オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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「ここまで大騒ぎにしてしまったから、ごまかすためですよね?」

 驚いたロンブスだったがにっこりと笑った。

「はい。最初は召喚のオマケのような奇跡にしようかと思いましたが、いっその事、街全体の奇跡にして貰った方が楽かなと……。今日儀式に参加していた子たちには、すでに街中に触れ回って貰っているのですが……」

 ブランキアが神妙に続ける。

「こちらの城にいらっしゃる方々のみ、奇跡が起こっていないというのは、些か不自然なのではないかと思い、お願いに参った次第でございます」


「確かに。でも、お恥ずかしい話、これまでの3回は誰かを治そうと思ってしたおまじないですので、ここでは何を治せばいいのか、今ひとつ目安が……」

「はぁ、そんな感じであの大掛かりな……」

 ロンブスが遠い目をしている。
 ブランキアが励ますように言った。

「いっその事、この街の全ての人を治す感じでおまじないをされてみては?」

「そんな無茶な!「なるほど、やってみます」

 ええええええ?!   と叫び出しそうなロンブスを置いておいて、ミユキは右の手の平を上に向けた。

「な~おれ治れ~ルルラララ~~   アラビン○ビンハ○チャビン~、あ、ハゲはマズイかシャ○ンラ~」

 温かくなった手のひらから、淡い緑色の光が、甘夏くらいの大きさの球状となってほわりと浮き、夜の闇の中をふわふわと漂い昇っていく。

(考えたら街の大きさとかわからないんだった。まぁ、大は小を兼ねるっていうから、でっかくいくか)

 ふん、ふんふふふん、ふん、ふんと鼻歌を歌っていると、光の球がどんどん大きくなりながら、城の上空に浮かび留まった。

「こ……これは、ロンブスさん、今の回復魔法とはこのようなものなのですか?  昔私がみたものとはだいぶ様子が……」

 見上げながら明らかに狼狽えているブランキアが問うてくる。

「僕も見たことありませんよ、こんなの……」

 騎士団の魔物退治に同行した際に見た団所属の魔道士の回復術は、長い長い詠唱の後、出血を止めただけだった。あの時の感動はどこに行ったんだろう……。

 巨大に膨らんだ緑色の球体がふわりふわりと、どんどん高く上がっていく。

「勇者さん達はあのお城にいるんですよね?」

「え?   ええ、はい。いらっしゃいます」

「了解です。ほんではしばらくこのままにして街に戻りますか」

 夜の闇の中、巨大な球体が城の上に留まって屋根を緑色に照らしている。

「このままですか?」

「どこかここから離れた別の場所に移動しましょう。お城からこちらを見ている人がいます」

 え、と二人が見上げるが、見つけることはできなかった。

「おそらく、勇者さんだと思いますが、まだ上のアレには気づいてないようなので急いで離れましょう」

 城の上空を指差して人々の注目を向けながら、三人は街中に移動した。途中で会う召喚に参加していた子らにも、城の上空を指差して貰うよう頼んだ。

(なんか、花火大会の会場みたいだなぁ)

 上空を見上げる人々をみて、ぼんやりと思っていると、ロンブスが言った。

「あの、よければ、ラーヤにも見せてあげたいんですけど」

「おぉ!  そうですね!  お嬢様はさぞかしお喜びになられることでしょう」

「まだ、大丈夫でしょうか?」

 一瞬、何のことだか判らなかったが、アレの持続時間のことかと思い、頷いた。急ぎオストレア家に走ることになる。高級住宅街もお祭り騒ぎだ。見上げると確かに、城だけが暗いのが顕著であった。

 オストレア邸の前で、ミユキが立ち止まったので、二人が振り返った。

「私はここで失礼します。今から五分後……いえ、100数えたらアレを解放します。ラーヤちゃんに見せてあげてください」

「ご一緒には」

「終わったら即寝ます。疲れました。それじゃ、数えますよ~。いーち、にー、」

「う、では、ありがとうございました。また明日伺います」

「お休みなさい」

 会釈したミユキに深々と頭を下げた二人は、屋敷に走って行った。100数えながらゆっくりと来た道を戻る。みんな、楽しそうだ。でも、きっと、全ての人にこのおまじないが効くのはよくないのだろう。この街には、いい人も、悪い人も、犯罪者もいるのだろうから。

(でも、やっちゃったものはしょうがないよね~。そのうち制御の方法を覚えようっと。森の中で。さて、そろそろかな)

「ミユキさん!」

 人々の間を縫って、サルモーが走って来た。一緒にスコンベルもいる。ミユキに近付くと、耳元に口を寄せるように、小声で訊いてきた。

「あの光は、ミユキさん?」

「うん、これから、アレを……」

 ウキウキしている二人に、少し笑ってみせた。

「一緒に呪文を唱えてみる?  ウラウ○タンタ○ウラウラウラタ○タンウラウラタンタンウラーはい!」

「「ウラウ○タンタンウラウラタ○タンウラウ○タンタ○ウラー」」

 言い終わると同時に、球体が花火のように一気に弾けて、雫が滝のように城に降り注ぎ、そのまま一気に街へと流れてくる。歓声とも悲鳴とも取れる声が響き渡った。緑色の光はそのまま霧のように街中を覆い尽くして、漂っている。

「ベッカ○コー!!  はい!」

「「ベッ○ンコー!!」

 一瞬で、光が人々に吸い込まれた。

 静寂の中、サルモーが声をあげた。

「勇者様、ばんざーい!」

「ばんざーい」

 スコンベルが続く。周りにいた人々が、習って続けていく。街全体が一際明るくなり、城が煌々と輝きだした。歓声が鳴り止まない。城にも届いているかもしれない。

(やっぱり、マズかったかもしれない……  いや、大丈夫、やればできるよね、きっと!  勇者様だもの。すごい力を貰っているに違いないさ!  若いし!)

 そう心に言い聞かせながら、サルモー達と宿へと戻るミユキであった。




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