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1章・箱庭
7.魔法ではない何か
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「ベガちゃんの容態どんな感じすか?」
そう言って医務室に足を踏み入れたのはナツメだった。プリン頭の黒い部分が前より少し広がっている。
「あぁ、ナツメか。身体は安定してるんだが、まだ目を覚まさない…」
アルタイルはコーヒーを口に持っていくが、怪訝な顔つきだった。
「そうすか…。まぁあんだけめちゃくちゃになって死者が出なかったことが不幸中の幸いってやつですかね。」
「そうも言ってられんぞ。今回の事で処分が下されるだろうしな。」
「やっぱりですか…」
「立場上、私がベガに処分を下さなければならない。騎士団長としての責任もあるし、今回戦ってくれた皆へ向ける顔もある。それ相応の罰は与えねばならない。」
アルタイルが怪訝な顔つきだった理由をナツメは察したようだった。
「まぁ、子供がポカやらかしたら叱るのは大人の仕事っすからね」
「フッ、セレイドも似たようなことを叫んでいたな。」
「あ~、あのおっさん、今年娘が産まれたとかなんとか言ってましたしね。重症って聞いたんでさっき会ってきましたけど、包帯とギプスだらけで元気に喋ってましたよ。また怪我して嫁さんに叱られるって。」
「ハハッ!あいつも大変だな。」
少し和んだかのように感じられたが、その雰囲気を一瞬で呑むようにナツメが顔つきを変えた。
「で、団長、ベガちゃんのアレは一体何なんすか。」
アルタイルは表情をナツメに見せようとはしなかった。
「あれは…私にも分からない。ただ、まず一番に言えることはあれは魔法では無いということだ。」
「魔法じゃ無い……?じゃあなんだって言うんですか。確かにあんなおぞましい力見たことないっすけど、魔法以外であんな力あるもんなんですか。」
ナツメの声のトーンが段々と低く重くなっていく。
「それも分からない。私も魔法以外であんな力を見た事がないからな。だからこそあれだけ巨大な力でありながら魔力を一切感じなかったことには驚いているんだ。あるとすれば……」
「あるとすれば、なんですか。」
「イリスの箱庭」
「イリスって、あの惨劇の街……」
「あぁそうだ。第三次魔境戦争、イリスの悲劇。たった1人の魔剣士の核融合魔法で13万人いた街がたった一瞬で焼け野原と化した。しかし、その爆心地であるものが見つかった。それは複雑な印と文様が刻まれた石。それまで誰も見た事もない、奇妙でまるで意味のわからない石だった。」
「その石がイリスの箱庭だと……。でもその石とベガちゃんの力がどう関係してるんですか?」
「ベガの力のそれは、イリスの箱庭と酷似している。というのも、イリスの箱庭は発見当初から異様な力を発していた。突然光り出したり、浮き上がったり、触ると火傷したという者もいる。ただ、遺物によくある性質だったから魔法の類かと思って調べたそうなんだが、不思議なことに石から魔力は一切感じられなかった。」
「なるほど。でもなんで団長はそんなにその石に詳しいんすか?」
「他でもない、そのイリスの箱庭を惨劇の跡から見つけたのはこの私だからだよ。」
ナツメは驚いた顔をしたが、少し間を置いて落ち着いたように見えた。
「すいません、俺、思うんすけど、じゃあなんで今すぐベガちゃんとイリスの箱庭を調べようってならないんすかね」
「ベガは今はこの通りだ。それにイリスの箱庭は今行方が分かっていない状態にある。」
「?!それってどういう」
「どうもこうも、そのままの意味だ。イリスの箱庭を持ち帰って調べた翌日、保管していた研究所が跡形もなく吹き飛んだ。幸い夜の出来事だったので人もいなかったんだが、石は消えていた。爆発の跡から魔力も魔法行使による元素の跡も検出されなかったことから、誰かが手動で爆破して石を盗んだと考えられた。」
ナツメは何かを考えるように聞いていた。
そして今度は閃いたように話をさえぎった。
「いや、ちょっと待ってください。」
「なんだ」
「爆発は1度だったんですよね?」
「報告書を見た限りだとそうだ。」
「石を盗むために爆破するのは分かるんですけど、そんな大規模な爆発を一度で…?しかも魔法も使わずに手動で?……無理でしょ!」
「そう思うよな。だが報告書にはそう記されていた。たぶん国は石のことは隠すつもりなんだろう。実際、あんな強力な爆発を起こせるものがあると他国に知られれば、新たな火種となり戦争が激化するだけだ。」
「っ………」
ナツメはなにか言おうとしたが、食いしばるように黙った。
「アル…」
突然のその声はベッドからだった。
「ベガ!」
「ベガちゃん!」
アルタイルとナツメが同時に駆け寄った。
目を覚ましたベガは、意識も鮮明で怪我も癒えていた。
「良かった、ベガ。本当に良かった…」
アルタイルは眉間に皺を寄せながらベガを抱き寄せた。
「あ、俺そろそろ行くっすね。ベガちゃんも目覚ましたんでついでにルナさんに言っときます。」
「あぁ、すまないな。」
ナツメは少し明るい顔で医務室を後にした。
そう言って医務室に足を踏み入れたのはナツメだった。プリン頭の黒い部分が前より少し広がっている。
「あぁ、ナツメか。身体は安定してるんだが、まだ目を覚まさない…」
アルタイルはコーヒーを口に持っていくが、怪訝な顔つきだった。
「そうすか…。まぁあんだけめちゃくちゃになって死者が出なかったことが不幸中の幸いってやつですかね。」
「そうも言ってられんぞ。今回の事で処分が下されるだろうしな。」
「やっぱりですか…」
「立場上、私がベガに処分を下さなければならない。騎士団長としての責任もあるし、今回戦ってくれた皆へ向ける顔もある。それ相応の罰は与えねばならない。」
アルタイルが怪訝な顔つきだった理由をナツメは察したようだった。
「まぁ、子供がポカやらかしたら叱るのは大人の仕事っすからね」
「フッ、セレイドも似たようなことを叫んでいたな。」
「あ~、あのおっさん、今年娘が産まれたとかなんとか言ってましたしね。重症って聞いたんでさっき会ってきましたけど、包帯とギプスだらけで元気に喋ってましたよ。また怪我して嫁さんに叱られるって。」
「ハハッ!あいつも大変だな。」
少し和んだかのように感じられたが、その雰囲気を一瞬で呑むようにナツメが顔つきを変えた。
「で、団長、ベガちゃんのアレは一体何なんすか。」
アルタイルは表情をナツメに見せようとはしなかった。
「あれは…私にも分からない。ただ、まず一番に言えることはあれは魔法では無いということだ。」
「魔法じゃ無い……?じゃあなんだって言うんですか。確かにあんなおぞましい力見たことないっすけど、魔法以外であんな力あるもんなんですか。」
ナツメの声のトーンが段々と低く重くなっていく。
「それも分からない。私も魔法以外であんな力を見た事がないからな。だからこそあれだけ巨大な力でありながら魔力を一切感じなかったことには驚いているんだ。あるとすれば……」
「あるとすれば、なんですか。」
「イリスの箱庭」
「イリスって、あの惨劇の街……」
「あぁそうだ。第三次魔境戦争、イリスの悲劇。たった1人の魔剣士の核融合魔法で13万人いた街がたった一瞬で焼け野原と化した。しかし、その爆心地であるものが見つかった。それは複雑な印と文様が刻まれた石。それまで誰も見た事もない、奇妙でまるで意味のわからない石だった。」
「その石がイリスの箱庭だと……。でもその石とベガちゃんの力がどう関係してるんですか?」
「ベガの力のそれは、イリスの箱庭と酷似している。というのも、イリスの箱庭は発見当初から異様な力を発していた。突然光り出したり、浮き上がったり、触ると火傷したという者もいる。ただ、遺物によくある性質だったから魔法の類かと思って調べたそうなんだが、不思議なことに石から魔力は一切感じられなかった。」
「なるほど。でもなんで団長はそんなにその石に詳しいんすか?」
「他でもない、そのイリスの箱庭を惨劇の跡から見つけたのはこの私だからだよ。」
ナツメは驚いた顔をしたが、少し間を置いて落ち着いたように見えた。
「すいません、俺、思うんすけど、じゃあなんで今すぐベガちゃんとイリスの箱庭を調べようってならないんすかね」
「ベガは今はこの通りだ。それにイリスの箱庭は今行方が分かっていない状態にある。」
「?!それってどういう」
「どうもこうも、そのままの意味だ。イリスの箱庭を持ち帰って調べた翌日、保管していた研究所が跡形もなく吹き飛んだ。幸い夜の出来事だったので人もいなかったんだが、石は消えていた。爆発の跡から魔力も魔法行使による元素の跡も検出されなかったことから、誰かが手動で爆破して石を盗んだと考えられた。」
ナツメは何かを考えるように聞いていた。
そして今度は閃いたように話をさえぎった。
「いや、ちょっと待ってください。」
「なんだ」
「爆発は1度だったんですよね?」
「報告書を見た限りだとそうだ。」
「石を盗むために爆破するのは分かるんですけど、そんな大規模な爆発を一度で…?しかも魔法も使わずに手動で?……無理でしょ!」
「そう思うよな。だが報告書にはそう記されていた。たぶん国は石のことは隠すつもりなんだろう。実際、あんな強力な爆発を起こせるものがあると他国に知られれば、新たな火種となり戦争が激化するだけだ。」
「っ………」
ナツメはなにか言おうとしたが、食いしばるように黙った。
「アル…」
突然のその声はベッドからだった。
「ベガ!」
「ベガちゃん!」
アルタイルとナツメが同時に駆け寄った。
目を覚ましたベガは、意識も鮮明で怪我も癒えていた。
「良かった、ベガ。本当に良かった…」
アルタイルは眉間に皺を寄せながらベガを抱き寄せた。
「あ、俺そろそろ行くっすね。ベガちゃんも目覚ましたんでついでにルナさんに言っときます。」
「あぁ、すまないな。」
ナツメは少し明るい顔で医務室を後にした。
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