君と世界にたった1杯の珈琲を

にもの

文字の大きさ
14 / 32
1章・箱庭

13.作戦準備

しおりを挟む
会議から数日後、イリアス王国軍本部敷地内の大きな広場に全部隊兵士が整列していた。
突然全兵士への一斉招集がかかったのだ。
「諸君、よく集まってくれた。」
ノアール元帥が壇上に立ち、威厳のある太い声を響かせた。
「こうして全員を集めたのは、他でもない、帝国との国境付近に位置するラグウン自治区を奪還する為の作戦に、諸君らの助けが必要だからだ。ラグウン自治区は12年前に帝国によって落とされ、以来帝国支配下となっている街である。諸君らの中には知るものもいるだろう、12年前の激戦、たったの一日で両国に70万の死者を出し、たった1人の男によって戦いは敗北に終わった。しかし我々はあの時のまま止まってはいられない。もう一度、この王国軍を挙げてあの土地を我らのものとして取り返すのだ!」
元帥がそう声を張り上げて士気を高めるべく話を終えると、何人かの兵士がコソコソと話し出した。
「両国で死者70万??ラグウン自治区の激戦って確か王国側は10人の精鋭だけで戦ったんじゃなかったか?」
「あぁ、俺もそう聞いてる。」
そんな兵士達の話を遮るように、元帥の後ろに立っていたアルタイルが壇上の真ん中に立ち、声を張り上げた。
「12年前のラグウン自治区の激戦、あれは元々王国軍約43万人の兵力で挑んだ作戦だ。最後に残った王国軍兵士が、私を含む10人のみだったというだけの話だ。勘違いをするな!そして頼りすぎるな!お前達は全員が仲間であり、全員が守る対象であると自覚しろ!あの時の10人の精鋭のうち今ここにいるのは何人だ?!その目でよく見ろ!強い者に頼りすぎるな。自分自身を信じて戦え。そして守りたいものは自分の手で守れ!!!」
アルタイルは兵士達の本音を知っていたのだ。どうせまたアルタイルやナツメやフレンがどうにかするだろうと、どこかにそういう考えがある者は少なくなかったのだ。
12年前の惨劇を知るからこそ、アルタイルはその惨劇を兵士の怠惰で繰り返すことはしたくなかったという思いだった。
そしてアルタイルが話を終えた後、整列した兵士たちの士気はより一層高まっていた。

伝えられた作戦は『ラグウン奪還作戦』と名付けられた。しかし実際の目的は、前線の殺戮者と呼ばれている男ただ1人を討つための作戦だった。

その後医務室へ戻ったアルタイルはベガにも作戦を伝えた。
「ベガは今謹慎中だが、あと4ヶ月ほどで謹慎が解ける。今言った作戦の実行は3ヶ月後、つまりベガは参加出来ない。だがベガは私の跡を継ぐ者だ。この作戦は私の過去と密接に関わっている。つまりベガにも少し知っておいて欲しいんだ。もし私に何かあった時の為にもな。」
「アル……?アルは死なないよね?強いんでしょ?」
「あぁ、死なないよ。」
そう言ってアルタイルはベガの頭に手を置いた。
「12年前、第二次魔境戦争の終わりかけの頃だ。帝国と王国の国境付近にラグウンという街があってな、そこは王国の領土だった。だがある日、ラグウンの町に帝国が攻めてきた。王国もそれを迎え撃ち、たった一日で戦いが終わった。たった1人の男によってな。その男は今も帝国で生きている。私にはその男を討つ責任があるんだ。」
「その男って、、、誰なの?」
ベガは聞いてしまった。アルタイルがなにか大事な部分を口に出そうとしない気がしたからだ。
「元王国軍兵、クロノ・アンタレス…。現在は帝国兵となり、前線の殺戮者とまで呼ばれる程に恐れられている。今となっては倒すべき敵に間違いはない。」
「元王国軍兵?! 」
ベガが驚いたように言った。
「あぁ。他でもない、ラグウンの街の惨劇は奴の裏切りによって引き起こされたのだからな。」
「アル、勝てるよね?」
ベガは不安そうな目をしている。
「あぁ、勝つ。勝って戻る。その時はまたここでルナの入れた珈琲を飲もう。」
「いい豆挽いて待ってるわよアルちゃん。」
話を聞いていたのか、後ろの方からルナが言った。
そしてベガとアルタイルは少し笑った。

その後、3ヶ月という期間は長いようでとても短く、文字通り一瞬で過ぎ去った。その間ベガは相変わらずラーナと共に特訓に明け暮れていたが、そのラーナも作戦に加わらなければならず、ベガはその後自主練をすることになった。
ラーナとは、最後に特訓した日にまたいつものようにラーナの部屋でお茶を飲んでいる時に話していた。
「ラーナも行っちゃうんだね。」
「はい。心配は必要ありません。ですからそんな不安な顔をしなくても大丈夫ですよ。」
ラーナはいつものように作ったような笑顔で言った。
「そう…だよね!頑張ってね!」
ベガはそう言ってラーナの作ったサンドイッチを頬ばった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...