20 / 91
20
しおりを挟む
「ここまで大騒ぎにしてしまったから、ごまかすためですよね?」
驚いたロンブスだったがにっこりと笑った。
「はい。最初は召喚のオマケのような奇跡にしようかと思いましたが、いっその事、街全体の奇跡にして貰った方が楽かなと……。今日儀式に参加していた子たちには、すでに街中に触れ回って貰っているのですが……」
ブランキアが神妙に続ける。
「こちらの城にいらっしゃる方々のみ、奇跡が起こっていないというのは、些か不自然なのではないかと思い、お願いに参った次第でございます」
「確かに。でも、お恥ずかしい話、これまでの3回は誰かを治そうと思ってしたおまじないですので、ここでは何を治せばいいのか、今ひとつ目安が……」
「はぁ、そんな感じであの大掛かりな……」
ロンブスが遠い目をしている。
ブランキアが励ますように言った。
「いっその事、この街の全ての人を治す感じでおまじないをされてみては?」
「そんな無茶な!「なるほど、やってみます」
ええええええ?! と叫び出しそうなロンブスを置いておいて、ミユキは右の手の平を上に向けた。
「な~おれ治れ~ルルラララ~~ アラビン○ビンハ○チャビン~、あ、ハゲはマズイかシャ○ンラ~」
温かくなった手のひらから、淡い緑色の光が、甘夏くらいの大きさの球状となってほわりと浮き、夜の闇の中をふわふわと漂い昇っていく。
(考えたら街の大きさとかわからないんだった。まぁ、大は小を兼ねるっていうから、でっかくいくか)
ふん、ふんふふふん、ふん、ふんと鼻歌を歌っていると、光の球がどんどん大きくなりながら、城の上空に浮かび留まった。
「こ……これは、ロンブスさん、今の回復魔法とはこのようなものなのですか? 昔私がみたものとはだいぶ様子が……」
見上げながら明らかに狼狽えているブランキアが問うてくる。
「僕も見たことありませんよ、こんなの……」
騎士団の魔物退治に同行した際に見た団所属の魔道士の回復術は、長い長い詠唱の後、出血を止めただけだった。あの時の感動はどこに行ったんだろう……。
巨大に膨らんだ緑色の球体がふわりふわりと、どんどん高く上がっていく。
「勇者さん達はあのお城にいるんですよね?」
「え? ええ、はい。いらっしゃいます」
「了解です。ほんではしばらくこのままにして街に戻りますか」
夜の闇の中、巨大な球体が城の上に留まって屋根を緑色に照らしている。
「このままですか?」
「どこかここから離れた別の場所に移動しましょう。お城からこちらを見ている人がいます」
え、と二人が見上げるが、見つけることはできなかった。
「おそらく、勇者さんだと思いますが、まだ上のアレには気づいてないようなので急いで離れましょう」
城の上空を指差して人々の注目を向けながら、三人は街中に移動した。途中で会う召喚に参加していた子らにも、城の上空を指差して貰うよう頼んだ。
(なんか、花火大会の会場みたいだなぁ)
上空を見上げる人々をみて、ぼんやりと思っていると、ロンブスが言った。
「あの、よければ、ラーヤにも見せてあげたいんですけど」
「おぉ! そうですね! お嬢様はさぞかしお喜びになられることでしょう」
「まだ、大丈夫でしょうか?」
一瞬、何のことだか判らなかったが、アレの持続時間のことかと思い、頷いた。急ぎオストレア家に走ることになる。高級住宅街もお祭り騒ぎだ。見上げると確かに、城だけが暗いのが顕著であった。
オストレア邸の前で、ミユキが立ち止まったので、二人が振り返った。
「私はここで失礼します。今から五分後……いえ、100数えたらアレを解放します。ラーヤちゃんに見せてあげてください」
「ご一緒には」
「終わったら即寝ます。疲れました。それじゃ、数えますよ~。いーち、にー、」
「う、では、ありがとうございました。また明日伺います」
「お休みなさい」
会釈したミユキに深々と頭を下げた二人は、屋敷に走って行った。100数えながらゆっくりと来た道を戻る。みんな、楽しそうだ。でも、きっと、全ての人にこのおまじないが効くのはよくないのだろう。この街には、いい人も、悪い人も、犯罪者もいるのだろうから。
(でも、やっちゃったものはしょうがないよね~。そのうち制御の方法を覚えようっと。森の中で。さて、そろそろかな)
「ミユキさん!」
人々の間を縫って、サルモーが走って来た。一緒にスコンベルもいる。ミユキに近付くと、耳元に口を寄せるように、小声で訊いてきた。
「あの光は、ミユキさん?」
「うん、これから、アレを……」
ウキウキしている二人に、少し笑ってみせた。
「一緒に呪文を唱えてみる? ウラウ○タンタ○ウラウラウラタ○タンウラウラタンタンウラーはい!」
「「ウラウ○タンタンウラウラタ○タンウラウ○タンタ○ウラー」」
言い終わると同時に、球体が花火のように一気に弾けて、雫が滝のように城に降り注ぎ、そのまま一気に街へと流れてくる。歓声とも悲鳴とも取れる声が響き渡った。緑色の光はそのまま霧のように街中を覆い尽くして、漂っている。
「ベッカ○コー!! はい!」
「「ベッ○ンコー!!」
一瞬で、光が人々に吸い込まれた。
静寂の中、サルモーが声をあげた。
「勇者様、ばんざーい!」
「ばんざーい」
スコンベルが続く。周りにいた人々が、習って続けていく。街全体が一際明るくなり、城が煌々と輝きだした。歓声が鳴り止まない。城にも届いているかもしれない。
(やっぱり、マズかったかもしれない…… いや、大丈夫、やればできるよね、きっと! 勇者様だもの。すごい力を貰っているに違いないさ! 若いし!)
そう心に言い聞かせながら、サルモー達と宿へと戻るミユキであった。
驚いたロンブスだったがにっこりと笑った。
「はい。最初は召喚のオマケのような奇跡にしようかと思いましたが、いっその事、街全体の奇跡にして貰った方が楽かなと……。今日儀式に参加していた子たちには、すでに街中に触れ回って貰っているのですが……」
ブランキアが神妙に続ける。
「こちらの城にいらっしゃる方々のみ、奇跡が起こっていないというのは、些か不自然なのではないかと思い、お願いに参った次第でございます」
「確かに。でも、お恥ずかしい話、これまでの3回は誰かを治そうと思ってしたおまじないですので、ここでは何を治せばいいのか、今ひとつ目安が……」
「はぁ、そんな感じであの大掛かりな……」
ロンブスが遠い目をしている。
ブランキアが励ますように言った。
「いっその事、この街の全ての人を治す感じでおまじないをされてみては?」
「そんな無茶な!「なるほど、やってみます」
ええええええ?! と叫び出しそうなロンブスを置いておいて、ミユキは右の手の平を上に向けた。
「な~おれ治れ~ルルラララ~~ アラビン○ビンハ○チャビン~、あ、ハゲはマズイかシャ○ンラ~」
温かくなった手のひらから、淡い緑色の光が、甘夏くらいの大きさの球状となってほわりと浮き、夜の闇の中をふわふわと漂い昇っていく。
(考えたら街の大きさとかわからないんだった。まぁ、大は小を兼ねるっていうから、でっかくいくか)
ふん、ふんふふふん、ふん、ふんと鼻歌を歌っていると、光の球がどんどん大きくなりながら、城の上空に浮かび留まった。
「こ……これは、ロンブスさん、今の回復魔法とはこのようなものなのですか? 昔私がみたものとはだいぶ様子が……」
見上げながら明らかに狼狽えているブランキアが問うてくる。
「僕も見たことありませんよ、こんなの……」
騎士団の魔物退治に同行した際に見た団所属の魔道士の回復術は、長い長い詠唱の後、出血を止めただけだった。あの時の感動はどこに行ったんだろう……。
巨大に膨らんだ緑色の球体がふわりふわりと、どんどん高く上がっていく。
「勇者さん達はあのお城にいるんですよね?」
「え? ええ、はい。いらっしゃいます」
「了解です。ほんではしばらくこのままにして街に戻りますか」
夜の闇の中、巨大な球体が城の上に留まって屋根を緑色に照らしている。
「このままですか?」
「どこかここから離れた別の場所に移動しましょう。お城からこちらを見ている人がいます」
え、と二人が見上げるが、見つけることはできなかった。
「おそらく、勇者さんだと思いますが、まだ上のアレには気づいてないようなので急いで離れましょう」
城の上空を指差して人々の注目を向けながら、三人は街中に移動した。途中で会う召喚に参加していた子らにも、城の上空を指差して貰うよう頼んだ。
(なんか、花火大会の会場みたいだなぁ)
上空を見上げる人々をみて、ぼんやりと思っていると、ロンブスが言った。
「あの、よければ、ラーヤにも見せてあげたいんですけど」
「おぉ! そうですね! お嬢様はさぞかしお喜びになられることでしょう」
「まだ、大丈夫でしょうか?」
一瞬、何のことだか判らなかったが、アレの持続時間のことかと思い、頷いた。急ぎオストレア家に走ることになる。高級住宅街もお祭り騒ぎだ。見上げると確かに、城だけが暗いのが顕著であった。
オストレア邸の前で、ミユキが立ち止まったので、二人が振り返った。
「私はここで失礼します。今から五分後……いえ、100数えたらアレを解放します。ラーヤちゃんに見せてあげてください」
「ご一緒には」
「終わったら即寝ます。疲れました。それじゃ、数えますよ~。いーち、にー、」
「う、では、ありがとうございました。また明日伺います」
「お休みなさい」
会釈したミユキに深々と頭を下げた二人は、屋敷に走って行った。100数えながらゆっくりと来た道を戻る。みんな、楽しそうだ。でも、きっと、全ての人にこのおまじないが効くのはよくないのだろう。この街には、いい人も、悪い人も、犯罪者もいるのだろうから。
(でも、やっちゃったものはしょうがないよね~。そのうち制御の方法を覚えようっと。森の中で。さて、そろそろかな)
「ミユキさん!」
人々の間を縫って、サルモーが走って来た。一緒にスコンベルもいる。ミユキに近付くと、耳元に口を寄せるように、小声で訊いてきた。
「あの光は、ミユキさん?」
「うん、これから、アレを……」
ウキウキしている二人に、少し笑ってみせた。
「一緒に呪文を唱えてみる? ウラウ○タンタ○ウラウラウラタ○タンウラウラタンタンウラーはい!」
「「ウラウ○タンタンウラウラタ○タンウラウ○タンタ○ウラー」」
言い終わると同時に、球体が花火のように一気に弾けて、雫が滝のように城に降り注ぎ、そのまま一気に街へと流れてくる。歓声とも悲鳴とも取れる声が響き渡った。緑色の光はそのまま霧のように街中を覆い尽くして、漂っている。
「ベッカ○コー!! はい!」
「「ベッ○ンコー!!」
一瞬で、光が人々に吸い込まれた。
静寂の中、サルモーが声をあげた。
「勇者様、ばんざーい!」
「ばんざーい」
スコンベルが続く。周りにいた人々が、習って続けていく。街全体が一際明るくなり、城が煌々と輝きだした。歓声が鳴り止まない。城にも届いているかもしれない。
(やっぱり、マズかったかもしれない…… いや、大丈夫、やればできるよね、きっと! 勇者様だもの。すごい力を貰っているに違いないさ! 若いし!)
そう心に言い聞かせながら、サルモー達と宿へと戻るミユキであった。
232
あなたにおすすめの小説
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる