君と世界にたった1杯の珈琲を

にもの

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1章・箱庭

12.前線の殺戮者

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「ぐはぁ!」

1人

「ああああああああぁぁぁ!」

また1人

「来るな……こっちに来r...」

また1人と

いつからか、殺す人数が増えていけばいくほど、この殺意がどこに向けられたものなのか分からなくなり始めた。
最初は躊躇した。人を剣で切りつける気色の悪い感触、飛び散る返り血に残る温かみ、戦場に転がる幾千もの死体から漂う酷い臭い、魔法による爆発がそこらじゅうで起きる度に飛び散る肉片と血の雨。これが戦争なのかと思った。
敵が命乞いをするようになると、俺は強いのだと実感する。

「来い、早く来いクロード。俺は貴様をぶち殺すために前線にいる。」

_____________

「こちら第1大隊、敵魔剣士がこちらに迫っている。」
「1人???まぁいい、やれ。」
「了解。」
そう言って王国軍の兵士、ライド・ネクロが剣を構えた。彼はナツメと同じ大隊長という立場にあり、帝国軍国境の前線に長く配属されている。
その長い経験と大隊長まで登り詰めた魔法と剣のセンスは王国魔剣士団の中でも随一だった。

「おいそこの帝国兵!止まれ!」
ライドが剣を構え、魔法を放った。

敵はたった1人の帝国兵だった。
だが、その帝国兵はライドの魔法を軽く素手で流し、瞬きよりも早くライドをぐちゃぐちゃに切り刻んでしまった。当然、ライドは細かい肉片となり飛び散った。

「大隊長!」
そう叫んだライドの部下の1人がその帝国兵の顔を見て恐怖で顔が青ざめた。
「お、おい、、聞いてないぞ、、なんで!なんでここに……『前線の殺戮者』がいるんだよ!!おい!全員退避だ!!!」
王国兵士が叫ぶと、隊長を失った大隊は散り散りになって逃げ出した。
しかしその帝国兵の前では鈍足すぎた。またもや一瞬にしてほとんど全員が殺されたのだ。ある者は首と胴が泣き別れ、ある者は縦に体を裂かれ、またある者は身体が内側から爆発するように散った。

「アッ……アァ……ッ……」
しかしたった1人、四肢を切り落とされて生かされていた。声を発するだけでやっとのようだ。
「クロードは前線ここにいるのか?」
帝国兵が鈍い声で聞いた。その時、四肢を切り落とされた王国兵はようやくハッキリとその帝国兵の姿を見た。
真っ黒の髪に傷だらけの顔の男だった。体つきはそこまで筋肉質でもなく、むしろ細い方で、目は傷が重なってか右目が白くなっている。左目が深い青色をしていることから察するに、右目も本来は深い青色だったのだろう。

「クロ……ード……ア…ルタイ…ル……団……長」
兵士はやっとの思いで呂律を回そうとした。
「そうだ、クロードアルタイルだ。奴はこの前線に来ていないのか?どうなんだ。」
男は依然、無気力な話し方だったが、異様にアルタイルに執着していた。
「団長……は……い……ない……」
「……そうか。」
男は王国兵士の胸を一突きにして殺した。

翌日、すぐさまこの一連の話が王国軍本部へ通達された。開かれた会議に出席したのは国と軍を担う重鎮揃いで、

王国軍元帥であるヘイプス・ノアール

王国軍魔剣士団団長のクロード・F・アルタイル、

王国軍魔導師団団長のフレン・ポルックス、

王国軍特殊隠密部隊のラーナ・シリウス

41代目イリアス王国現女王であるローラ・ラスティウラ・イリアス国王その人。

他にも軍に纏わる大臣や上級家紋を持つ何名かの役員がいた。

「皆知っての通り、ライド・ネクロの大隊が消滅した。」
ここでノアール元帥が消滅という言葉を使ったのは、それが戦いと言うにはあまりにも一方的な蹂躙であったからだ。
「また前線の殺戮者ですか……」
そう言って魔導師団団長のフレンがため息をついた。

王国軍は魔導師団、魔剣士団、特殊隠密部隊の大きく3つに分けられ、魔法によって支援を行ったり、主に魔法のみでの戦闘を行う魔導師、そこへ剣士の要素が入り、闘いに特化したものが魔剣士、そして特殊隠密部隊は分類としては軍の中に入るが、実際はローラ国王直属の部隊であり、その全貌はローラ国王本人しか把握しておらず、何人いるのかさえ不明だ。

何でも噂では国王のメイドを中心とした構成だという。

「あの方も執着が強いようですよ、アルタイルさん。」
ラーナがアルタイルを横目に笑った。

「あぁ、分かっている。アレは我々王国魔剣士団のだ。早々に償わせ無ければならない。」
アルタイルはいつになく神妙な顔をしている。
「そろそろ本格的に帝国をどうにかすべきです、元帥!奴1人だけでどれだけの損害を被ったかお分かりですか!」
役員のひとりが声を荒らげた。
「わかっておる。あの愚か者を止めん限りは終わる戦いも終わらんことも。」
「元帥、私が行きます。」
アルタイルが言った。
「あの怪物は私達が造り上げたようなものです。アレを償わせることが、我々の償いです。」
場は静まり返る。

「アルタイル」
それまで何も言わなかった女王ローラが口を開いた。その高貴なよく通る声と虹色に乱反射する瞳、そしてまるっきり天使のような佇まいが場を凍りつかせる。
「はい。」
アルタイルも凍りついたように冷たい返事をする。
「どうか、あの愚か者の首を跳ねてください。」
国王とはとても思えないようなその言葉と発言に、場はより一層重たい空気がのしかかった。
その後、そのたった一人の帝国兵を討つためだけに詳しい作戦会議が引き続き行われ、重たく冷たい凍てついた重鎮会議が幕を閉じた。
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