紳士な猫は魔法が使いたい

萎びた家猫

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第六話 ???と焦燥

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 昨日の夜はお楽しみだったのである!!
いやまだ日は昇っていないので今も夜なのであるな。 ししょーとの修行が楽しすぎてついつい沢山魔眼の練習をしてしまったのである。 そのおかげで少しだけであるが目に魔力を集中することができるようになったのである!!

「でもこれをすると目が疲れるのである…」

 ししょーもやり過ぎは逆に良くないと言っていたのでこの練習は程々にするのである。

「まだ外は暗いのであるな。お天道様が起きてくるまで吾輩も眠るのである」クアァ

 眠ることを考えたら自然と欠伸が出てきた
そう言えばお昼寝もしていなかったのである。それだけお散歩が楽しかったということであるな。良い事である。

 そう思い吾輩はいつも眠る専用のカゴへと入った。

…ふと瞼に暖かな光が指し吾輩は目を覚ます。

 もう朝であるか? そう眠気でまだ重いまぶたを開けようとするが何故か瞼が上がらない。

「何であるか!? 目が開かないのである!」

 今までこのようなことがなかった吾輩は少しパニックになってしまう。

「もしや魔法の練習をしすぎたのであろうか…!?」

 そう言っている間にも目を開けようとするがやはりまぶたは開かない。それどころか前足を使い顔を擦ろろうとしても体すら動かなくなっていた。

「うーむ… これはどうすればよいであろうか」

 もしや吾輩はこのまま何も感じることなく一生を終えなければならぬのだろうか? それは少し…いやとても寂しいのである。

 ししょー…助けてほしいのである…ここは何もなくて怖いのである…

 吾輩は抑えられぬ恐怖から無意識にししょーに助けを乞おうとするが今や声を出すことさえ叶わない。何処までも続く無の中で唯一先程から感じるもの、この瞼の外から届く暖かな光は何なのであろうか?

この暖かな光には覚えがある。

いつも吾輩を朝優しくそしてあたたかく包み込む光。お天道さまである。

お天道さまを吾輩は怒らせてしまったのであるか? 一体吾輩は何をしてしまったのであろうか?

そんな疑問がこの永遠とも思える虚無感をさらに色濃く感じさせる。

ししょー…

そして吾輩の意識は完全に闇の中へとけていった。





 sideアリシア

私には弟子がいる。
頑張り屋で賢いネコのフィラム。 

 最初にこのネコと出会ったのは店の裏庭、主に不要な薬品を破棄する目的で作られた浄化施設だった場所。

 もちろん危険な場所なので誰も入れないよう魔法論的結界を張っていた。 
 
 しかしどうやって入ったのか分からないが…このネコはそこで薬品の浄化がまだ終わっていない水を飲み重度の魔力汚染を引き起こした状態で倒れていた。息はしておらず既に死骸となっている。

 はじめ見たとき私はこの死骸をどう処理するか考えていた。 魔力汚染を起こした生物は最終的に魔石症という体中に魔力が結晶化した物が生成される病気に罹患する。

これは経口摂取で感染する恐れがある。

つまり浄化の終わっていない薬品や魔石症を罹患した生物が生活用水内に入るとたちまち街中の至る所で魔石症のパンデミックが起こってしまう。

 見つかったのが私の浄化施設内でよかった。ここなら死骸の処理も簡単で魔力汚染も浄化もできる。

 早速私は死骸の処理を始める為に部屋に入った。そして浄化の準備を終え部屋から裏庭へ戻ると、何と先程まで息をしておらず死骸だと思っていた生物… いやネコがこちらを見ていた。

「重度の魔力汚染を発症しながら意識があるというの!?」

 こんな事例聞いたことがない!!
 
 初期状態なら長期間かけて体を巡っている魔力を抜いていけば魔力汚染も解消できる。 しかしある程度汚染が進行してしまうと、魔力が肉体に吸収され肉が魔力の結晶へと変質してしまう。これが魔石症だ。

 一度変質した物質はもう治すことは出来ない。重度となれば恐らく重要な器官も結晶化しているはず。 そんな状態で正常な意識を保てるわけがない!!

「一体あなたは何なの…?どうやってここへ来た…?どうして…」

 気がつくと私は言葉が通じるはずもない動物に向けて頭の中で永遠と生まれる疑問を投げかけていた。

ネコが鳴く。まるで私の言葉に呼応するように。 

ネコが哭く。まるで過去の私が絶望の中でそうしたように。

ネコが泣く。まるで過去の私が己の脆弱さを嘆いたように。

「そう…あなたはあのときの私なのね」

 もう私の中でこのネコを救う以外の選択肢は無かった。 私はこの子を連れ自分以外入ることの出来ない研究室で、禁術に指定されていたある魔術を使った。



 あのときの私の判断は魔法師としては正しい行いとはいえなかった。 どんな理由であれ禁術指定をされた魔術や魔法を使うことは私達魔を探求する者にとって最大のタブー。

それでもフィラムをあのまま死なせていたら私は自分を一生恨んでいたと思う。私から全てを奪っていったあの魔族と同じように…

 だからこそ私はたとえ誰を敵に回そうともあの子を幸せにする。そのためにはまずあの子が好きな魔法をたくさん教えてあげないと。

「久しぶりにあの日のことを思い出してしまうなんて…疲れているのかしら?」

 最近はフィラムの魔力を安定させるための研究を休まずしていたから精神的に疲労しているようね。 

一度椅子から立ち上がり背筋を伸ばす。

「昨日は遅くまで魔眼の練習をしていたからフィラムはまだ眠ってるかしら?」

研究室を出てフィラムの居る店内に向かう。

「フィラム。まだ寝ているかしら?」

店内に入るとフィラムが眠るカウンター上のカゴに近づき撫でる。

「…え?」

 息をしてない!?  それどころか本来あるはずの内包魔力が感じられない。

「どういうこと!? 昨日の時点では全く問題なかったはず…!!」

 心臓の鼓動が早まる。まさか止めたはずの魔石症が進行したの…?

 いやもし進行しているなら魔力結晶ができているはず! 一度冷静になって確認しなければ…!!

「皮膚などには結晶は見られない。魔眼を使っていた目にも症状が見られないということは魔石症ではない? それに体温もまだ高いということは心肺停止からまだそこまで経っていない…」

 では一体何故この様な状態になっているのか。まずは脳死しないよう心肺を蘇生する。

「私の体に魔力を流し強制的に心臓と肺を動かす…」

 こういう魔力操作は口に出すことで、精神的な操作を安定させる効果がある。

…問題なく心肺の蘇生が完了。これで脳死状態は免れたはず。

「次はフィラムの内包魔力ね… まず私の魔力を気脈に流す…そしてフィラムの魔力核に充填する」

 これは過去に一度やったことだから問題なく完了。 

「…心肺も蘇生した、魔力も安定しだした。 なのに何故目を覚まさないの!?」

  また私の心臓が高鳴る。もう手遅れだったというの…?!

「お願いフィラム…目を覚まして!!」

 私は貴女がいたから正気を保てた!! 貴女があの時私の前に現れてくれなければ私は…
歪む視界が、高鳴る心臓が私の魂を縛り付け始める。 

フィラムを抱き上げ顔をフィラムの頭に近付ける…

「あ…」

 フィラムの目がゆっくりと開き私の顔をのぞき込んだ。そして私の涙を舐め取る。

「フィラム…」

「にゃぁ…」

私の顔を覗き込むその目には多数に負の感情が入り混じっていた。

「もう大丈夫よ?怖かったわね?私はここにいるわ? だから貴女も安心してちょうだい」

 そうフィラムに優しく話しかける。
段々とフィラムは落ち着きを取り戻し、いつしか眠りについたフィラムを私のはただ撫で続けた。

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