君と世界にたった1杯の珈琲を

にもの

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1章・箱庭

4.初任務

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ある早朝。

「ベガ、剣には慣れたか?」
アルタイルはいつものように医務室でコーヒーを片手に話した。
「う~ん、どうだろう。」
ベガは自分の実力を正確に把握してはいないようだった。
「ベガ、よく聞いて欲しい。実は昨日の晩にノアール元帥から任務の通達があったんだが、その任務にベガも参加できるとの事なんだ。もちろん嫌なら断ってもいい。」
ベガは2年前、過酷な戦場となった国境で瀕死のところをアルタイルに助けられている。この2年という歳月は、長いようでまだ短く、ベガは今では活発にこそなったが、心の傷がまだ実は癒えきっていないのでは無いかとアルタイルは心配していた。
「行く。」
あまりの早さの即答に、アルタイルのコーヒーを口へ運ぶ手が止まった。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。アルも行くんでしょ?」
ベガは、アルタイルが何を心配しているのか分かっていないような様子だった。
「確かにそうだな。」
アルタイルは少し笑った。

「じゃあ明日作戦と任務の詳細を伝えられるから、管制塔まで行こう。」
「分かった!」



翌朝6:30管制塔。
「これよりフォーマルハウト市街地掃討作戦会議を行う。」
ハキハキとキレのある声でアルタイルが会議の指揮を執った。

掃討任務には基本的に5人1組を小隊とし、複数の小隊によって行われる。会議には任務に参加する総勢40名、8班のうちの各リーダー、つまりベガとアルタイルを除く5名が参加していた。この5名は一等兵の中から隊長として選抜された者だ。

「フォーマルハウトは国境付近において我らが連邦国から落とした市街地だ。敵は引いたがまだ残党が残っている。影響が無ければひっ捕らえて捕虜にしても良かったのだが、どうやら残った住民を襲い、金品や食料を略奪するといった行為が頻発しているようでな。」
アルタイルは淡々と凛々しい表情で語った。

「団長。」
5名のうちの1人である一等兵のレイが手を挙げた。
「なんだ、レイ。」
「いえ、その…ベガちゃんはどこの小隊に配置するんですか?」
レイに続き、他の4人も同じような表情をしていた。
「ベガはC班に配置する。」
「俺のとこですかぁ?!」
そう言って声を荒らげたのは、チクチクと剃り残しのある髭で、長身の男だ。
「なにか文句があるのか、セレイド」
「い、いえ……すみません。」
「まぁいい、ベガにとっては初任務だ。しっかり指揮をとって色々と教えてやってくれ。」
「りょーかいしましタァ!」
セレイドはおじさんのような口調で上がり気味に敬礼した。

「よし、作戦の話に戻るぞ。さっき略奪行為が頻発していると言ったな。これから察するに、恐らく相手は組織的に行動している可能性がある。アジトとして使われそうな箇所をいくつか洗い出しているから、今回は残党の捕縛と、その箇所を徹底的に調査する任務となる。尚、敵が武装していた場合は構わず戦闘態勢に入れ。それから、敵に殺されるくらいなら殺される前に敵を殺せ。以上だ。各班の動きはまた指示する。それでは今から任務につく。」

『了解。』
アルタイルが話を終えると、5人が一斉に敬礼をして解散となった。

その後、各班が集まりフォーマルハウトへと移動していた時の車内でのことだ。
「ベガちゃんよろしくね。」
そう言って笑って声をかけてきたのは二等兵のカレンだ。
「分からないことがあれば頼れよ!」
「よろしく!」
「うん。よろしくね!」
そう言って他のふたりも挨拶を済ませた。

「よーし、挨拶は済んだな。そろそろポイントに着く。アジト候補のひとつだ。敵がいつ出てくるかもわからん。気を引き締めてな。」
そう言って指揮を執るのはセレイドだ。

ポイントに到着し、本当の任務が始まった。
「こちらセレイド。ポイントCに到着。これより調査を開始する。」
無線ではなく通信魔道具と呼ばれるもので通信をしている。
ベガのいるアジト候補は地下鉄跡だった。
入口の階段を降りるとすぐに分かれ道だ。
「二手に別れよう。カレンとベガは右から、残りは俺と前へ進む。」

「カレン、止まって。」
ベガは小声でカレンの足取りを止めた。
「どうしたのベガちゃん。」
「奥から2人来た。」
「おっけー、ありがとう。」
それは次第に気配だけではなく足音が混じり、遂に敵と対面した。

「おい、なんだお前ら!」
敵の1人が剣を持ってこちらへ走ってきた。
「身体強化。」
カレンはそう囁くと人間とは思えない大ジャンプの動きで、敵を2人とも倒してしまった。

 「物騒だね。先急ごうか。」
そうしてカレンと一通り歩き回ったが何も無く、そのまま別のルートからセレイド達と合流した。
「どうやらここはハズレだったみたいだな。他部隊に合流するぞ。」
セレイドがそう言って剣を鞘にしまった。
「こちらC班、任務完了。今から他部隊と合流する。他に任務を終えている班はあるか」
「こちらE班、任務完了している。」
「分かった、ではC班はE班と合流する。」
そうして通信を終えた後のことだ。5人とも任務を終えて少しだけ肩の力が抜けた、いや、気が抜けていたのかもしれない。そのほんの少しだけの油断が、文字通り命取りとなる。
突然後ろにいた二人の隊員が倒れたのだ。間髪入れずにカレンとセレイドも朦朧としはじめた。

「まずい……これ…は、毒……ガス……逃げろベガ…………」
セレイドはそう言って倒れた。カレンも既に意識を失っている。

「あぁあぁ王国の魔剣士様がこうもあっさりと倒れるなんてなぁ。」
通路の奥から聞こえてきた声だ。
ベガは朦朧とした意識の中でその声だけを感じ取っていた。

「おっとまだ起きてんのか。寝ていいぞ嬢ちゃん。」
そう言ってやって来た男はベガを魔法で直接眠らせた。

「おいてめぇら、盗るもん盗ってさっさと戻るぞ!」
男は仲間を数人呼び寄せ、5人の持ち物や剣を物色し始めた。

「ヴァックスさん!これ!」
1人が大きな声で男を呼び、あるものを見せた。青く歪な形をした鉱石のようなものだ。
中には文様のようなものが刻まれており、セレイドの持ち物から漁ったものだった。
「おいおいおいおい……こりゃとんでもねぇもん持ってやがったなぁ。」
「ヴァックスさんこれって……?」
「こりゃ魔結石っつってな、周りの魔力による物質への干渉を妨害するもんだ。」
「それってつまり……!」
「あぁ、魔法を無効化する石ころだよ。俺も見んのは初めてだぜ。本で見たのと全く同じだ、間違いねぇ。」
「こりゃ大儲けじゃないっすか!!、、やりましたね」
「あぁ大当たりよ!!!はっはははははは!!!」
男達はガスの充満する中でマスク越しに高笑いをした。笑う度にガスマスクのシュコシュコという音が鳴り響いた。

その時、ヴァックスという男と向かい合っていた別の男の首が飛んだ。

「はぇ?」

ヴァックスは笑いながら目にしたその突然の出来事に理解が追いつかず、表情が戻らないまま素っ頓狂な声を出してしまった。

男の飛んだ首が転がる鈍い音だけが響き、他の男達はただ怯えながら後ずさるように武器を構えた。

《何か、居る。》

全員がそう感じ取ったが、時は遅くその全員の首が一斉に消え去ってしまった。
ただ呆然と立ち尽くしているヴァックスという男はようやく事態を理解し、武器に魔法を付与し、振り回した。
「うわぁぁぁぁぁああああああ!来んな!!!こっち来んなぁ!!!!なんなんだよっ!!!!おい!!!誰だよ!誰なんだよ!!おぉい!!」
涙目になり、おぼつかなくなり始めた足で必死にその場から去ろうと動き出した。その喚き声だけが廃墟と化した地下鉄のホームまで鳴り響いていた。
男は充満するガスと、自身のガスマスク内の湿気のせいで視界が曇り、ベガが居なくなっていたことに気づいていなかった。

「そうだ、魔法だ、魔法なんだろ!やられたヤツらの切り口が剣で殺られた痕だったぜ!!!どうせ魔道具でも使ってんのか?おい、知らねぇけどよぉ!強すぎる身体強化は自分の首絞めんぞ!!!早く出てこいよぉぉお!」
男はまだ怯えているが、見抜いてやったとでも言わんばかりにニヤニヤしながら魔結石を握った。
「いいぜ!そっちがその気ならその魔法使えなくしてやんよ!!」
男はそう言って魔結石を掲げた。しかし、数秒の沈黙の後には何も起きなかった。
「おい、、、なんでだよ、魔結石じゃねぇのかよ!偽物か?!いやそんな訳がねぇ、この目でちゃんと確かめた。だとするとこれは……」

『魔法じゃ、ない???』

そう囁いた瞬間、男の視界は天と地が反転した。
また床に固く重い頭が転がる鈍い音が鳴り、辺りには血潮が飛び散った。
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