君と世界にたった1杯の珈琲を

にもの

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1章・箱庭

19.お前の背中しか見えなかった数十年

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2人は目では追えない速さで剣をぶつけ合い続けた。

「なぁクロノ、お前は私を殺すということが目的になっているんじゃないか。」
アルタイルはクロノの剣を介して言う。
「何を言っている。俺は端からそれだけが目的だ。」
「本当か?12年前と言っていることが違うぞ。」
「12年前の話なんぞ忘れた。俺はお前を殺す。それだけが俺の目的だ。」
クロノはそう言ってアルタイルの剣を弾き返した。

「……12年前、お前は自分の弱さに嘆いていた。自分が弱いから妹を守れなかったという理由で、私を殺してセシアを弔うと言った……。」
「妹の話はするなと言ったはずだ!それにそんなことは覚えていない!」
いつもは無気力な話し方だったクロノが突然アルタイルの言葉に被せるように声を荒らげた。
「お前……本当にクロノか?」
アルタイルは自分の知るクロノとの差に驚き、思わず口からそんな言葉が溢れてしまった。
「俺はクロノ・アンタレスだ……。」
クロノは少し俯いて言った。
アルタイルは違和感を覚え、自分の知らない何かがあると踏み、尋ねた。

「教えろ。12年前お前に何があった、クロノ。」

「その質問に答える道理は無い。俺はお前を殺すだけだ。」

クロノが俯いていた顔を上げると、首から顎にかけて黒い刻印の刺青のようなものが広がっていた。

「なんだそれは。」
アルタイルは目付きを変えて言った。
「お前は知らなくていい。」
クロノもそう言うと目付きを変えた。

(刻印の刺青…?痣か?フォーマルハウトで見たベガのものと似ている……。どういう事だ。)
アルタイルは顔をしかめて剣を構えた。
その時、クロノがアルタイルに頭上から剣を振り落としてかかってきた。

「クッ……!」
アルタイルは剣で受けて食いしばった。
さっきまでクロノの剣を受けてさばいていたアルタイルが、受けきれずに咄嗟に体を捻ってクロノの剣を流したのだ。

「どうしたクロード。さっきまでの戦いぶりはどこへ行った。」
クロノの痣はどんどんと広がっていった。
アルタイルが受け流したクロノの一撃は地面を割り、断層ずれでも起こしたかのように地面には大きな亀裂が走った。

「クロノお前……この力…やっぱり何かあったんだな……。」
アルタイルは衝撃を流しきれずに痺れた左手を握った。
「喋ってる暇はないぞクロード!」
そう叫んでまたクロノは斬りかかってくる。剣に付与された魔法も強くなっているようで、アルタイルが衝撃を流しても強い重力によって生じる攻撃の重さのあまり、流しきれていなかった。

(クッ…手首が…!)
アルタイルは先程のクロノの重い一撃で痛めた左手首に、攻撃を受けるたびに響くように激痛が走るようだった。
「どうした?その程度か!!」
クロノは自分が優勢であることが心地いいのか、少し笑っているようだった。
同時に、首から顎にかけての刻印の刺青がどんどんと広がって、いつの間にか顔の頬あたりまで広がっていた。

「クソッ……仕方ない…」
アルタイルは少し悔しそうに舌打ちをすると、改めるように剣を構え直した。

終焉の豪炎フィーニスインフェルノ

アルタイルが詠唱して少しの間の後、突如としてアルタイルの周囲に陽炎が見え始め、とてつもない、文字通りの豪炎がアルタイルを包んだ。
アルタイルの右目には魔法陣のようなものが浮かび上がり、剣が纏っていた炎もアルタイルを取り巻く豪炎に吸い込まれてしまった。

この状態になったアルタイルは、魔力量が膨大に跳ね上がり、桁違いの強さを得る代わりに、無理やり身体のリミッターを外すため長くは持たない。さらに後の反動が大きすぎて頻繁に使うことができないのだ。



「使ったなクロード!終焉の豪炎!!お前の背中しか見えなかった十数年だったが、ここに来て俺はようやくお前に本気を出させることが出来たみたいだ……!!そして俺はそんな本気になったお前をぶっ殺す!!」
「黙れ。さっさとかかってこい。」
アルタイルがそう言うと、クロノは嬉しそうに笑いながら突進してきた。もはや顔の下半分を刻印の刺青が犯している。

そしてまた何度もぶつかり合う2人。
次第に周囲は2人の戦いの影響でどんどんとめちゃくちゃになっていく。
剣がぶつかる度に炎が燃え広がり、暖かい衝撃波が走る。速さも2人とも格段に上がっていた。

支配インペリウム
アルタイルが詠唱すると、アルタイルの右目の魔法陣が少し光った。

深淵アビス
アルタイルの詠唱と同時にクロノも詠唱した。そしてクロノの剣は真っ黒に変色した。

アルタイルの支配という魔法は、その名の通り支配者という意味だ。一定時間の間、アルタイルに敵意を持つ者は、武力、思考、その他のあらゆる面においてアルタイルより上には立てない。言わばアルタイル自身が最強の名を冠する魔法だった。

対してクロノが発動した深淵という魔法は、クロノが相手を殺したいと思えば思うほどその力を増す。つまり、クロノの殺意が深ければ深いほど、その深さの分だけ強くなるという物だった。

「私の支配とお前の深淵、果たしてどちらが上か……」

クロノとアルタイルはまたぶつかり合った。そしてそれは先程とは比べ物にならない威力だった。
さらに、剣を交えたまま押し合いになる。

「なぁクロード!お前左手が痛いんだろ!靭帯が切れてるんじゃないのか???そんな状態で終焉の豪炎を使って、更には支配まで……!いつまでその身が持つことか!」
クロノのそんな煽るような言葉に、アルタイルも返した。
「よく言う!お前こそ、汗が止まらないようだな!その刻印の反動が来ているんだろう!息が荒くなってるぞ!」

お互いにお互いが弱ってきているということを把握していた。

2人分の雄叫びが響き、一瞬がスローモーションになった。

「相手の敵意によって力を増す支配と、殺意が高くなるほど強くなる深淵、勝つのは…………支配だ。」

アルタイルの言葉と同時に、アルタイルの剣がクロノの剣を切り、そのままクロノの右腕が落ちた。

腕の切り口から血液がドバドバと出てくる。
更に刻印の刺青はクロノの目元まで犯していた。
クロノは口から血を吐き出し、左手に持っている剣で一撃を放った。
その一撃はこれまでより遥かに弱く、狙いも定まっていなかった。しかし、アルタイルの頬に掠り傷をつけた。

「終わりだ。クロノ。」
アルタイルは小さくそう言うと、クロノの左腕を切り落とした。
右腕と同じように、切り口から血液が流れ出て、件を握ったままの左腕がゴロンと落ちて、剣の落ちる音と一緒に鈍い音を立てた。

「クロー…ド……俺はまたお前に負けるのか……」

「そうだ。」

「……俺は……どうして勝てなかった…どうしてお前を…殺せなかった……」

「お前が妹の笑顔を忘れたからじゃないのか。」

「そうか……」

クロノはそのまま膝をついた。どうやら負けを認めているようだったが、自分が何故勝てなかったのか、腑に落ちていないようだった。
しかし、アルタイルの言葉で過去がハッキリと、鮮明に頭によぎった。

「そんな顔をするなら、最初から王国を出なければ良かった。」

アルタイルはそう言って涙を長すクロノの前に膝をついた。

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