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日が、暮れていた。
この街には街灯があるようだが、所々にしかなく、しかも薄ぼんやりとしか明るくないようだ。
「本当にありがとうございました」
何度目になるのかわからない礼をシルーシスが繰り返す。道すがら、いろいろとこの世界のことを教えてもらっているのだが、話が途切れると、これが始まるのだった。
「いえいえ、こちらこそ、いろいろ教えていただいて助かります」
この大陸に三つ国があり、同盟を結んでいるので、通貨はどこでも使用できること。
商業と冒険者のギルドがあって、どちらかに登録すれば、お金の出し入れはどこでもできるということ。
(口座凍結とかされたら面倒だから預けないけどね)
魔法は攻撃と回復があるが、この国ではどちらも国及びギルドの許可がないと使えないこと。ギルドで受けた依頼や任務では使える。生活魔法はいつでも可である。
魔法使いは国の所有物のようだ。
「あ、あの店です」
薄暗い入り口の看板にランプが灯してある店が2件並んでいた。酒場と宿(食堂付き)である。酒場はうるさそうなので、宿の隣には合わない気もするが、こう道が暗いのなら隣の方が呑む宿泊客には便利かもしれない。
店の前に、少年が数人立っていた。シルーシスを見つけて手を振っている。
(貴族の坊ちゃんと街の少年達って、身分差とかないのかなぁ)
何となく触れにくい話題なので、気付かなかったことにした。
「ミユキさん!」
満面の笑みで迎えられて、どう返したものやらわからないミユキである。
「ミユキさん! ありがとうございます」
「僕、昨日ナイフで切った傷が消えてました!」
「遠くが見えるようになってました」
「歯が痛いのがなくなりました」
(何か怪しい健康食品のCMみたいなんですけど)
「いやいや気のせいですよ~」
「こっちにきてください! ご飯出来てます」
「おぉ! ありがたいです」
海猫亭と書いてある看板の店に案内されると、まさしく食堂であった。大きなテーブルの真ん中に鍋があり、湯気が立っているが、なんというか、匂いがしない。そしてその脇には黒っぽいパンがあった。
「もしかして、皆さん……お待たせしてしまいました?」
グーっと誰かのお腹が鳴ると、厨房の方からほっそりした男が顔を出した。
「あ、いらっしゃい。この度はどうも……」
頭に巻いていた布を取ると、サルモーと同じピンクブロンドの髪が現れた。が、かなり後退している。まだ30代くらいだし、キレイなお顔なのに……黄昏進行中と言ったところか。この世界の男はそういう遺伝子が組み込まれているのか?
「こんばんは。ミユキといいます。お世話になります」
「こんばんは。サルモー君と同じ学院の、騎士科のシルーシスといいます。今日はサルモー君達に大変お世話になりましたので、皆さんにご馳走させてください」
「いえいえ、サルモーとの約束ですので。今日はこちらの食堂は貸切にしてますし、大したものは出せませんが、温かいうちにお召し上がりください。さ、みんなも早く召し上がれ。今日は頑張ったね」
なぜか全員がミユキをみてにこにこしている。
(こ、これは私が何か言わなくては食べられないパターンなのか?)
「え~ 皆様、右も左もわからぬこの世界で皆さんと楽しいお食事をいただけることに感謝します。ありがとう」
いつもどおりに両手を胸の前で合わせて言う。
「いただきます」
ぽかんとする全員に、ミユキはもう一度繰り返した。どうやら、この習慣はないらしい。
「いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
「いただきます……」
一人遅れたようだが、全員が手を合わせて、食事が始まった。
具だくさんのスープのようなものを木の皿に取り分けてもらう。スプーンも木製だった。恐る恐るひと口啜ってみる。
(薄味だなぁ)
、
じっくりと味わうと、豆っぽいものや雑穀ぽいもの、小さな肉片が入っているのはわかった。薄い塩味はその肉片から出たものだけらしい。塩漬けの肉のようだ。しかし、味が薄いだけで中の具は、ほくほくした豆やぷちぷちした粒状の雑穀のような何かと、キャベツっぽい葉っぱで驚くようなものは入ってなかった。
(よかった……普通に食べていけそうだ)
食べ物の合う合わないは死活問題である。昔見た映画みたいに、食卓にカブトムシのようなのがぞろ~っと並んでいなくて本当によかったと思いながらしみじみ食べていると、皆さんがじーっと見ているのに気がついた。
「おいしいです。申し訳ないのですが、後で少しこの子にわけていただいてもよろしいでしょうか?」
立ち上がってミユキの膝に前足をかけながらのおねだりモードのふたばを指すと、主人は笑って厨房から皿を出してきてくれた。
「すみません。朝から何も食べさせていなくて……」
「構いません。ここから取り分けてあげてください」
何という優しさだろうか! ミユキは猛烈に感動した。
「ミユキさんはどんなところからいらっしゃったんですか?」
「魔物はどんなのがいるんですか?」
「魔法がないって、本当ですか?」
お子様の質問は、どの世界でも、とめどもなく溢れてくるものらしい。
明日はお祭りで学校もお休みということで、途中からロンブスとアングイラも加わり、子供たちの質問は長いこと続いた。ようやく途切れた頃、ミユキも質問を開始する。
「ステータスって、どうやってみるんですか?」
「え?」
「ほら、シルーシス君が、私のステータスに何もないって、あの時」
年齢的にはおそらく息子以下の子供たちに、さん付けもなんなので君付けに変更している。ちなみにサルモー君のパパさんはスクイラさんというらしい。
シルーシスは罰の悪そうな顔で、謝った。
「あの時はすみませんでした。ステータスは本当は本人しか見ることはできず、見てはいけないことになっています。本人が開示を許せば、許されたものには見ることが可能なのですが…… あの時は、皆様は神殿の魔法陣の上に立っていらっしゃいましたので、見ることが可能だったのです。勝手に見てすみませんでした」
「普通は、心の中でステイタスって唱えるだけで頭の中に浮かんでくるよ」
子供たちの口調もだいぶ砕けてきていて、近所のおばさん相手のようになっている。よかった。
ふむ、と試しに心の中で唱えてみる。なるほど…… 白っぽい石板のようなものがぽっかりと浮かんでいるのが見える。しかし、そこには日本語ででかでかと、しかも筆文字で(達筆)こう書いてあった。
【 関係者以外閲覧禁止!! 】
本人は関係者以外の何者でもないのではないか?
何となく、見習い天使さんの顔を思い浮かべながら石板のようなものを下まで眺めていくと、一番下に小さな文字が浮かんでいた。
【 お一人のときにもう一度ご覧ください 】
(ステータスって伝言板?)
疲れがどっと出たミユキは、ほんとだ~、浮かんでくるね~とか何となく呟いてみたのだった。
この街には街灯があるようだが、所々にしかなく、しかも薄ぼんやりとしか明るくないようだ。
「本当にありがとうございました」
何度目になるのかわからない礼をシルーシスが繰り返す。道すがら、いろいろとこの世界のことを教えてもらっているのだが、話が途切れると、これが始まるのだった。
「いえいえ、こちらこそ、いろいろ教えていただいて助かります」
この大陸に三つ国があり、同盟を結んでいるので、通貨はどこでも使用できること。
商業と冒険者のギルドがあって、どちらかに登録すれば、お金の出し入れはどこでもできるということ。
(口座凍結とかされたら面倒だから預けないけどね)
魔法は攻撃と回復があるが、この国ではどちらも国及びギルドの許可がないと使えないこと。ギルドで受けた依頼や任務では使える。生活魔法はいつでも可である。
魔法使いは国の所有物のようだ。
「あ、あの店です」
薄暗い入り口の看板にランプが灯してある店が2件並んでいた。酒場と宿(食堂付き)である。酒場はうるさそうなので、宿の隣には合わない気もするが、こう道が暗いのなら隣の方が呑む宿泊客には便利かもしれない。
店の前に、少年が数人立っていた。シルーシスを見つけて手を振っている。
(貴族の坊ちゃんと街の少年達って、身分差とかないのかなぁ)
何となく触れにくい話題なので、気付かなかったことにした。
「ミユキさん!」
満面の笑みで迎えられて、どう返したものやらわからないミユキである。
「ミユキさん! ありがとうございます」
「僕、昨日ナイフで切った傷が消えてました!」
「遠くが見えるようになってました」
「歯が痛いのがなくなりました」
(何か怪しい健康食品のCMみたいなんですけど)
「いやいや気のせいですよ~」
「こっちにきてください! ご飯出来てます」
「おぉ! ありがたいです」
海猫亭と書いてある看板の店に案内されると、まさしく食堂であった。大きなテーブルの真ん中に鍋があり、湯気が立っているが、なんというか、匂いがしない。そしてその脇には黒っぽいパンがあった。
「もしかして、皆さん……お待たせしてしまいました?」
グーっと誰かのお腹が鳴ると、厨房の方からほっそりした男が顔を出した。
「あ、いらっしゃい。この度はどうも……」
頭に巻いていた布を取ると、サルモーと同じピンクブロンドの髪が現れた。が、かなり後退している。まだ30代くらいだし、キレイなお顔なのに……黄昏進行中と言ったところか。この世界の男はそういう遺伝子が組み込まれているのか?
「こんばんは。ミユキといいます。お世話になります」
「こんばんは。サルモー君と同じ学院の、騎士科のシルーシスといいます。今日はサルモー君達に大変お世話になりましたので、皆さんにご馳走させてください」
「いえいえ、サルモーとの約束ですので。今日はこちらの食堂は貸切にしてますし、大したものは出せませんが、温かいうちにお召し上がりください。さ、みんなも早く召し上がれ。今日は頑張ったね」
なぜか全員がミユキをみてにこにこしている。
(こ、これは私が何か言わなくては食べられないパターンなのか?)
「え~ 皆様、右も左もわからぬこの世界で皆さんと楽しいお食事をいただけることに感謝します。ありがとう」
いつもどおりに両手を胸の前で合わせて言う。
「いただきます」
ぽかんとする全員に、ミユキはもう一度繰り返した。どうやら、この習慣はないらしい。
「いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
「いただきます……」
一人遅れたようだが、全員が手を合わせて、食事が始まった。
具だくさんのスープのようなものを木の皿に取り分けてもらう。スプーンも木製だった。恐る恐るひと口啜ってみる。
(薄味だなぁ)
、
じっくりと味わうと、豆っぽいものや雑穀ぽいもの、小さな肉片が入っているのはわかった。薄い塩味はその肉片から出たものだけらしい。塩漬けの肉のようだ。しかし、味が薄いだけで中の具は、ほくほくした豆やぷちぷちした粒状の雑穀のような何かと、キャベツっぽい葉っぱで驚くようなものは入ってなかった。
(よかった……普通に食べていけそうだ)
食べ物の合う合わないは死活問題である。昔見た映画みたいに、食卓にカブトムシのようなのがぞろ~っと並んでいなくて本当によかったと思いながらしみじみ食べていると、皆さんがじーっと見ているのに気がついた。
「おいしいです。申し訳ないのですが、後で少しこの子にわけていただいてもよろしいでしょうか?」
立ち上がってミユキの膝に前足をかけながらのおねだりモードのふたばを指すと、主人は笑って厨房から皿を出してきてくれた。
「すみません。朝から何も食べさせていなくて……」
「構いません。ここから取り分けてあげてください」
何という優しさだろうか! ミユキは猛烈に感動した。
「ミユキさんはどんなところからいらっしゃったんですか?」
「魔物はどんなのがいるんですか?」
「魔法がないって、本当ですか?」
お子様の質問は、どの世界でも、とめどもなく溢れてくるものらしい。
明日はお祭りで学校もお休みということで、途中からロンブスとアングイラも加わり、子供たちの質問は長いこと続いた。ようやく途切れた頃、ミユキも質問を開始する。
「ステータスって、どうやってみるんですか?」
「え?」
「ほら、シルーシス君が、私のステータスに何もないって、あの時」
年齢的にはおそらく息子以下の子供たちに、さん付けもなんなので君付けに変更している。ちなみにサルモー君のパパさんはスクイラさんというらしい。
シルーシスは罰の悪そうな顔で、謝った。
「あの時はすみませんでした。ステータスは本当は本人しか見ることはできず、見てはいけないことになっています。本人が開示を許せば、許されたものには見ることが可能なのですが…… あの時は、皆様は神殿の魔法陣の上に立っていらっしゃいましたので、見ることが可能だったのです。勝手に見てすみませんでした」
「普通は、心の中でステイタスって唱えるだけで頭の中に浮かんでくるよ」
子供たちの口調もだいぶ砕けてきていて、近所のおばさん相手のようになっている。よかった。
ふむ、と試しに心の中で唱えてみる。なるほど…… 白っぽい石板のようなものがぽっかりと浮かんでいるのが見える。しかし、そこには日本語ででかでかと、しかも筆文字で(達筆)こう書いてあった。
【 関係者以外閲覧禁止!! 】
本人は関係者以外の何者でもないのではないか?
何となく、見習い天使さんの顔を思い浮かべながら石板のようなものを下まで眺めていくと、一番下に小さな文字が浮かんでいた。
【 お一人のときにもう一度ご覧ください 】
(ステータスって伝言板?)
疲れがどっと出たミユキは、ほんとだ~、浮かんでくるね~とか何となく呟いてみたのだった。
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