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第一章
二話
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部屋の外に出ると、壁にかけられたランプの火は小さく調節されていて、全体的に薄暗い廊下が続いていた。私は静かに足をすすめる。
裸足だから足音はしにくいが、こういう大きなお屋敷の住人たちはおそらく室内でも靴だろう。
今の私は足の裏が真っ黒になってそうだ。
(誰にも会わずに部屋に戻ってこれたら、こっそり拭いておかなきゃね。家人に見つかったら寝ぼけていたことにしよう)
廊下を出て階段を降りていくと、広いホールのような場所に出た。
護衛のような人物はここにはいないようで、今度は階下の部屋を探索し始める。
ひときわ大きな扉の先を覗くと、パーティ会場のような場所があった。
そこの窓から綺麗な庭が見えて、つい興味本位に近づいてしまう。
誰もいないことを確認したら、窓からそっと庭に出た。
庭は夜でもライトアップされており、不思議な雰囲気を持っていた。
まるで、おとぎ話によく出てくるイングリッシュガーデンのような、花々に囲まれた美しい庭だ。
外で休憩や食事が取れるような場所もある。
ここで甘いお菓子と一緒にお茶会をしたら、どれだけ楽しいだろうかと想像した。
(ああ、これぞファンタジーの醍醐味じゃない?)
この世界で貴族のまったりスローライフも悪くないな、そんなことを思っていた。
しかし、そんな思惑も吹っ飛ぶタイミングで、近くの草が突然ガサガサと不気味な音を立てた。
私はびっくりして身構えるが、ハアハアと息づかいが聞こえるだけで、しばらく待っても襲いかかってくる気配はない。
おそるおそる、息づかいが聞こえる方へ目を凝らしてみると、その生き物と目が合った。
というか普通に人間だった。
「だ、誰?」
「…………」
そこには黒髪で金色の目をした少年が、警戒した様子で地面に座り込んでいた。
そしてこの人物、元現代人の私には少々見覚えがある。
確かヒロインの攻略対象の一人で、かなり位の高い貴族の御曹司だ。
残念なことに、クソほどに性格が悪いオラオラ系で、幼稚な勘違い系のキモ……とにかく私がゲーム中に避けまくっていた攻略用のキャラである。
目の前の黒髪の少年は、誰かと喧嘩でもしたのか、頭と口から少々血が垂れていた。
手負いの獣だった。
「怪我してる、の?」
「……触るな」
思わず伸ばした手を強く弾かれた。
かなり警戒されているようで、私もたまらず数歩下がる。
まぁ当たり前か……明らかに異常な状況だもんな、こんな時間だし。
「ちっ、ここの娘か。おいお前、このことは誰にも言うなよ! 誰かに言ったら即殺してやるからな!」
「うわ……」
少年は急に立ち上がると、そう捨て台詞を吐いた。
そして後ろの植木を飛び越えて早々に逃げていく。
その際、彼はチャリンと何かを落とした。
なんだこりゃ? と私は手に取るが、それは黄金のチェーンに通された、綺麗な模様が描かれている金コインだった。
どんなものかもよく分からないが、メッキでもない限りは高価なものに間違いない。
後日会えたら渡せばいいかと、とりあえずポケットにしまった。
(あの粗暴な少年にまた会うのはだいぶ嫌だけど)
しかし、ゲームで見ていたキャラを実物で見るのとは、だいぶ印象が違った。
獰猛な獣に遭遇したみたいに、場の空気がかなりピリッとしたし、リアルに怖かった。
顔は綺麗な少年だったけども、言葉遣いも幼稚で乱暴そのもの。
(まさかこんな所で隠しイベントが存在しているとは……もしかして、このままあの悪魔みたいなクソガキのルートに?)
って、ないない! さすがにねーわ!
だって私、モブだし! ヒロインじゃないし!
そう、ヒロインじゃないのだ。
貴族で可愛いけどモブ!
ノープロブレム! 問題なーし!
当分は戦争の心配もナシの、乙女向けヌルゲーの世界なはず!
そう自分に言い聞かせて、頑張って落ち着きを取り出す。
そして、少し疲れた私は、自分の部屋へ戻った。
裸足だから足音はしにくいが、こういう大きなお屋敷の住人たちはおそらく室内でも靴だろう。
今の私は足の裏が真っ黒になってそうだ。
(誰にも会わずに部屋に戻ってこれたら、こっそり拭いておかなきゃね。家人に見つかったら寝ぼけていたことにしよう)
廊下を出て階段を降りていくと、広いホールのような場所に出た。
護衛のような人物はここにはいないようで、今度は階下の部屋を探索し始める。
ひときわ大きな扉の先を覗くと、パーティ会場のような場所があった。
そこの窓から綺麗な庭が見えて、つい興味本位に近づいてしまう。
誰もいないことを確認したら、窓からそっと庭に出た。
庭は夜でもライトアップされており、不思議な雰囲気を持っていた。
まるで、おとぎ話によく出てくるイングリッシュガーデンのような、花々に囲まれた美しい庭だ。
外で休憩や食事が取れるような場所もある。
ここで甘いお菓子と一緒にお茶会をしたら、どれだけ楽しいだろうかと想像した。
(ああ、これぞファンタジーの醍醐味じゃない?)
この世界で貴族のまったりスローライフも悪くないな、そんなことを思っていた。
しかし、そんな思惑も吹っ飛ぶタイミングで、近くの草が突然ガサガサと不気味な音を立てた。
私はびっくりして身構えるが、ハアハアと息づかいが聞こえるだけで、しばらく待っても襲いかかってくる気配はない。
おそるおそる、息づかいが聞こえる方へ目を凝らしてみると、その生き物と目が合った。
というか普通に人間だった。
「だ、誰?」
「…………」
そこには黒髪で金色の目をした少年が、警戒した様子で地面に座り込んでいた。
そしてこの人物、元現代人の私には少々見覚えがある。
確かヒロインの攻略対象の一人で、かなり位の高い貴族の御曹司だ。
残念なことに、クソほどに性格が悪いオラオラ系で、幼稚な勘違い系のキモ……とにかく私がゲーム中に避けまくっていた攻略用のキャラである。
目の前の黒髪の少年は、誰かと喧嘩でもしたのか、頭と口から少々血が垂れていた。
手負いの獣だった。
「怪我してる、の?」
「……触るな」
思わず伸ばした手を強く弾かれた。
かなり警戒されているようで、私もたまらず数歩下がる。
まぁ当たり前か……明らかに異常な状況だもんな、こんな時間だし。
「ちっ、ここの娘か。おいお前、このことは誰にも言うなよ! 誰かに言ったら即殺してやるからな!」
「うわ……」
少年は急に立ち上がると、そう捨て台詞を吐いた。
そして後ろの植木を飛び越えて早々に逃げていく。
その際、彼はチャリンと何かを落とした。
なんだこりゃ? と私は手に取るが、それは黄金のチェーンに通された、綺麗な模様が描かれている金コインだった。
どんなものかもよく分からないが、メッキでもない限りは高価なものに間違いない。
後日会えたら渡せばいいかと、とりあえずポケットにしまった。
(あの粗暴な少年にまた会うのはだいぶ嫌だけど)
しかし、ゲームで見ていたキャラを実物で見るのとは、だいぶ印象が違った。
獰猛な獣に遭遇したみたいに、場の空気がかなりピリッとしたし、リアルに怖かった。
顔は綺麗な少年だったけども、言葉遣いも幼稚で乱暴そのもの。
(まさかこんな所で隠しイベントが存在しているとは……もしかして、このままあの悪魔みたいなクソガキのルートに?)
って、ないない! さすがにねーわ!
だって私、モブだし! ヒロインじゃないし!
そう、ヒロインじゃないのだ。
貴族で可愛いけどモブ!
ノープロブレム! 問題なーし!
当分は戦争の心配もナシの、乙女向けヌルゲーの世界なはず!
そう自分に言い聞かせて、頑張って落ち着きを取り出す。
そして、少し疲れた私は、自分の部屋へ戻った。
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