オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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88 世界樹さん

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 イケメン──軽すぎる表現だ。
 美大夫、いや、もっと、なんというか筆舌に尽くし難いほど美しい人間? 超美大夫……いろいろ足りなくてなんかすみません。

 エルフも美しいし竜の人型も美しいが、美しさっていろんな種類があったのね? そもそもここにきてこれ必要ですか?!とミユキは半目になって現実逃避をしていた。

 まず目を奪うのは腰ほどまでのまっすぐな金色の髪、さらっさらのピッカピカなうえに精霊たちが異常なほどに集まってきているので昼間のように明るく、きんきんきらきらと輝いている。褐色の肌は滑らかで艶々だ。顔の造形は言わずもがな、コウスケやイークレスも美形だが、これまた違う、ありがたい、神々しいほどの美しさだった。手を合わせたくなるほどに。
 そして瞳は若葉色と深い緑、エメラルドと精霊たちの光の加減で揺れるように色が変わる。
 ミユキはついつい瞳だけをたっぷり30秒ほど見つめてしまった。
 そしてあちらも見つめてくるので見つめ合いになっていたことに気づいた。手は掴まれたままだし。

 どこからともなく現れたもう片方の手で手を握りこまれ、見つめ合ったままそのひとは言った。


「礼を言う。ありがとう」


 久々に腰に来るイケボだった。十数年前にテ〇東で朝から悶絶しながら見ていた動物がロボットに変形するアニメを思い出す。つまり、ゴリラであり、某麒麟様のような声だ……。
 女子高生やエルフや竜の人型の皆さんも頬を染めている。老若男女種族の壁をひとっとびで超える声だった。

 ミユキは腹の中で盛大にため息を吐く。

 なぜ、またしても美形なのだろう。
 世界樹から出てきたということは、きっとこのお方は世界樹の何某であろう。
 世界樹の精とか世界樹の擬人化とか、世界樹の霊かもしれない。

 そもそもそれならかなりの年齢なんだろうから、痩せたおじいさんとか、いや少し若返ったとして、小太りのおじさんでもおばさんでもいいのに、何で美形の男がこうも揃うのか。
 この世界はやはり乙女ゲームなのだろうか。
 見習い天使さんとこの世界についてきちんと深く話し合うべきだったのか……。

(いや、とりあえず話を進めないと)

 ミユキはその何某様に頭を下げた。手を掴まれているので中途半端ではあったが話は早々に切り上げたい。

「いえいえとんでもないです。こちらこそこのような場所でキャンプファイヤーとか、火を使ったりさせていただき申し訳ないです。すみませんが明日の朝までお許しいただけないでしょうか」

 へこへこと頭を下げ掴まれた手をささっと抜き取り、またへこへこと頭を下げ後ずさりすると、背後に何かを感じた。慌てて振り返ると空色の竜の大きな瞳にミユキが映っていた。

「カケルくん」

 守護竜は一度瞬きすると、すぐに少年に姿を変える。世界樹の何某様が笑みを浮かべた。

「キミだったんだね。………ずっと、ありがとう」

「僕、何もできなくて……」

 世界樹の何某様が首を横に振る。何やら二人の世界が出来上がってきたらしいのでミユキはそっと背を向け走り出した。その前に視線を素早くイークレスに向け、こゆみちゃんを連れてくるよう念を送るのを忘れない。イークレスが慌てふためいてこゆみちゃんを姫抱きにするのが視界に入った。後ろからふたばが嬉しそうに追いかけてくる。猟犬だからか走るものを追いかけるのが嬉しいのか、飼い主と共に走るのが嬉しいのか、後者であってほしいと願いつつ世界樹の枝葉の下からは出られないまでも、キャンプファイヤーからはかなり離れた場所にやってきた。

 振り返ると世界樹の何某様はキャンプファイヤーを見つめながら椅子に座ってカケルと語り合っているようだ。その手にはカレーの皿が載っている。少し離れた場所にエルフ族全員が傅いていた。
 こゆみをそっと下ろしたイークレスが呟く。

「我々は、世界樹様をお守りし護られていますので」
「はい」
「皆生きているうちに世界樹様にお会いできて本望なのでしょう」
「へぇ」

 よくわからないが、悪いことではなさそうなのでとりあえず相槌は打っておく。それはそれで置いといて。

「で、さっきの続きなんですが」

 こゆみに説明している途中だったのだ。

「私たちも、聞いていい?」
「どうぞ。こちらこそお願いします」

 少し離れたところにいるのは元祖の勇者たちだった。みんながついて来ているのは知っていたので、緊張しているっぽい怜美に笑顔で返したが、やはり緊張は解せなかったようだった。

「新勇者さん達にはあまり聞かれない方がよさそうですが、どうすればいいですかね」

「結界を張るといいぞよ」

 扇子で口元を隠したキャサリンがどこからともなく現れた。真っ赤なチャイナドレスにお色直しをしている。

「どうやって……まぁ、『この辺だけ結界(声が漏れないやつ)』?」

 少し離れたコウスケとふたばの向こう側をカーテンで分断するように風が吹いていく。キャサリンは満足げに頷いた。

「お見事じゃ」

 合格点をもらったので、ミユキは改めて高校生達を見つめた。

「向こうでの二年前の話をします。私の記憶も曖昧ですが」

 ミユキの周りをふよふよと淡い光が舞っている。




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