オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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49 徳山 康二くん視点

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「なんだ、ここ」

 だるい体を無理やり起こすと辺り一面真っ暗な闇の中である。
 傍を見ると突っ伏している立花を緑色の光が纏っていたが、すぐに立花に吸収されるかのように消えてしまった。

「うぅ……」

 のろのろと頭をあげた立花は辺りを見回し息を飲んだ。そうだ、俺たちは竜の背中に乗っていたんだ。

 目の前の竜の頭の上にビーグルの仔犬が前を見据えるように立っている。考えたら、何でこの犬宙を浮いたり出来るんだ?

「凄い瘴気だな」
「あぁ」

 少し前まで俺たちもこの中で戦っていたんだ。封印の場所にたどり着くまでがとてつもなく大変だった。ダンジョンのそれとは桁違いの強さの魔物たち。ようやくたどり着いた竜の前で,ぼろぼろなのに休む間もなく、対峙させられた。教えられたとおりに、囲んで立つだけで魔法陣が発生して邪悪な竜を封印できるのだと。
 なのに、そのとおりに立った瞬間、立花が石になってしまった。白い、背丈くらいの塊に。でも、次の瞬間には辺りは草原で……あれ? なんで竜の背中に、って徐々に降下している闇の中で記憶が混乱している。少し離れた場所で緑色の光がやわやわと紅い竜を包んでいる。その背に載る賀来とイークレスさんも
 一緒に。立花を見ると、やはり歯を食いしばるように睨み付けていた。

「気がつきましたか?」

 声がするほうに目をやると、ミユキさんが眉尻を下げて俺達を見ていたので慌てて返事をする。

「あ、はい! 俺達気を失っていたんですか?」

 ミユキさんは黙って頷いた。

「すみません。今回復はしたのですが、どうしても皆さんの力まで使ってしまうようで。魔力搾り取ってる感じですかね」

 腕を組み正座をした状態で落ちている。

「あのぅ、訊いてもいいですか?」

「はい?」

「ミユキさんって日本人ですか?」

「………そういや、何人なんですかね? この世界の人は封印の地に入れないって言ってましたよね?」

 いや、俺に訊かれても……。

『ギィィィィィ』

「えっ! わかりました。徳山くん、立花くん、ちょいとお邪魔しますね」

 突然響いた軋んだような音が竜の鳴き声だとわかったのは、ミユキさんが俺達の後ろに降りてしばらく経ってからだったが、その鳴き声と会話できるっていったい………。

『ギギ……』

「皆さん、ちょいと急いで降りねばならなくなりました。お気をつけて!」

 それを合図に竜二頭は滑るように下降を始めた。後ろから、なんか聞いたことがある歌が聞こえてくる。時々母親が歌ってたやつだ。いーまも昔も変わりなく~って。

 暗闇の中だが、不思議と下が見えてきた。大きな白い塊とその周りに佇む白い石が四つだ。ってことは北尾たち……?

「ああっ! まずい!」

 地面がまだ見えていないのに、ミユキさんが飛び降りた。と同時に走り出す。石に近づき、そして叫んだ。

「ラミ○スラミパ○ルルルルル───ッ」

 白いらせん状の光が竜に届く直前に、俺は見た。
 竜は頭だけを残して首から下は石と化していたのを。
 白い光に包まれた竜の周りに佇む石。

「立花」
「う……」

 俺達もあの石だったのだと判ったんだろう。
 紅い竜が隣に着地して、賀来を横抱きにしたイークレスさんが音もなく飛び降りる。俺達も銀の竜から飛び降りた。竜たちは低く飛びながらミユキさんの下へ移動していった。ビーグル犬は頭に乗せたままだ。

「限界が近かったのですね」

「限界?」

 イークレスさんが光の中から現れた真っ黒な竜を見つめる。石化が解けていた。間髪をいれずにミユキさんの全身から湧き出る緑色の光が竜を包み込んだ。

「守護竜様が石になってしまわれると、封印石となった勇者様たちは塵となって消え、この世は瘴気に包まれ、滅びるのです」

「塵……?」

 愕然とする俺達の前で、ミユキさんは上空を見上げ、両手を突き出した。

「なに……?」

 両手の周りに真っ白な光が集まっている。ミユキさんが見上げる先を目で追うと、暗闇の中にぽっかりと漆黒の穴があり、渦をまいているように見えた。時折目玉のようなものがぎょろりとのぞく。

「うぇ…なんだよあれ」
「あ……あれは……」

 隣に立っていたイークレスさんが、がくりと膝を落とした。

「大丈夫か?」

「ええ……。大丈夫、です。結界は張っているのですが、ここの瘴気はひどすぎます」

 苦しげに答えるイークレスさんだが、大丈夫そうには見えなかった。しかし彼は笑みを浮かべて目で俺達を促した。あちらを、見ろと。
 見るまでもなく、視界の端に真っ白な光が入ってきた。光はミユキさんを覆いつくす勢いで膨らんでいる。清々しい、強く白い光だった。光のまわりから瘴気が消えていっているのか、イークレスさんがホッと息をついた。その傍らに心配そうな賀来がいる……が……。

「あれ? 賀来、メガネは?」

 白い光に照らされる賀来の顔から、あの分厚いメガネが消えていた。うるんだ瞳を縁どるまつげははっきりと判るほどに長い。肌は手を伸ばしたくなるほどに、白く滑らかだ。黒く真直ぐな髪がさらさらと頬に触れている。顔のつくりは変わらないのに、なんでこんなにかわいくなったんだ?

「なんか、合わなくなっちゃって……。でも、はっきりと見えるよ……あっ!」

 振り返ると、ミユキさんの手から音もなく白い光が渦をめがけて解き放たれていた。どこから生まれてきているのか、光は途切れることなく渦の中に注ぎ込まれている。

「すごい……」
「か○は○波みたいだな」

 立花の呟きを聞いて、こいつはバカかもしれないと思った。こいつは顔と運動神経だけはいいが、バカかもしれない。幼なじみだけども。でも、よく見るとミユキさんのポーズは確かにそれに似ているような……。

「あれ?」

 突然、体から力ががくんと抜けて地面に膝をついてしまった。イークレスさんも合わせて4人ともだ。と同時にミユキさんの白い光は力を増して渦に注ぎ込まれていく。薄れていく意識の片隅で、ミユキさんの雄たけびが聞こえたのは覚えている。




 つらぬけ───ッ! は───っ!


 そして、空が裂け、光が雪のように降り注いだ。




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