元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花

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第三章

二十八話

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 王都というのはどこの場所のことだろう。
 この街ではなさそうだが。
「この道を真っ直ぐ行け。街の出口がある」
 男に言われ、私はただ頷いた。
「この娘、屋敷へは連れて行かないので?」 
 そばにいた女が男へと問う。
「夜ならば暗闇に紛れて飛んでも良いが……まだ夕刻。こんな状態の娘を連れていたら目立つだろう? 今こちらの素性がバレては計画が頓挫する」
「確かに」
「今回も最低限の一般常識は残した。何とかして自分で王城へ向かうさ。次に失態を犯したら、今度こそ全てを消して廃人にしてやろう」
 目の前にいる男女はそう言葉を交わして、私から離れて行った。


 私は言われた通りの道を無言で歩いていく。
 しばらくして、街の入り口である門が見えてきた。
「王都は……どこ……?」
 私は入り口にいた初老の男性に話しかける。
「王都かい? この街を出て東にずっと行った先にあるよ。ただ、かなり距離が遠いからみんな馬車で……って、あれ? 変だな……もういない。今の子、なんか様子がおかしかったけど大丈夫だろうか……」
(東……に進む……)
 傾きかけている太陽と逆へ行けば、方角は東になるはずだ。
 その方向へ真っ直ぐ進めば王都に……そこで私は、王と王族の三名を殺めなければならないらしい。
 王と王族ということは、その者らは王城にいるのだろうか?
(威圧魔法を使えと言われたけど、やり方がよく分からない。回復魔法は祈るとできた……)
 門を出て舗装された道の上を歩いていると、服の中から金属の板のようなものが地面へと落ちた。
 そこには誰かの名前だろうか?
 小さく文字が彫られている。
(フォル・スノウ……見習い冒険者……?)
「……知らない」
 私は落とした板を拾わず、再び歩き出した。
 
 
 しばらく歩いていると、周りの景色には木々も増えてきている。
 そして空の方はだいぶ薄暗くなっていた。
 完全に夜になってしまえば、林の中を歩くのはかなり厳しくなってくるだろう。
 私はどこかに休めるようなところがないか、周りを見回した。
(岩の影でもあれば……夜はそこで……)
「……あれ? こんな所に綺麗な女の人がいるよ? でもなんか様子が……」
「本当だ……もうすぐ日も暮れるというのに」
 少し遠くの方で声が聞こえたと思うと、大きな荷物を抱えた二人の男が近寄ってきて、私の前で立ち止まる。
「?」
「あんた、大丈夫なのか? その……身なりが……」
 短めな金色の髪の男はそう言って、声をかけてきた。
「身なり? 私は王都に……」
「王都? ここから歩いていくつもりか? 夜にこんな林の中をうろうろしていたら、狼にやられて即お陀仏だぞ?」
 狼?
 この辺は狼が出るのか……。
 狼は肉食で人を襲う犬科の動物だったな……。
「女剣士の格好をしているのに、そんなことも知らないなんて妙だね。それに俺、この人を王都のクランで見かけたことあるよ。たぶんSと一緒にいた女の人だ。妙に綺麗な子だったから覚えていた」
 今度はさっきの青年と同じような金髪で、肩口くらいの長さの男が喋った。
 男というよりはどちらかというと幼めで、少年の様相だが。
 この二人はどうやら王都の方から来たらしい。
 それとSとは……一体何のことだろうか。
「もしかしてクランの仲間とはぐれたのか? あんた名前は?」
「名前……」
「自分の名前も言えないの? うーん、明らかに様子がおかしいね」
「あぁ、それによく見ると、あちこちが血で汚れてるし服もボロボロだ。とりあえず、このままじゃ危ないから村に連れていくか」
 そう言って、短髪の男の方が近づいてくる。
「村……」
「すぐそこのソロウの村だ。王都へ行きたいなら、明日の朝に村を通る馬車で行った方が良い。ここからはかなりの距離がある。俺はスタンリー・オルト、これでも一応B級の冒険者だ」
「俺は弟のヘグ、C級ね」
 スタンリーとヘグと名乗ったオルト兄弟はそう言ってよろしくと笑った。
 彼らが言うには、王都へは馬車で行った方が良いらしい。
 B級、C級の冒険者というのがよく分からないが、何かの階級だろうか。
「名前……確かフォルティエナって……言われた」
「言われた?」
 スタンリーの言葉に私は頷く。
「街で男にそう呼ばれた。あとはよく覚えてない」
「街というと、近いのはヒエウか? もしかしてあんたは記憶喪失ってやつかもな……とりあえず、フォルティエナ? そろそろ本当に暗くなる。早く村まで行こう」
 私はスタンリーに手を引かれて道を歩いた。
 その後ろで周りを警戒しながらヘグがついてくる形だ。
 すると数十分ほど歩いて、ソロウの村へと辿り着く。
 狼避けなのだろうか?
 ソロウの村は、木製で高さのある立派な塀で囲われていた。
 塀の小窓から顔を出した見張りの人間に、オルト兄弟が何かを告げると、村の入り口が開扉されて中へと入れた。
 もう空はすでに暗いが、村の所々で灯された橙色の明かりが優しげな光を醸し出している。

「そういやあんた、鞄も何も持ってないね。もしかして野党に襲われたのかい?」
「分からない」
「金は? 服の中とかに入れてないの?」
 ヘグに促されて、私は自分の服の中を探る。
 すると布でできた長方形の入れ物が出てきた。
 それを縦に振ってみると、シャカシャカ、ガサガサと何かが入っている音がする。
「コインと紙幣がそれなりに入ってそうだな」
「金があるなら宿に泊まれるよ。良かったね、フォルティエナ。あと失礼だけどついでに服も買ったら? 時間的にもまだ店は開いていると思うよ。どうやら体に怪我とかはしてなさそうだけど、その格好のままだと……さすがに村人からびっくりされる」
 スタンリーとヘグはそう言って、私を村の奥へと連れて行った。
 私は歩きながら、手に持っている布の入れ物の中を見る。
 中には綺麗な模様がついた紙が数枚と、銀色の丸い同じ形をしたものが沢山入っていた。
 これがお金……つまり通貨というやつだろうか。
 そして自分の今の身なりも、あまり良い状態ではないらしい。
「ヘグ、王都に……王様はいる?」
「お城にいらっしゃるとは思うけど……それがどうしたの?」
「使命が……」
「そうなんだ。城に行くなら、それらしい見た目にした方が良いかもね。俺たちが可愛く選んであげるよ。フォルティエナは美人だから、どんな服でも似合いそう」
 それらしい……見た目……か。
 その方が城に入りやすいのなら、お願いしてみても良いだろう。
「……よろしく」
 ヘグは少し赤くした顔で頷いた。
 彼は随分と人懐こい性格なんだな。
 なんとなく……そんな気がした。
「うん、任せて。フォルティエナはたぶん平民じゃなさそう。もしかしたら、あのS級も探しているのかもしれないね。かなり親しそうだったし」
 またS級の話題だ……私を探してる?
 その人間と親しい間柄だったということか?
 一体誰なのだろう。
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