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1章・箱庭
13.作戦準備
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会議から数日後、イリアス王国軍本部敷地内の大きな広場に全部隊兵士が整列していた。
突然全兵士への一斉招集がかかったのだ。
「諸君、よく集まってくれた。」
ノアール元帥が壇上に立ち、威厳のある太い声を響かせた。
「こうして全員を集めたのは、他でもない、帝国との国境付近に位置するラグウン自治区を奪還する為の作戦に、諸君らの助けが必要だからだ。ラグウン自治区は12年前に帝国によって落とされ、以来帝国支配下となっている街である。諸君らの中には知るものもいるだろう、12年前の激戦、たったの一日で両国に70万の死者を出し、たった1人の男によって戦いは敗北に終わった。しかし我々はあの時のまま止まってはいられない。もう一度、この王国軍を挙げてあの土地を我らのものとして取り返すのだ!」
元帥がそう声を張り上げて士気を高めるべく話を終えると、何人かの兵士がコソコソと話し出した。
「両国で死者70万??ラグウン自治区の激戦って確か王国側は10人の精鋭だけで戦ったんじゃなかったか?」
「あぁ、俺もそう聞いてる。」
そんな兵士達の話を遮るように、元帥の後ろに立っていたアルタイルが壇上の真ん中に立ち、声を張り上げた。
「12年前のラグウン自治区の激戦、あれは元々王国軍約43万人の兵力で挑んだ作戦だ。最後に残った王国軍兵士が、私を含む10人のみだったというだけの話だ。勘違いをするな!そして頼りすぎるな!お前達は全員が仲間であり、全員が守る対象であると自覚しろ!あの時の10人の精鋭のうち今ここにいるのは何人だ?!その目でよく見ろ!強い者に頼りすぎるな。自分自身を信じて戦え。そして守りたいものは自分の手で守れ!!!」
アルタイルは兵士達の本音を知っていたのだ。どうせまたアルタイルやナツメやフレンがどうにかするだろうと、どこかにそういう考えがある者は少なくなかったのだ。
12年前の惨劇を知るからこそ、アルタイルはその惨劇を兵士の怠惰で繰り返すことはしたくなかったという思いだった。
そしてアルタイルが話を終えた後、整列した兵士たちの士気はより一層高まっていた。
伝えられた作戦は『ラグウン奪還作戦』と名付けられた。しかし実際の目的は、前線の殺戮者と呼ばれている男ただ1人を討つための作戦だった。
その後医務室へ戻ったアルタイルはベガにも作戦を伝えた。
「ベガは今謹慎中だが、あと4ヶ月ほどで謹慎が解ける。今言った作戦の実行は3ヶ月後、つまりベガは参加出来ない。だがベガは私の跡を継ぐ者だ。この作戦は私の過去と密接に関わっている。つまりベガにも少し知っておいて欲しいんだ。もし私に何かあった時の為にもな。」
「アル……?アルは死なないよね?強いんでしょ?」
「あぁ、死なないよ。」
そう言ってアルタイルはベガの頭に手を置いた。
「12年前、第二次魔境戦争の終わりかけの頃だ。帝国と王国の国境付近にラグウンという街があってな、そこは王国の領土だった。だがある日、ラグウンの町に帝国が攻めてきた。王国もそれを迎え撃ち、たった一日で戦いが終わった。たった1人の男によってな。その男は今も帝国で生きている。私にはその男を討つ責任があるんだ。」
「その男って、、、誰なの?」
ベガは聞いてしまった。アルタイルがなにか大事な部分を口に出そうとしない気がしたからだ。
「元王国軍兵、クロノ・アンタレス…。現在は帝国兵となり、前線の殺戮者とまで呼ばれる程に恐れられている。今となっては倒すべき敵に間違いはない。」
「元王国軍兵?! 」
ベガが驚いたように言った。
「あぁ。他でもない、ラグウンの街の惨劇は奴の裏切りによって引き起こされたのだからな。」
「アル、勝てるよね?」
ベガは不安そうな目をしている。
「あぁ、勝つ。勝って戻る。その時はまたここでルナの入れた珈琲を飲もう。」
「いい豆挽いて待ってるわよアルちゃん。」
話を聞いていたのか、後ろの方からルナが言った。
そしてベガとアルタイルは少し笑った。
その後、3ヶ月という期間は長いようでとても短く、文字通り一瞬で過ぎ去った。その間ベガは相変わらずラーナと共に特訓に明け暮れていたが、そのラーナも作戦に加わらなければならず、ベガはその後自主練をすることになった。
ラーナとは、最後に特訓した日にまたいつものようにラーナの部屋でお茶を飲んでいる時に話していた。
「ラーナも行っちゃうんだね。」
「はい。心配は必要ありません。ですからそんな不安な顔をしなくても大丈夫ですよ。」
ラーナはいつものように作ったような笑顔で言った。
「そう…だよね!頑張ってね!」
ベガはそう言ってラーナの作ったサンドイッチを頬ばった。
突然全兵士への一斉招集がかかったのだ。
「諸君、よく集まってくれた。」
ノアール元帥が壇上に立ち、威厳のある太い声を響かせた。
「こうして全員を集めたのは、他でもない、帝国との国境付近に位置するラグウン自治区を奪還する為の作戦に、諸君らの助けが必要だからだ。ラグウン自治区は12年前に帝国によって落とされ、以来帝国支配下となっている街である。諸君らの中には知るものもいるだろう、12年前の激戦、たったの一日で両国に70万の死者を出し、たった1人の男によって戦いは敗北に終わった。しかし我々はあの時のまま止まってはいられない。もう一度、この王国軍を挙げてあの土地を我らのものとして取り返すのだ!」
元帥がそう声を張り上げて士気を高めるべく話を終えると、何人かの兵士がコソコソと話し出した。
「両国で死者70万??ラグウン自治区の激戦って確か王国側は10人の精鋭だけで戦ったんじゃなかったか?」
「あぁ、俺もそう聞いてる。」
そんな兵士達の話を遮るように、元帥の後ろに立っていたアルタイルが壇上の真ん中に立ち、声を張り上げた。
「12年前のラグウン自治区の激戦、あれは元々王国軍約43万人の兵力で挑んだ作戦だ。最後に残った王国軍兵士が、私を含む10人のみだったというだけの話だ。勘違いをするな!そして頼りすぎるな!お前達は全員が仲間であり、全員が守る対象であると自覚しろ!あの時の10人の精鋭のうち今ここにいるのは何人だ?!その目でよく見ろ!強い者に頼りすぎるな。自分自身を信じて戦え。そして守りたいものは自分の手で守れ!!!」
アルタイルは兵士達の本音を知っていたのだ。どうせまたアルタイルやナツメやフレンがどうにかするだろうと、どこかにそういう考えがある者は少なくなかったのだ。
12年前の惨劇を知るからこそ、アルタイルはその惨劇を兵士の怠惰で繰り返すことはしたくなかったという思いだった。
そしてアルタイルが話を終えた後、整列した兵士たちの士気はより一層高まっていた。
伝えられた作戦は『ラグウン奪還作戦』と名付けられた。しかし実際の目的は、前線の殺戮者と呼ばれている男ただ1人を討つための作戦だった。
その後医務室へ戻ったアルタイルはベガにも作戦を伝えた。
「ベガは今謹慎中だが、あと4ヶ月ほどで謹慎が解ける。今言った作戦の実行は3ヶ月後、つまりベガは参加出来ない。だがベガは私の跡を継ぐ者だ。この作戦は私の過去と密接に関わっている。つまりベガにも少し知っておいて欲しいんだ。もし私に何かあった時の為にもな。」
「アル……?アルは死なないよね?強いんでしょ?」
「あぁ、死なないよ。」
そう言ってアルタイルはベガの頭に手を置いた。
「12年前、第二次魔境戦争の終わりかけの頃だ。帝国と王国の国境付近にラグウンという街があってな、そこは王国の領土だった。だがある日、ラグウンの町に帝国が攻めてきた。王国もそれを迎え撃ち、たった一日で戦いが終わった。たった1人の男によってな。その男は今も帝国で生きている。私にはその男を討つ責任があるんだ。」
「その男って、、、誰なの?」
ベガは聞いてしまった。アルタイルがなにか大事な部分を口に出そうとしない気がしたからだ。
「元王国軍兵、クロノ・アンタレス…。現在は帝国兵となり、前線の殺戮者とまで呼ばれる程に恐れられている。今となっては倒すべき敵に間違いはない。」
「元王国軍兵?! 」
ベガが驚いたように言った。
「あぁ。他でもない、ラグウンの街の惨劇は奴の裏切りによって引き起こされたのだからな。」
「アル、勝てるよね?」
ベガは不安そうな目をしている。
「あぁ、勝つ。勝って戻る。その時はまたここでルナの入れた珈琲を飲もう。」
「いい豆挽いて待ってるわよアルちゃん。」
話を聞いていたのか、後ろの方からルナが言った。
そしてベガとアルタイルは少し笑った。
その後、3ヶ月という期間は長いようでとても短く、文字通り一瞬で過ぎ去った。その間ベガは相変わらずラーナと共に特訓に明け暮れていたが、そのラーナも作戦に加わらなければならず、ベガはその後自主練をすることになった。
ラーナとは、最後に特訓した日にまたいつものようにラーナの部屋でお茶を飲んでいる時に話していた。
「ラーナも行っちゃうんだね。」
「はい。心配は必要ありません。ですからそんな不安な顔をしなくても大丈夫ですよ。」
ラーナはいつものように作ったような笑顔で言った。
「そう…だよね!頑張ってね!」
ベガはそう言ってラーナの作ったサンドイッチを頬ばった。
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