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1章・箱庭
20.君が星になった日。
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十数年前、ラグウンの激戦が起きるよりも前のことだ。
「セシア、朝食は食べたか?」
「うん。アルちゃんは今日も任務?」
「いや、今日は何もない。セシアこそ、前に行った護衛の任務はどうだったんだ?」
「うーん、なんか凄く退屈だったよ。」
「そうか、平和な任務で良かったな。」
アルタイルとセシアが中庭で話をしていた。
そこへクロノがやって来て、覇気のない声で言った。
「アルタイル、一戦やろう。」
「クロノ、昨日もやっただろう。任務明けなんだから休ませてくれ。」
「そうだよお兄ちゃん、アルちゃん疲れてるんだからちゃんと休ませてあげないと。」
「……なら仕方ないか。ところでセシア、朝食は食べたのか?」
「食べたよ。ていうかさっきアルちゃんに同じこと言われた…。」
当時のアルタイルとクロノは大隊長で、アルタイルの大隊とクロノの大隊は団の中では頭ひとつ抜けた二強であり、また2人は当時の騎士団長の弟子で、互いに高め合う戦友だった。そしてセシアはクロノの妹であり、まだ若い未来ある一等兵だった。
そんな3人がこうやって毎日他愛なく話せるような平和な日常がいつまでも続くと、誰しもが思っていた。
「お兄ちゃん…これ読める?」
ある日セシアはクロノに資料の字が見えづらいと言って聞いてきたのだ。
「……あぁ、ここは『申請』って書いてある。」
クロノはその時、視力が落ちたのか程度にしか思っていなかった。
しかし、そんな同じようなことが何度もあった。
当ほ本人も少し心配になり、アルタイルにも相談した。
「目が見えづらい?」
「うん。最初は資料の字が少し読みづらいくらいだったんだけど、なんだか日に日に見えづらくなっていってて……」
「私の顔はハッキリ見えているのか?」
アルタイルが尋ねた。その時会話していたアルタイルとセシアの距離は数十センチ程だった。
「…うーん、少しボヤけてるけど、アルちゃんだってことは分かるよ。」
「なるほど……剣を降るのにも不便だろうし、一度ルナに見てもらおう。」
そうして2人は医務室へ移動し、ルナに診てもらうことにした。
「なるほどー、目が見えづらい…ね。普通ならただ視力が落ちてるだけだって考えるでしょうけど、これだけ短期間で衰えるのもおかしな話よね……。」
ルナは熟考した後、2人にこう伝えた。
「ごめんなさい…どうやら少なくとも私の知る類の病気では無いみたいだわ。一度ちゃんとした病院に行った方がいいかもしれないわね。紹介状を出しておくから近いうちに行ってきなさい。」
「ルナさんでも分からないなんて…」
「まぁ心配するなセシア。ちゃんとした病院へ行けばきっとすぐに良くなる。」
アルタイルが不安げなセシアに言った。
そして少しした後、ルナはセシアに紹介状を書いて渡した。
数日後、セシアは兄であるクロノと共に設備の整った国立の病院へ向かった。
しかし、数々の検査を行った後に医者はルナと同じく熟考し、
「……すみません…正直なところ、現時点では原因不明の病…としか言えないです……申し訳ない。」
と言って2人に頭を下げた。
「ただ、今後セシアさんの経過を見てより詳しい検査を続けていけば、何かわかるかも知れません。」
医者はそう言ってセシアに検査入院を勧めた。
「そうですか…分かりました。」
クロノがセシアの代わりに言った。
「お兄ちゃん、わざわざ付いてきてくれてありがとうね。」
帰り際、セシアは取り繕っているようだった。
「心配するな。きっと良くなる。」
クロノは取り繕っているセシアに言った。
後日からセシアは病院で入院が始まった。
毎日ベッドの上での生活のセシアに、毎日のように誰かしらが合いに来ていた。ある時はアルタイルと他愛ない会話をし、ある時は心配げな兄に笑顔を見せた。
そのまま月日が流れていき、数ヶ月がたった頃、検査をし尽くしても結果は原因不明のまま、セシアはいつしか盲目になっていた。
そして左手には青く細長いアザのようなものができ始めていた。
「セシア……俺だ。わかるか?」
「お兄ちゃん……来てくれたんだね……」
クロノはベッドに仰向けになるセシアの左手を握った。
「俺またアルタイルに負けたよ。もう何敗目か数えてもいない。」
「大丈夫。お兄ちゃんは誰よりも強いから」
「ありがとうセシア。」
セシアと話しているはずなのに、セシアとは目が合わない。クロノはそんな状況が悔しく、虚しかった。
そこから何日か後、
セシアは全身に青い筋状の痣のようなものが広がり、上手く呂律も回らなくなっていた。
「セシア、来たぞ。兄ちゃんだ。」
「あぁ…………」
クロノが話しかけてもセシアは弱々しく呼応するだけだった。
「セシア……腹、減ってないか?」
「……あ…………あぁ」
「俺、こないだもアルタイルに負けたよ。でも俺セシアに強いって言って貰えたから、頑張ってるんだ。」
「…………あぁぁ…ぁ…あ……」
「あぁ、ありがとうな。」
「セシア、また笑ってくんねぇかな……」
「また3人で中庭で……朝食…食べたか?って……どうでもいいこと喋って…………さぁ!セシアぁ!」
「……あぁ…あ」
「セシア…俺……守ってやれなくて…ごめんな……病気…俺じゃ治してあげらんねぇや…………あれからいつもセシアが、俺の前では笑おうって意識してるんだろうなって……知ってたんだよ…………ごめんなぁ」
「ありがとうね、お兄ちゃん!」
「っ…!!!セシア!!」
セシアが喋った気がして、クロノが涙で腫らした目を拭って見る。
しかし、セシアはもう息をしていなかった。
「セシア、朝食は食べたか?」
「うん。アルちゃんは今日も任務?」
「いや、今日は何もない。セシアこそ、前に行った護衛の任務はどうだったんだ?」
「うーん、なんか凄く退屈だったよ。」
「そうか、平和な任務で良かったな。」
アルタイルとセシアが中庭で話をしていた。
そこへクロノがやって来て、覇気のない声で言った。
「アルタイル、一戦やろう。」
「クロノ、昨日もやっただろう。任務明けなんだから休ませてくれ。」
「そうだよお兄ちゃん、アルちゃん疲れてるんだからちゃんと休ませてあげないと。」
「……なら仕方ないか。ところでセシア、朝食は食べたのか?」
「食べたよ。ていうかさっきアルちゃんに同じこと言われた…。」
当時のアルタイルとクロノは大隊長で、アルタイルの大隊とクロノの大隊は団の中では頭ひとつ抜けた二強であり、また2人は当時の騎士団長の弟子で、互いに高め合う戦友だった。そしてセシアはクロノの妹であり、まだ若い未来ある一等兵だった。
そんな3人がこうやって毎日他愛なく話せるような平和な日常がいつまでも続くと、誰しもが思っていた。
「お兄ちゃん…これ読める?」
ある日セシアはクロノに資料の字が見えづらいと言って聞いてきたのだ。
「……あぁ、ここは『申請』って書いてある。」
クロノはその時、視力が落ちたのか程度にしか思っていなかった。
しかし、そんな同じようなことが何度もあった。
当ほ本人も少し心配になり、アルタイルにも相談した。
「目が見えづらい?」
「うん。最初は資料の字が少し読みづらいくらいだったんだけど、なんだか日に日に見えづらくなっていってて……」
「私の顔はハッキリ見えているのか?」
アルタイルが尋ねた。その時会話していたアルタイルとセシアの距離は数十センチ程だった。
「…うーん、少しボヤけてるけど、アルちゃんだってことは分かるよ。」
「なるほど……剣を降るのにも不便だろうし、一度ルナに見てもらおう。」
そうして2人は医務室へ移動し、ルナに診てもらうことにした。
「なるほどー、目が見えづらい…ね。普通ならただ視力が落ちてるだけだって考えるでしょうけど、これだけ短期間で衰えるのもおかしな話よね……。」
ルナは熟考した後、2人にこう伝えた。
「ごめんなさい…どうやら少なくとも私の知る類の病気では無いみたいだわ。一度ちゃんとした病院に行った方がいいかもしれないわね。紹介状を出しておくから近いうちに行ってきなさい。」
「ルナさんでも分からないなんて…」
「まぁ心配するなセシア。ちゃんとした病院へ行けばきっとすぐに良くなる。」
アルタイルが不安げなセシアに言った。
そして少しした後、ルナはセシアに紹介状を書いて渡した。
数日後、セシアは兄であるクロノと共に設備の整った国立の病院へ向かった。
しかし、数々の検査を行った後に医者はルナと同じく熟考し、
「……すみません…正直なところ、現時点では原因不明の病…としか言えないです……申し訳ない。」
と言って2人に頭を下げた。
「ただ、今後セシアさんの経過を見てより詳しい検査を続けていけば、何かわかるかも知れません。」
医者はそう言ってセシアに検査入院を勧めた。
「そうですか…分かりました。」
クロノがセシアの代わりに言った。
「お兄ちゃん、わざわざ付いてきてくれてありがとうね。」
帰り際、セシアは取り繕っているようだった。
「心配するな。きっと良くなる。」
クロノは取り繕っているセシアに言った。
後日からセシアは病院で入院が始まった。
毎日ベッドの上での生活のセシアに、毎日のように誰かしらが合いに来ていた。ある時はアルタイルと他愛ない会話をし、ある時は心配げな兄に笑顔を見せた。
そのまま月日が流れていき、数ヶ月がたった頃、検査をし尽くしても結果は原因不明のまま、セシアはいつしか盲目になっていた。
そして左手には青く細長いアザのようなものができ始めていた。
「セシア……俺だ。わかるか?」
「お兄ちゃん……来てくれたんだね……」
クロノはベッドに仰向けになるセシアの左手を握った。
「俺またアルタイルに負けたよ。もう何敗目か数えてもいない。」
「大丈夫。お兄ちゃんは誰よりも強いから」
「ありがとうセシア。」
セシアと話しているはずなのに、セシアとは目が合わない。クロノはそんな状況が悔しく、虚しかった。
そこから何日か後、
セシアは全身に青い筋状の痣のようなものが広がり、上手く呂律も回らなくなっていた。
「セシア、来たぞ。兄ちゃんだ。」
「あぁ…………」
クロノが話しかけてもセシアは弱々しく呼応するだけだった。
「セシア……腹、減ってないか?」
「……あ…………あぁ」
「俺、こないだもアルタイルに負けたよ。でも俺セシアに強いって言って貰えたから、頑張ってるんだ。」
「…………あぁぁ…ぁ…あ……」
「あぁ、ありがとうな。」
「セシア、また笑ってくんねぇかな……」
「また3人で中庭で……朝食…食べたか?って……どうでもいいこと喋って…………さぁ!セシアぁ!」
「……あぁ…あ」
「セシア…俺……守ってやれなくて…ごめんな……病気…俺じゃ治してあげらんねぇや…………あれからいつもセシアが、俺の前では笑おうって意識してるんだろうなって……知ってたんだよ…………ごめんなぁ」
「ありがとうね、お兄ちゃん!」
「っ…!!!セシア!!」
セシアが喋った気がして、クロノが涙で腫らした目を拭って見る。
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