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60 オタクおばさん、かく語りき
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「えーと、なんと申しますか、わたしは一昨日勇者さんの召喚に巻き込まれた者です」
一昨日? 聞き間違いかと、ほぼ全員が思った。塩谷が苦い表情で首を振る。
召喚された自分たちが各国に引き渡され、その国に移動するだけでもどれだけかかったのか。
「しかしその場でステータスの数値がしょぼいのが判明したので除外されまして、どこぞの森で犬と暮らそうと思い、今朝その街をでて現在に至ります」
「「「え???」」」
現在はおそらく13時くらいであろう。
「おまじないとは何なのか、それはわたしにも判りませんが、とりあえず魔力がない(ということな)のでそう呼んでいます」
しばらくの間、全員が呆気にとられていて、一番に復活したのはやはり怜美だった。
「じゃ、じゃあどうして私たちを助けてくれたんですか?」
「え? できたので?」
その答えでは不満なのか、全員が次の言葉を待っているようだったので、ミユキはため息をついて、続けた。
「えーと、わたしは語り出すと、とても偏っている上に、長くなってしまいますが、よろしいでしょうか?」
高校生達は再びカクカクと頭を縦に振った。
守護竜達は何だかうとうととしている。風が心地よいからなのか。
「えーと、細かい話で恐縮ですが、わたしは、誰かが石になるとか、宝石になるとか、主人公が死んで終わるゲームとか漫画とか小説が苦手なんですよ」
「へ?」
「まぁ、お恥ずかしい話ですが、大団円が好きなんです。なので推理小説は必ず最後を読んで犯人が判明し、主人公が死なないのを確かめてから購入するし(よい子は真似しないでね)、恋愛小説は滅多に読みませんが、最後にくっついて終わるかどうかを確認してから読み始めます。片方が死ぬとか論外ですね。もちろんドラマは大体全話録画して最終回が大団円なのを確かめてから、一話から見ます。時代劇と刑事ドラマは主人公が死ぬことはないのでほぼ安心してみてましたが、一部時代劇では町娘や村人が悪者に殺された後、主人公達が駆けつけ、「許さん!」とかいうパターンは許せませんでしたね。主役なら間に合え!と思ってましたが……。その点、某必殺はそういうお話でしたので割り切って、22時42分から見ていました。大体悲しい音楽の中、死にかけた依頼者からお仕事の依頼が始まる時間でしたからね。ゲームは……ゲームはね! ほんと! スー◯ァミの時代に何時間もかけてラスボス戦の前にレベルを上げられるだけ上げて回復アイテム集めまくって武器も防具も最強を揃えて最強状態で挑んで、めっちゃ楽にボスに勝ったのに……なんか戦いが終わったらエンディングムービーで無傷だったはずの主人公が腹から血だしてて、夫婦で闘ってたんだけど、夫婦揃って大けがしてて、勝手に力尽きて魂になって自分たちの赤ちゃんの所に戻ってキラキラしながら空に飛んでいっておしまいって、なんなんだよあれ、頭に来てタイトル忘れたわ! ……そうだよ、Fのつくゲームの7だって、途中で死んだあの子は絶対生き返ると思って全員レベル99にして全員分のマテリア……ハッ…エヘン、とにかくですね」
ミユキは咳払いをして拳を握りしめ、何かを堪えるように続けた。
「とにかく、わたしは石になるってのがダメなのです。某ゲーム4で双子が石になったり、他のゲーム5でも主人公(と思っていた人物)が石になり数年が経ってたりして、それからですかね? 世界樹と闘う某ゲームでは主人公がいきなり宝石になったりと……もやもやするでしょう? まぁ、そんなのが許せない理由でここに至ります。……以上でございます」
やりきった感満載の表情で顔を上げたミユキは、全員の顔を見て首を傾げた。
伝わらなかったのだろうか? 結構頑張って納得のいく考えを述べたつもりだったが。
「あのぅ」
塩谷がおずおずと手を挙げた。
「なんでしょう?」
「犯人が判ってから推理小説を読んで、おもしろいんですか?」
もっともな問いだったが、ミユキは真顔で頷いた。
「ええ。安心できますからね。後味が悪いのは苦手なので」
「………」
「ドラマで誰と誰がくっつくとか、判って見て楽しいんですか?」
思春期の少女にしてみれば当然の問いである。
「ええ。安心できるでしょう? 結末がもやっとしていたら最初から見ません。遠い昔に大ヒットしたドラマでそういう結末がありましてね。リアルタイムで見ていたので、テレビをひっくり返しそうになりましたよ。それ以来、最終回を見てから決めることにしたのです」
ブラウン管の重い四角いテレビの時代であった。
「映画は? 映画は結末がわからないのでは? 映画館には見に行かないんですか?」
「行きますよ? 筋肉ムッキーの弾がよけて通る元軍人グループのとか、元エージェントが娘を取り戻しに96時間かけずり回るヤツとか、チョー無敵の犬好きなスナイパーが主人公のものを観に行ってました。それは続編がありませんでしたがね。主人公さえ死ななければOKなので。あ、でも全員悪人のやつは観ましたねぇ。あれはああいうお話ですからね」
「………」
「話はだいぶ逸れてしまいましたが、本題に戻りますね」
「あの!」
立ち上がった北尾が、唸るように言った。
「俺たちが、……まだ信じられないんだけど、石にされてて、二百年?経ってもできなかったこと、半日でサラッとやって、あっという間に解決して、で? どうなんの? 何も出来なかった俺はあんたに頭下げてお礼でも言えばいいのかよ?! 助けてくれてありがとうございましたって?1」
その場が凍りつく。
(あれ? なんかそんなこと言ったっけ? でもくどくど長すぎて偉そうにしてしまったかな……。語り出すと熱くなるからなぁ……)
半泣きにも見える北尾と、固唾を呑んで見守る高校生達を前に、アンニュイな気分になるミユキであった。
一昨日? 聞き間違いかと、ほぼ全員が思った。塩谷が苦い表情で首を振る。
召喚された自分たちが各国に引き渡され、その国に移動するだけでもどれだけかかったのか。
「しかしその場でステータスの数値がしょぼいのが判明したので除外されまして、どこぞの森で犬と暮らそうと思い、今朝その街をでて現在に至ります」
「「「え???」」」
現在はおそらく13時くらいであろう。
「おまじないとは何なのか、それはわたしにも判りませんが、とりあえず魔力がない(ということな)のでそう呼んでいます」
しばらくの間、全員が呆気にとられていて、一番に復活したのはやはり怜美だった。
「じゃ、じゃあどうして私たちを助けてくれたんですか?」
「え? できたので?」
その答えでは不満なのか、全員が次の言葉を待っているようだったので、ミユキはため息をついて、続けた。
「えーと、わたしは語り出すと、とても偏っている上に、長くなってしまいますが、よろしいでしょうか?」
高校生達は再びカクカクと頭を縦に振った。
守護竜達は何だかうとうととしている。風が心地よいからなのか。
「えーと、細かい話で恐縮ですが、わたしは、誰かが石になるとか、宝石になるとか、主人公が死んで終わるゲームとか漫画とか小説が苦手なんですよ」
「へ?」
「まぁ、お恥ずかしい話ですが、大団円が好きなんです。なので推理小説は必ず最後を読んで犯人が判明し、主人公が死なないのを確かめてから購入するし(よい子は真似しないでね)、恋愛小説は滅多に読みませんが、最後にくっついて終わるかどうかを確認してから読み始めます。片方が死ぬとか論外ですね。もちろんドラマは大体全話録画して最終回が大団円なのを確かめてから、一話から見ます。時代劇と刑事ドラマは主人公が死ぬことはないのでほぼ安心してみてましたが、一部時代劇では町娘や村人が悪者に殺された後、主人公達が駆けつけ、「許さん!」とかいうパターンは許せませんでしたね。主役なら間に合え!と思ってましたが……。その点、某必殺はそういうお話でしたので割り切って、22時42分から見ていました。大体悲しい音楽の中、死にかけた依頼者からお仕事の依頼が始まる時間でしたからね。ゲームは……ゲームはね! ほんと! スー◯ァミの時代に何時間もかけてラスボス戦の前にレベルを上げられるだけ上げて回復アイテム集めまくって武器も防具も最強を揃えて最強状態で挑んで、めっちゃ楽にボスに勝ったのに……なんか戦いが終わったらエンディングムービーで無傷だったはずの主人公が腹から血だしてて、夫婦で闘ってたんだけど、夫婦揃って大けがしてて、勝手に力尽きて魂になって自分たちの赤ちゃんの所に戻ってキラキラしながら空に飛んでいっておしまいって、なんなんだよあれ、頭に来てタイトル忘れたわ! ……そうだよ、Fのつくゲームの7だって、途中で死んだあの子は絶対生き返ると思って全員レベル99にして全員分のマテリア……ハッ…エヘン、とにかくですね」
ミユキは咳払いをして拳を握りしめ、何かを堪えるように続けた。
「とにかく、わたしは石になるってのがダメなのです。某ゲーム4で双子が石になったり、他のゲーム5でも主人公(と思っていた人物)が石になり数年が経ってたりして、それからですかね? 世界樹と闘う某ゲームでは主人公がいきなり宝石になったりと……もやもやするでしょう? まぁ、そんなのが許せない理由でここに至ります。……以上でございます」
やりきった感満載の表情で顔を上げたミユキは、全員の顔を見て首を傾げた。
伝わらなかったのだろうか? 結構頑張って納得のいく考えを述べたつもりだったが。
「あのぅ」
塩谷がおずおずと手を挙げた。
「なんでしょう?」
「犯人が判ってから推理小説を読んで、おもしろいんですか?」
もっともな問いだったが、ミユキは真顔で頷いた。
「ええ。安心できますからね。後味が悪いのは苦手なので」
「………」
「ドラマで誰と誰がくっつくとか、判って見て楽しいんですか?」
思春期の少女にしてみれば当然の問いである。
「ええ。安心できるでしょう? 結末がもやっとしていたら最初から見ません。遠い昔に大ヒットしたドラマでそういう結末がありましてね。リアルタイムで見ていたので、テレビをひっくり返しそうになりましたよ。それ以来、最終回を見てから決めることにしたのです」
ブラウン管の重い四角いテレビの時代であった。
「映画は? 映画は結末がわからないのでは? 映画館には見に行かないんですか?」
「行きますよ? 筋肉ムッキーの弾がよけて通る元軍人グループのとか、元エージェントが娘を取り戻しに96時間かけずり回るヤツとか、チョー無敵の犬好きなスナイパーが主人公のものを観に行ってました。それは続編がありませんでしたがね。主人公さえ死ななければOKなので。あ、でも全員悪人のやつは観ましたねぇ。あれはああいうお話ですからね」
「………」
「話はだいぶ逸れてしまいましたが、本題に戻りますね」
「あの!」
立ち上がった北尾が、唸るように言った。
「俺たちが、……まだ信じられないんだけど、石にされてて、二百年?経ってもできなかったこと、半日でサラッとやって、あっという間に解決して、で? どうなんの? 何も出来なかった俺はあんたに頭下げてお礼でも言えばいいのかよ?! 助けてくれてありがとうございましたって?1」
その場が凍りつく。
(あれ? なんかそんなこと言ったっけ? でもくどくど長すぎて偉そうにしてしまったかな……。語り出すと熱くなるからなぁ……)
半泣きにも見える北尾と、固唾を呑んで見守る高校生達を前に、アンニュイな気分になるミユキであった。
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