オタクおばさん転生する

ゆるりこ

文字の大きさ
87 / 91

87 夜のお話 その2

しおりを挟む
 ミユキはこゆみに一緒に世界樹のほうへ行くよう促した。
 イークレスが射殺さんばかりの視線を送ってきたが、安心させるためににこりと笑みを返すと泣きそうな顔で見送ってくれた。少し離れるだけなのに大げさである。

 焚火から離れるので暗くなるかと思ったが、精霊だか妖精だかがふよふよと光りながらついてくるので、いい塩梅に明るかった。ふたばとカケルがじゃれあいながら走り回り、その後をコウスケがゆったりと歩いている。二人で話したいことがあるからと言うと、カケルとコウスケは少し離れたところでふたばと遊ぶことにしたらしい。



 かいつまんで聞いたこゆみの家庭の事情は、なんというか、重苦しかった。

 意思疎通のない継母と義兄との生活。

 家事全般をするのはまぁ家庭の事情もあるだろうからとやかく言えることではないことかもしれないと千歩譲って、オバさん力を丸出しにしながらしつこく聞くと、ろくに会話もしていないというのにビックリだった。
 だけど感謝されてたのでは?と、訊くと何も言われたことがないというではないか。義兄からのダメ出し以外は。
 なので今日は焼うどんを作ったり、ご飯を炊く前にお米を研いだりしただけで、みんなから美味しかったと言われたことがとても嬉しかったと笑みを浮かべていたのだ。

 ひととしてやってもらったら礼を言うのは当たり前だとミユキは思う。
 例え毎回毎回言えなくても、少女が毎日毎日家事をして、世話をしてくれているのだから、せめて食事の時に「おいしいね」とか大掃除の後「お風呂きれいになったね」とか「お茶ありがとう」とか、何か一言あるんじゃないの? 何も言わないなんて信じられない。情けない。

 ミユキは拳を握り締めた。

「あの──」
「その、おばあさまは、その?」

 こゆみは黙って頷いた。

「眠ったままでしたが、意識はあるような気がして、旅行に行く前に病院に行ってきました。おばあちゃんはわたしが高校で何でも、したいことをできるようにって、受験の時から週三回家事代行の人を入れてくれていて、その人が食事も作り置きしてくれるんです。それで旅行も怒られずに行けたから、だからお礼を言って……でも、やっぱり眠ったままで──何かあったらすぐ戻るからって、連絡してもらうようお願いしてきましたが……」

「そうでしたか」

 こゆみがほろりと涙をこぼした。

「おばあちゃん、スマホも買ってくれて、使い方も覚えてくれて、毎日メールして、絵文字も使ってくれて……ほんとは、おばあちゃんといたかったけど、でも、あっちに行ったらもう、こちらには戻れないんですよね?」

「そうみたいですね」

 一方通行だと、そう見習い天使さんは言っていた。

「……私はここにいたいです」

「わかりました」

 え?とこゆみが目を見開いた。
 はい?とミユキが首を傾げる。

「え、あの、戻るように説得されるのかと……」

「いえ、人が決めたことには基本反対しないので」

「……でも、帰ったみんなが……」

 1人だけ行方不明だなんて、みんな困るんじゃないか、とこゆみは俯いた。

「それでですね、あの、その、すごく残酷なことをしてしまうことになるんですけど、これをやったらこゆみちゃんが傷つくと思うし、あっちの人も悲しむとはわかってるんだけども……」

「?」

「もう、本当に後から帰ろうと思っても帰る場所がなくなってしまいますけども……?」

 壁のような世界樹の幹にミユキが手を当てると、その場所にぼうっと光が集まってくる。

(あれ? なんだこりゃ)

 手の大きさくらいだった光がどんどんと広がっていき、ミユキの背丈以上の大きさになったところで光が更に輝きを増した。

「ミ、ミユキさん?」

「え? いや、なに?」

 慌てたミユキの手を眩い光の中から出てきた手ががっしりと掴んだ。振りほどけない力である。

(なんかとてつもなくマズい気がするんですけど!?)

「ひっ……」

 こゆみが小さな悲鳴をあげた直後、一陣の風が舞う。
 判ってはいたが一応ミユキは振り返り、こゆみを背に庇うイークレスを一瞥した。何かを感じとったらしいイークレスは青い顔で頭を下げる。

「その、申し訳ございません……心配で、決して盗み聞きしていた訳では……」

「………いえ別に(守ってるんだろうけどなんだろう、この男のマメさ加減、なんかムカつくのは何故だろうか)」

「なになになに? 何かあったの?」

 元気に駆けてくるカケルに怜美やさっきのJKや他の高校生達……仲良くなっているらしく良かったよ──にエルフ族──全員集合だ。皆さん何気にミユキとこゆみが気になっていたのか気にしていたのか……。

(あぁ、またしても話が進まない気がするよ)

 ぐいぐいと手を引っ張られ、負けずに引っ張り返しているとますます光が強くなってくる。

 そしてその光の中から現れたのは──



 またしても、イケメンだった。








しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...