ふかし

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 Sさんと食事に行くことになった。
 ネットに本名が出ており、みゆさんと知ったので、そう呼ぼうと決めた。
 個室がある割烹料理店をヤマダという名前で予約してくれたので、待ち合わせの時間より早く行ったのだが、店員さんに、お連れ様はもうお付きになられております、と言われた。
 「お待たせして、申し訳ございません」と部屋へ入るなり、頭を下げた。
 「いえいえ、まだ時間になってませんし、私、この辺で用事があったものですから」とフォローして下さった。
 店員さんが去った後、「はじめまして、ふかしと申します。みんなには本名のあつしと呼ばれております」とご挨拶をした。
 「そうですよね、顔を出されずに活動されてるんで、人前でふかしさんは不味いですものね」と理解を示して下さった。
 「はじめまして、Sです。私はあつしさんのファンです」と彼女は熱を込められた。
 「僕もみゆさんのファンです」と私は同じ熱量で返した。
 「あら、普段みゆと呼ばれないものですから、ちょっと恥ずかしいですね」と微笑んだ。
 「Gという名曲を生み出しておきながら、同じ路線でそれを進化させたNという曲を生み出されたのは、驚きです。聴かせて頂いたときには感動いたしました」
 「同じ毛色だと気付いて下さったんですか?」
 「聴いた感じ、コード進行が近いように思えて」
 「そうなんです。Nはタイアップがあったので、先方からGみたいな曲をと言われていたんです」
 「でも、同じようには意地でもしないって気魄が窺えますよね、イメージカラーだけ同じにしたような」
 「まさにそうなんです。私にとっての青なんです」
 「じゃあ、KとIは赤みたいなイメージの曲の仲間ですか?」
 「そんなに熱心に聴いて下さって、嬉しいです」と目を潤ませた。
 「何を飲まれますか?」と彼女。
 「僕はお酒が飲めないので、ウーロン茶を」
 「じゃあ、私もそうしようかしら」と彼女が言うもので、「みゆさんの酔ったところを見てみたいです」と私は笑顔で伝えた。
 「あら、そうなったら責任を取ってくださるのかしら?」とみゆさんが、女を出すもので、「はじめから、今日は帰す気なかったですよ」と冗談めかせて言った。
 「あつしさん、モテるでしょ?」と彼女は笑ってくれた。
 「そう思われたなら、本望です」と私も笑顔になった。
 「それじゃあ、お言葉に甘えて、私はお酒を」とメニューを繰る指に色気があった。
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