君と世界にたった1杯の珈琲を

にもの

文字の大きさ
18 / 32
1章・箱庭

17.不死身のど素人。

しおりを挟む
「なんせ興が冷めたのに変わりはねぇ。本当に降参でいいんだな?」
「……はい。殺すなり捕虜にするなりご自由にして頂いて構いません。」
「あぁそう。まぁこれは別に俺らの知ったことじゃねぇけどさ、魔導師団副団長なんて人が急に居なくなったら、帝国軍も大慌てなんじゃねないの?」
「そうですね。しかし、私には自分の初恋の相手を斬るなどという惨いことはできません。」
「……じゃあ今ここで俺がお前を殺すって言っても同じこと言えんのか?」
ナツメの言葉にファーレは膝をつき、首を差し出すように屈んで少し表情を変えた。
「………後悔が無いと言えば嘘になります、もちろん私だって死にたくはありませんもの。ですがこのような気持ちを持ってしまった時点で私の負けなのです。殺すのならどうか一思いに斬って頂ければ。」
「なるほどな。もういい。お前は捕虜にする。俺としちゃこの火傷のおとしまいつけて欲しいところだでもあるけどな。ただ、恐らく捕虜にした方が敵を釣れる気がする。あんた、言葉遣いだの振る舞いだのから察するに、帝国じゃそこそこの身分なんだろ?」
「なるほど……分かりました。良いでしょう。」
ファーレは立ち上がり、両手を差し出した。
「下手な真似はすんなよ?まだ俺はお前を信用してる訳じゃねぇからな。」
ナツメはファーレを睨みつけて手枷の魔道具をファーレの腕に着けた。


一方その頃、ナツメから1キロほど離れた場所では、ラーナが戦場を無表情で歩いていた。ラーナが歩いている場所、その足元には沢山の死体、誰のものかわからない体の部位、血に染った剣がそこらじゅうに転がっている。全て王国兵のものだ。
ラーナが歩く先には一人の男が立っていた。目は大きく狂気に満ちた表情の男だ。
男には、顔を縦に大きく割くように縫い目が入っている。
「これは……全てあなたがやったと思っていいんですね。」
「……あぁ?誰あんた。メイド?ブッハハハハ!マジかよ?!王国も人手不足なんだなぁ!」
男はラーナの姿を見てヘラヘラ笑っている。
「不愉快です。」
ラーナはそう言うと一瞬で男の首をかき斬ってしまった。男の首からは血飛沫が飛び、男は倒れた。

ラーナはその場から去ろうとした。
しかしその時、首を斬って殺したはずの男が立ち上がったのだ。
「あーあ、メイドさん速いねぇぇww。俺久々に首斬られたわ。でもざぁんねぇん!俺死なないのw」
「そうですか。それは……なんとも可哀想ですね、同情します。」
ラーナは振り向いて笑った。
「可哀想?俺が?なんで」
男は急に血相を変えた。
「俺ァ不死身だぞ!帝国の宮廷魔剣士、不死身のカインだ……俺を殺せる奴は居ねぇんだよ……!舐めてんじゃねぇぞクソアマァァ!!」
そう言って男はラーナに向かって突進してきた。しかし男の剣は尽くラーナには当たらなかった。
「不死身のカインさんですか……なんというかまぁ、陳腐な2つ名ですね。不死身なだけで剣はお粗末、死なないからいずれ剣を当てれば相手を殺せるというだけでしょう。でも当たらなければ不死身だろうがあなたはまるでど素人ですよ?」
ラーナはカインと名乗る男が振り回す剣を可憐に避けながら喋っていた。
「舐めんじゃねぇ!クソが!このォ!ガァァァァァ!!クソッ!」
カインは頭に血がのぼり、叫びながら剣を振り回している。
「うるさい……不愉快極まりないです……」
ラーナは蔑むような顔をして突然速くなり、カインのみぞおちに綺麗な蹴りを入れた。

「グゴォ……」

カインはもろに受けてしまい、その場にうずくまった。

「……あなた、それで魔剣士を名乗っていたんですか……?剣の扱いはお粗末、剣に込められた魔力も魔法のバフも申し訳程度、挙句立ち回りがど素人な上に頭に血が上って暴れるだけ…………まるで理性を覚える前の子供ですね…」
ラーナは蔑むような目で男を見下ろしていた。もはやいつもの作ったような笑顔は見る影もない。
そしてうずくまって唸るカインの頭を足で踏んづけて続けた。
「あなたがこれまで生き残ってきた理由は単純明快、致命傷になるような攻撃を受けても死なないからですよ。恐らく自分より弱い相手をいたぶるような戦い方しかしてこなかったんでしょう……だから自分より強い相手にはまるで手も足も出ないと……。その不死身という能力、どこで手に入れたのか知りませんが、過信し過ぎです。あまりにも愚か……」
カインは恐怖からか、目から涙を流しはじめた。自分が負け、このままではまずいと感じているようだった。しかしラーナの蹴りがみぞおちにモロに入ってしまい、唸ることしかできない。
「ところでその不死身という能力……少し興味があります。痛みはあるようですが、どんなに刺しても斬っても死なないんでしょうか……それともある一定のダメージのみを無効化しているのか……だとすると細かく微塵切りにすれば死ぬのでしょうか……?」
ラーナはそう言ってニヤけているが、目が全く笑っていない。

「……うぅ……や……やめ………て……くd……」

男は呂律も回っていないようで、ただひたすらみぞおちの痛みと恐怖に苦しんでいた。
「黙れ。誰が喋っていいと言ったんですか」
ラーナはカインを踏みつける力を強くした。

「た……たすけ……r」

カインはラーナに踏まれながらも、恐怖のあまり必死のようだった。

「そんなに助けて欲しいんですか……必死ですね。じゃあいいですよ、助けてあげます。」
ラーナのその言葉にカインは少し喜んだような表情を浮かべた。しかしその期待は一瞬で砕かれた。
「ただし先程言ったように、私不死身というものに興味がありまして、少し色々と試してみたいので、私が満足するまで付き合ってくれたら、逃がしてあげます。」
ラーナはまた少しニヤけているが、目は相変わらず全く笑っていない。
同時にカインの表情は絶望そのものだった。

その後、カインはラーナに何度も何度も色々な方法で殺され続け、その数は数百回にも至った。

この『不死身』という謎の能力が一体なんなのか、それはまた後に波乱を巻き起こす種になるとは、まだ誰も知らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...