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電車で声をかけてくれた、ユカさんと逢うことになった。土曜日の19時に、I駅で、と約束をした。お店、全然わからないから任せてもいいですか? と言っても、面倒がらずに引き受けてくれた。
私が先に着いた。一瞬、顔を見ただけだったので、あなたが分かるか不安だった私は早めに向かったのだ。先に私が着いていると、きっと声を掛けてくれると私は考えていた。
しばらくして、あなたが現れた。顔を見ると思い出されたので、こちらから軽く手を挙げた。お互い、こんばんは~、と言い合い、土曜日ということもあり、お店を予約してくれていたので、さっそく向かった。
「電車であんなことして、すみませんでした」
「いやいや、嬉しかったですよ」
「タイプだったんで…」とこちらを見ず、前を向いたまま言った。
「ありがとう」とあなたのほうを見て言うと、目が合った。
「なんか緊張します」とあなたは顔を赤らめた。
ナンパしなれてないんですか? と言葉が頭に浮かんだが、問わずにおいた。
五分ほどでお店に着いた。おしゃれな居酒屋さんだった。黒を基調とした店内の内装はバーに近かった。
「タバコ吸いますか?」とあなた。
「電子タバコを」
「良かった、念のため、タバコが吸えるお店にしといたんです」と入り口で会話した。
店員さんがやってきて、個室へ案内された。その廊下をゆく間、タバコを考えてくれていたことへのお礼を伝えた。
「いえ、LINEの連絡がひと段落ついた後で思いついたんで、確認すれば良かったんですけど、お忙しいかなと思って」とあなた。
私は歌の練習をしながら、LINEをしていたので、返信に少し時間をかけてしまっていたのだ。
「いろいろありがとう」とあなたの目を見て伝えた。あなたは恥ずかしそうにした。
あなたはカクテルを頼んだ。私はジュースにした。乾杯と言ってグラスを合わせると、あなたは勢いよく飲んだ。その姿を見ていたことに気づかれた。
「酔わないと恥ずかしくてやってられません」とあなたは目を伏せた。
LINEでは逢う日程の調整しか連絡を取り合っていなかったので、ここで初めて、仕事の話などになった。あなたは会社員らしい。
私が、「顔を出してないんで、詳しいことは言えないんですが、音楽関係です」と言うと、「ふかしみたいですね、バッグふかしのグッズですよね? 電車で見たときから気になってて」と返ってきた。私はファンの皆さんと同じような生活を送りたいということから、積極的に自分のグッズを生活に取り入れている。
「そう、知ってるんだ?」と私はそれを受けた。
「私、ライブにも行くくらい好きなんです」とあなたは目を輝かせた。
「何の曲が好き?」と私は尋ねてみた。
「いっぱいあるんですけど、ファーストアルバムのときから聴いてるんで、Sですかね」とあなたは答えた。Sとは女性歌手Nさんの、少しロック調の有名な歌だ。ひとの曲ではあるが、初期の私の代表曲と言える。
「そうなんだ、俺はYのカバーのS」と、私はライブの一曲目に常に歌っているYさんの曲を挙げた。
「その歌も好きです!」とあなたは声を高めた。グラスが空きそうだったので、二杯目を促した。あなたは先ほどとは違うカクテルを頼んだ。ふかしと逢ったことがあるか、と目を輝かせて訊かれたが、ない、と答えた。自分には逢えないので、嘘ではない。
料理に手をつけた。注文もあなたに任せたので、商品名はわからないのだが、エビの料理が美味しかった。それをあなたへ伝えると、「この店の、私のおすすめです」と返ったので、頻繁に通っていることが知れた。
「どうして、いつもあんなことしてるのか、とか訊いてこないんですか?」とあなた。
「う~ん、なんとなく、で、いつもあんなことしてんの?」とおどけると、あなたは笑ってくれた。
「電車では初めてです、でも本屋さんとかで、ふかしのバッグ持ってるひとに声かけたりしたことあります」と少し恥ずかしそうにした。
「じゃあ、俺が違うバッグだったら、この出逢いはなかったの?」と尋ねると、「それでも勇気を出してたかもしれません。見た目だけでほんと申し訳ないですけど、ほんとタイプなんで…」とあなたは目を潤ませた。
「いや、嬉しいよ、見た目だけでも」
「でも、話しやすいし、中身も好きかもしれません」
「そうだったらいいなぁ」とあなたを見つめた。
「あの…。明日、早いですか?」とあなたが勇気を振り絞ってくれたので、これは私が受け持つべきだと思い、「ううん、どっか泊まろうか?」と返した。
あなたは嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をして、「私の家、この近所なんです」と言った。私はもう少し辱めたくなり、「だからI駅にしたんだ?」と責めた。
あなたは、「はい…」と答えて、顔を真っ赤にし、下を向いた。
私が先に着いた。一瞬、顔を見ただけだったので、あなたが分かるか不安だった私は早めに向かったのだ。先に私が着いていると、きっと声を掛けてくれると私は考えていた。
しばらくして、あなたが現れた。顔を見ると思い出されたので、こちらから軽く手を挙げた。お互い、こんばんは~、と言い合い、土曜日ということもあり、お店を予約してくれていたので、さっそく向かった。
「電車であんなことして、すみませんでした」
「いやいや、嬉しかったですよ」
「タイプだったんで…」とこちらを見ず、前を向いたまま言った。
「ありがとう」とあなたのほうを見て言うと、目が合った。
「なんか緊張します」とあなたは顔を赤らめた。
ナンパしなれてないんですか? と言葉が頭に浮かんだが、問わずにおいた。
五分ほどでお店に着いた。おしゃれな居酒屋さんだった。黒を基調とした店内の内装はバーに近かった。
「タバコ吸いますか?」とあなた。
「電子タバコを」
「良かった、念のため、タバコが吸えるお店にしといたんです」と入り口で会話した。
店員さんがやってきて、個室へ案内された。その廊下をゆく間、タバコを考えてくれていたことへのお礼を伝えた。
「いえ、LINEの連絡がひと段落ついた後で思いついたんで、確認すれば良かったんですけど、お忙しいかなと思って」とあなた。
私は歌の練習をしながら、LINEをしていたので、返信に少し時間をかけてしまっていたのだ。
「いろいろありがとう」とあなたの目を見て伝えた。あなたは恥ずかしそうにした。
あなたはカクテルを頼んだ。私はジュースにした。乾杯と言ってグラスを合わせると、あなたは勢いよく飲んだ。その姿を見ていたことに気づかれた。
「酔わないと恥ずかしくてやってられません」とあなたは目を伏せた。
LINEでは逢う日程の調整しか連絡を取り合っていなかったので、ここで初めて、仕事の話などになった。あなたは会社員らしい。
私が、「顔を出してないんで、詳しいことは言えないんですが、音楽関係です」と言うと、「ふかしみたいですね、バッグふかしのグッズですよね? 電車で見たときから気になってて」と返ってきた。私はファンの皆さんと同じような生活を送りたいということから、積極的に自分のグッズを生活に取り入れている。
「そう、知ってるんだ?」と私はそれを受けた。
「私、ライブにも行くくらい好きなんです」とあなたは目を輝かせた。
「何の曲が好き?」と私は尋ねてみた。
「いっぱいあるんですけど、ファーストアルバムのときから聴いてるんで、Sですかね」とあなたは答えた。Sとは女性歌手Nさんの、少しロック調の有名な歌だ。ひとの曲ではあるが、初期の私の代表曲と言える。
「そうなんだ、俺はYのカバーのS」と、私はライブの一曲目に常に歌っているYさんの曲を挙げた。
「その歌も好きです!」とあなたは声を高めた。グラスが空きそうだったので、二杯目を促した。あなたは先ほどとは違うカクテルを頼んだ。ふかしと逢ったことがあるか、と目を輝かせて訊かれたが、ない、と答えた。自分には逢えないので、嘘ではない。
料理に手をつけた。注文もあなたに任せたので、商品名はわからないのだが、エビの料理が美味しかった。それをあなたへ伝えると、「この店の、私のおすすめです」と返ったので、頻繁に通っていることが知れた。
「どうして、いつもあんなことしてるのか、とか訊いてこないんですか?」とあなた。
「う~ん、なんとなく、で、いつもあんなことしてんの?」とおどけると、あなたは笑ってくれた。
「電車では初めてです、でも本屋さんとかで、ふかしのバッグ持ってるひとに声かけたりしたことあります」と少し恥ずかしそうにした。
「じゃあ、俺が違うバッグだったら、この出逢いはなかったの?」と尋ねると、「それでも勇気を出してたかもしれません。見た目だけでほんと申し訳ないですけど、ほんとタイプなんで…」とあなたは目を潤ませた。
「いや、嬉しいよ、見た目だけでも」
「でも、話しやすいし、中身も好きかもしれません」
「そうだったらいいなぁ」とあなたを見つめた。
「あの…。明日、早いですか?」とあなたが勇気を振り絞ってくれたので、これは私が受け持つべきだと思い、「ううん、どっか泊まろうか?」と返した。
あなたは嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をして、「私の家、この近所なんです」と言った。私はもう少し辱めたくなり、「だからI駅にしたんだ?」と責めた。
あなたは、「はい…」と答えて、顔を真っ赤にし、下を向いた。
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