君と世界にたった1杯の珈琲を

にもの

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1章・箱庭

9.ちゃんと大人になったよって言える世界のために。

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謹慎になってからベガは外に出ることがほとんどなかった。医務室にいることが多かったが、時々騎士団本部の棟内を歩き回ったりしていた。
その日は本部内を歩いており、ある部屋の前で立ち止まり、ノックをする。
「どうぞ。ってあれ?ベガちゃん?」
そこには包帯こそ減ったものの、まだベッドに横たわっているセレイドがいた。
髭を剃ることができていないからか、チクチクとした顎髭が前より一層目立っていた。
「セレイドさん……ご、ごめんなさい!ベガの…ベガのせいでこんな!」
「ベガちゃん、頭を上げてくれないか。」
ベガは勢いよく下げた頭を少しずつ起こした。
「俺、こないだ子供が産まれたんだよ。あの任務のちょっと前くらいにな。でさ、ベガちゃんが暴走しちゃった時、俺、父親になるんだって実感が湧いてきて、叱ってあげなきゃっていう意味わからん親心みたいなのに駆られてな。」
ベガは少し予想外だったというような顔をしていた。
「っていうのもさ、今回の子が次女で、2人目なんだ。長女は……生きていたら君くらいの歳だったろうな。」
「え…あっ……あの…」
ベガはなにか言おうとするが言葉が出ない。
「気にしなくていいって。長女が死んだのはベガちゃんのせいじゃないよ。あの子は病気で亡くなった。喧嘩別れって訳でもないんだが、少しだけ気まずい別れ方をしちゃってさ、たぶんその後悔があったからベガちゃんを長女に重ねちゃったのかもしれないな。ベガちゃんは団長にも認められてて、俺らみたいな下っ端兵士よりもよっぽど強いし才能もある。魔法が使えようが使えまいが関係なく君は強い。俺たちみたいな騎士団の兵士達はみんな君に期待してるんだよ。」
「せ…セレイドさん……」
ベガは涙で前が見えなくなってしまっていた。
「な、泣かないで!ちょ、俺が泣かしたみたいじゃん!いや俺が泣かしたけども!」
セレイドは部屋の中にいる他の患者の兵士の目を気にしながら言った。
「まぁとにかくさ、ベガちゃんまだ子供だし、ベガちゃんが何か今回みたいなことやらかしたら叱るのは俺ら大人の役目なんだよ。君はまだ間違ってもいい歳だ。今回のことも何も背負う必要は無い。団長にも叱られたろう?だからもういいんだよ。」
「でもベガは……」
ベガはまだ少し不安げだった。
「もういいって。この団に君より年下の子供なんて居ないんだ。俺達兵士が君に期待してる守ろうとする理由、分かるか?」
「……どうして?」
「2つあるんだけどな、まず1つ目は兵士としての思いだ。俺達は君より早く死ぬ。戦死だろうが寿命だろうがな。万が一俺達が居なくなっても、君に全部託す思いで戦ってんだ。」
「2つ目は?」
「2つ目は……そうだな、俺らが何のために戦ってるかっつーと、この何十年も続いてるクソみてぇな戦争を、自分達の代で終わらせて、次の世代の子達が普通に何不自由なく暮らせる未来を作りたいからだ。まぁ戦う目的なんざ人それぞれなんだろうけどな。平和であってくれって願ってんだよみんな。そんでその次の世代の子には、君も含まれてる。1つ目と矛盾してるだろ?俺もおかしいって思うよ。でも兵士としては託すって覚悟があって、1人の人間としては守りたいっていう思いがあるんだよ。」

「……うん。」
ベガは頬を伝う涙を腕で拭って小さな声で言った。

そして今度はセレイドが少し表情を変え、強い声で言った。

「だからさベガちゃん、もし君が俺達に何か負い目を感じてるなら、罪滅ぼしなんかよりも、君が成長して普通の女の子として過ごして、平和な世界でちゃんと大人になっている未来を、俺たちに見せてくれねぇかな。」

ベガは12歳だ。兵士としてはあまりにも若く、世間一般的に見ればまだ子供なのである。そんな小さな女の子に対して、セレイドは自分の娘のように接して言葉をかけた。

「……うん……」
ベガの声は震えていた。目からは涙が絶え間なく流れていた。しかし最初とは違い、しっかりとした目でセレイドの方を向いていた。

「ありがとうな、わざわざ来てくれて。俺はこの通り元気だから大丈夫だ。」

「セレイドさん、ベガは……いつか、いつになるか分からないけど、いつかきっと、ベガが…ちゃんと大人になったよってみんなに伝える…!!」

「あぁ!楽しみにしてるぜ!」
セレイドは歯を見せて笑った。
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