分……感謝だよ……」
初めて会った人間なのに、色々と良くしてもらった……これ以上ないってくらいに。
「記憶が戻ってさ、いつかクランでフォルティエナを見かけたらまた声かけるよ。その時はどっかのクエストに一緒に行こうよ」
「うん、ぜひ……二人とも……元気で……」
ヘグとスタンリーは私の言葉に頷き、別れの言葉を述べた。
私は食堂を出て宿の部屋へと戻ったら、寝衣に着替えてベッドに横になる。
朝になったら馬車で……王都に行かなくちゃならないから……。
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