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1章・箱庭
10.力を扱う責任
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「ラーナさん」
「はい。」
ベガが名前を呼ぶと、ラーナは一瞬でそこに現れる。月明かりに照らされてラーナの蒼い大きな目の模様が輝いていた。
「答えが出たようですね。」
「答え……なんですけど、まだ自分でもこの力の正体が分からないんです。またみんなを傷つけてしまいかねない力で、自分でも危険だってわかってる。でも、ベガが戦う理由は、みんなにベガが大人になったってことを見せられる世界を作るため。だから、この力を扱えるようになればもっとみんなと一緒にいれるんじゃないかって思ったんです。」
「扱う…制御の意思さえ持てないそのどうしようも無い力をですか?」
ラーナの表情に圧が出た。
「……ベガも難しいことは分かってる。でも、強くなってみんなと一緒にいたい!」
ベガは押し切るように言い切った
「…わかりました。明日の朝、練習場に来てください。」
そう言い残すとラーナは医務室から消えた。
翌日、ベガが練習場にやってくると、ラーナはいつものようにメイドたる可憐な佇まいでそこに立っていた。
「おはようございます。ベガさん。」
「おはようございます……」
「前々から思っていたのですが、話しづらいのなら敬語は使わなくても大丈夫ですよ。私はただのメイドですので。」
ラーナは少し微笑んだ。
「うん。」
「それでは、早速ですがここにいる私を殺しにかかってきてください。」
ラーナはそう言ってベガに剣を与えた。練習用の木の剣などではなく、真剣だ。
ベガは困惑していた。
「ラーナ…怪我するよ…」
「ベガさんは私を心配して下さってるんですね。でも大丈夫です。あなたは私に剣どころか指1本触れることができませんので。」
ラーナは表情も立ち方も何一つ変えなかった。
「じゃあ…」
そう言ってベガは一瞬にしてラーナの背後をとった。
____つもりになっていた。
背後をとったように思ったが、気づけばベガは仰向けに倒れていた。
「え?」
思わず声が出た。
「驚きましたか?メイドたるもの、簡単な護身術は心得ているのですよ。さぁ、今度はこの前街ごと吹き飛ばしたあの力を使ってください。」
「(護身術……?そんなレベルじゃない…何も見えなかった…何も分からなかった…)……あの力……って、使い方がまだわからない。」
「いえ、分かるはずですよ。あなたはあなたの意思であの力を引き出したんです。」
「意思……そういえばあの時変な夢を見たような……」
「夢ですか。ならその夢の雰囲気だけでも思い出してください。」
ベガはガスで倒れていたあの時の夢を思い出そうとした。
何も無い白いだけの世界でもう一人の自分に力を貰う夢。
少しづつ記憶を辿ると共に、ベガの容姿は変貌を遂げ始めた。
「大きな黒い1本角…全身に黒い刺青のような模様、なるほど、まるで東の国の伝承たる鬼のようですね。」
「ぐぁっ…あああっ!ぐぁあああああっ!!」
ベガは何かに苦しみもがいているようだった。しばらくもがいた後、少し口角を上げて、狂気の笑いを浮かべながらラーナへ突進した。先程の動きとはまるで次元の違う速さだった。
しかし、気づくとまたベガはラーナの足元に転がっていた。姿も元に戻っている。
「はぁ…はぁ…はぁ…っ…はぁっ……また…?」
ベガは仰向けで大きく息を切らしていた。
「なるほど、制御できないというより、殺すことを快楽とした衝動に呑まれてしまう……といったところでしょうか。それに体力の消耗も激しいですね。」
ラーナは最初の位置からまったく動いておらず、佇まいは依然として可憐なメイドだった。
ベガは何が起きているのか全く理解出来ずにいた。
「ベガさんはあの姿になると、そういった強すぎる衝動を抑え込めないのでしょう。その原因は何か。」
「……抑え込めない原因?」
「簡単です。それは覚悟が弱いからです。」
「覚悟……?」
「はい。ベガさんが言った『みんなと一緒にいたい』という言葉、その『みんな』というものに対する覚悟が弱いのです。みんなを守る覚悟、みんなと共に戦う覚悟、この戦争に対する覚悟、諸々です。大きな力を扱おうとすると、その分大きな責任が伴います。何よりその責任を背負う覚悟が足りないということです。」
「力を扱う責任……」
「はい。ベガさんはまだ弱いのです。技術的にも精神的にも。この前ナツメ・スエナガ大隊長と模擬戦をしていましたね。どうやら互角程度に戦えていたようですが、それはスエナガ大隊長からしてみれば、あなたという特殊すぎる人間と戦うということ自体が初見だらけだったからでしょう。あの方は本来であれば私の知る限りでも類を見ない強さです。それ故の大隊長なのです。ベガさんは弱いのです。私はただのメイドですが、あなたは私に指1本触れられません。それが何よりの証拠です。」
「……そう…だったんだ。」
ベガは心の中のモヤモヤがストンと腑に落ちたようで、表情の曇りが少し晴れていた。
「さぁ、もう一度やってみましょう。この半年という謹慎期間でその力をモノにするのです。」
「うん!」
ベガはもう一度強く剣を構え、鬼のような姿になった。
「はい。」
ベガが名前を呼ぶと、ラーナは一瞬でそこに現れる。月明かりに照らされてラーナの蒼い大きな目の模様が輝いていた。
「答えが出たようですね。」
「答え……なんですけど、まだ自分でもこの力の正体が分からないんです。またみんなを傷つけてしまいかねない力で、自分でも危険だってわかってる。でも、ベガが戦う理由は、みんなにベガが大人になったってことを見せられる世界を作るため。だから、この力を扱えるようになればもっとみんなと一緒にいれるんじゃないかって思ったんです。」
「扱う…制御の意思さえ持てないそのどうしようも無い力をですか?」
ラーナの表情に圧が出た。
「……ベガも難しいことは分かってる。でも、強くなってみんなと一緒にいたい!」
ベガは押し切るように言い切った
「…わかりました。明日の朝、練習場に来てください。」
そう言い残すとラーナは医務室から消えた。
翌日、ベガが練習場にやってくると、ラーナはいつものようにメイドたる可憐な佇まいでそこに立っていた。
「おはようございます。ベガさん。」
「おはようございます……」
「前々から思っていたのですが、話しづらいのなら敬語は使わなくても大丈夫ですよ。私はただのメイドですので。」
ラーナは少し微笑んだ。
「うん。」
「それでは、早速ですがここにいる私を殺しにかかってきてください。」
ラーナはそう言ってベガに剣を与えた。練習用の木の剣などではなく、真剣だ。
ベガは困惑していた。
「ラーナ…怪我するよ…」
「ベガさんは私を心配して下さってるんですね。でも大丈夫です。あなたは私に剣どころか指1本触れることができませんので。」
ラーナは表情も立ち方も何一つ変えなかった。
「じゃあ…」
そう言ってベガは一瞬にしてラーナの背後をとった。
____つもりになっていた。
背後をとったように思ったが、気づけばベガは仰向けに倒れていた。
「え?」
思わず声が出た。
「驚きましたか?メイドたるもの、簡単な護身術は心得ているのですよ。さぁ、今度はこの前街ごと吹き飛ばしたあの力を使ってください。」
「(護身術……?そんなレベルじゃない…何も見えなかった…何も分からなかった…)……あの力……って、使い方がまだわからない。」
「いえ、分かるはずですよ。あなたはあなたの意思であの力を引き出したんです。」
「意思……そういえばあの時変な夢を見たような……」
「夢ですか。ならその夢の雰囲気だけでも思い出してください。」
ベガはガスで倒れていたあの時の夢を思い出そうとした。
何も無い白いだけの世界でもう一人の自分に力を貰う夢。
少しづつ記憶を辿ると共に、ベガの容姿は変貌を遂げ始めた。
「大きな黒い1本角…全身に黒い刺青のような模様、なるほど、まるで東の国の伝承たる鬼のようですね。」
「ぐぁっ…あああっ!ぐぁあああああっ!!」
ベガは何かに苦しみもがいているようだった。しばらくもがいた後、少し口角を上げて、狂気の笑いを浮かべながらラーナへ突進した。先程の動きとはまるで次元の違う速さだった。
しかし、気づくとまたベガはラーナの足元に転がっていた。姿も元に戻っている。
「はぁ…はぁ…はぁ…っ…はぁっ……また…?」
ベガは仰向けで大きく息を切らしていた。
「なるほど、制御できないというより、殺すことを快楽とした衝動に呑まれてしまう……といったところでしょうか。それに体力の消耗も激しいですね。」
ラーナは最初の位置からまったく動いておらず、佇まいは依然として可憐なメイドだった。
ベガは何が起きているのか全く理解出来ずにいた。
「ベガさんはあの姿になると、そういった強すぎる衝動を抑え込めないのでしょう。その原因は何か。」
「……抑え込めない原因?」
「簡単です。それは覚悟が弱いからです。」
「覚悟……?」
「はい。ベガさんが言った『みんなと一緒にいたい』という言葉、その『みんな』というものに対する覚悟が弱いのです。みんなを守る覚悟、みんなと共に戦う覚悟、この戦争に対する覚悟、諸々です。大きな力を扱おうとすると、その分大きな責任が伴います。何よりその責任を背負う覚悟が足りないということです。」
「力を扱う責任……」
「はい。ベガさんはまだ弱いのです。技術的にも精神的にも。この前ナツメ・スエナガ大隊長と模擬戦をしていましたね。どうやら互角程度に戦えていたようですが、それはスエナガ大隊長からしてみれば、あなたという特殊すぎる人間と戦うということ自体が初見だらけだったからでしょう。あの方は本来であれば私の知る限りでも類を見ない強さです。それ故の大隊長なのです。ベガさんは弱いのです。私はただのメイドですが、あなたは私に指1本触れられません。それが何よりの証拠です。」
「……そう…だったんだ。」
ベガは心の中のモヤモヤがストンと腑に落ちたようで、表情の曇りが少し晴れていた。
「さぁ、もう一度やってみましょう。この半年という謹慎期間でその力をモノにするのです。」
「うん!」
ベガはもう一度強く剣を構え、鬼のような姿になった。
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