ふかし

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 日々、サードアルバムに向けた練習に追われていたが、身分を明かさずに活動しているということもあり、テレビやラジオの仕事は受けていないので、あなたに逢える時間はあった。
 どうしても、ということで私の家にお招きすることになった。
 とりあえずだが、掃除はし、洗濯物は畳んでタンスにしまった。
 最寄りのG駅まで迎えにいった。
 あなたは、黒い服を着ていた。
 「ごめん、待たせたね」と言うと、「さっき着いたところだから、待ってないよ」と返った。
 時間は夕方だったので、何処かに食べに行こうか? と声をかけたが、迷惑でないのなら、ご飯を作りたい、と有難いことを言ってくれたので、スーパーへ行った。
 「なに作ってくれるの?」と私。
 「出来るまで内緒」とあなた。
 「でも、手伝うから分かっちゃうんじゃない?」
 「手伝ってもらったら作る意味ないじゃん」
 「じゃあ、俺は歌うよ」
 「かっこいい」
 「それ最近、誰かにも言われた気がする」と口を滑らせて、しまった、と思った。
 「どこの女のために歌ったのよ」とあなたは笑い、私も笑った。

 買い物を一緒にしたこともあって、豚キムチであることは、ほぼ確定だったが、口にはしなかった。
 あなたが作っている間、私は本意気で歌った。
 わざと低めに歌っていると言っていたけれど、それを意識しなければどうなるのか、とあなたが疑問を抱いたので、私はピッタリとした音程を意識して歌ってみた。
 「結構、印象が変わるね」とあなたは驚いた。
 「どっちが好き?」
 「いつもの」
 「それは良かった」と私は言って、喉が温まってきたところで、あなたの好きな曲であるSを歌った。
 「泣いちゃう」と感動してくれたので、ファンに手を出すのは、たまらないなと再確認したのだった。

 やはり、ご飯は豚キムチだった。
 が、かなり美味かった。
 「もう、お店レベル」と私が言うと、「昔から料理得意なんだよね」と自信を見せた。
 手作りわかめスープもかなりのものだった。
 「私と結婚したら、毎日食べれるよ」
 「結婚願望あるんだ?」
 「まあ、人並みには」
 「性欲は?」
 「それも人並みじゃない? ねぇ、この前、私としてから誰かとした?」
 「したよ」
 「誰?」
 「女の子」
 「そんなの当たり前じゃん」
 「いや、バイセクシャルの可能性がある」
 「そうなの?」
 「わからない」
 「今のところは?」
 「ない」
 「じゃあ、ないんじゃん」
 「未来は誰にも分からない」
 「まぁ、そうだけど」
 「異性愛者とカミングアウトするまでは異性が対象とは限らない」
 「それカミングアウトって言う?」
 「同性愛がカミングアウトと言うならね」
 「あつしさん、やっぱり変わってるね」
 私は笑った。
 「例えば、人間は指が五本という言い方は間違ってる」と私は言った。
 「そうじゃないひともいるから?」とあなた。
 「君は賢いね」
 「その生き方つかれない?」とあなたは少し心配そうにした。
 「まぁ、生き方の問題かは分からないけど、精神病ではある。それでも、人間は指が五本のひとが多い、と正確に言える自分でありたい」
 「精神病なの?」
 「うん、晩御飯の後、毎日クスリ飲んでる」
 「知らなかった、そうは見えないね」
 「程度が軽いんじゃない?」
 「カミングアウトしてくれてありがと」
 「どういたしまして」
 ふたりで笑った。
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