剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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報告と噂話

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 「先生は…あ、いた!! 先生治療終わりました!!」

 治療を終えたロイはギルドのロビーで待っていたウィルと合流する。

「戻ったか。それで王国騎士の治療魔法はどうだった」

 ロイが戻ってすぐに秘匿情報を聞き出そうとするウィルに呆れる周囲のギルド職員。それを全く意に返さずマイペースに話すウィルを見て苦笑いを浮かべながらロイは医務室での状況を説明する。

「いやぁ、それがどうやら見せる訳にはいかないらしくて、魔道具で眠っている間に治療をされたんですよ。だからどんな魔法を使ったのかはわからないんですよね~」

「そうか」

 少し残念そうにウィルは、短く相槌を打つと帰り支度を始めた。あらかた支度も終わり二人はギルドを後にしようとすると医務室があるギルドの奥が騒がしくなり始める。

 しばらくすると奥からは数人のギルド職員が忙しなく何かを運んでいるのが見えた。

 恐らくは魔道具であろう箱を数人の騎士団員が外に運び出し、止めてある馬車に詰め込む光景を横目にウィル達もギルドをあとにしようとする。

「ウィルさん。ロイさん。お待ち下さい!!」

 そんな二人をギルドを出てすぐの場所でマーカスに呼び止められる。どうやらまだ用があるらしく、急いで二人に近づいてきた。

「お二方がまだ帰っていなくてよかったです。ギルド職員の方から聞いたのですがお二方は旅をされているのでしょう?」

「そうだな。次はここから南にあるグラズバの街に向かう予定だ」

「それでしたら今回お二方には大変ご迷惑をおかけしましたので、我々で用意した馬車で次の目的地に送り致しましょうか?」

 マーカスはそう言いながら近くに待機させていた馬車を指差す。それを確認するが明らかに普通の馬車ではなく、騎士団のマークが書かれた要人護送用の馬車であることがわかる。

「至れり尽くせりだな。何故そこまでオレたちに肩を入れる?」

「疑う気持ちもわかりますが、少なくともここの方々は貴方達に感謝している。それにこの村も王国の領地です」

「領地内での功労者を労うのは当たり前ですよ」

 そう笑顔で話すマーカスだったが先程の決闘の件もあり、イマイチ信用ならないと思っている二人を見て苦笑いを浮かべる。

 そんなとき横で待機していた騎士団の一人が口を開く。

「ウィル様。ロイ様。こちらの馬鹿が言っていることはあまり気にしないで下さい」

 そう話す騎士団員…中性的な見た目の青年が
頭を下げてくる。

「先程お話した以上の思惑はございません。コチラの馬車は我々のお詫びの気持ちでございます。道中も我々が護衛いたしますので、どうかご安心してお乗り下さい」

「それでも信用出来ないようでしたら、別の馬車代をご用意することもできますが…」

 申し訳無さそうに話す青年にいきなり罵倒されたマーカスは少し怒ったように訴える。

「レヴィル、私はこれでもあなたの上司ですよ!?なんですかその言い草は!?」

「はぁ…でしたらもっと騎士団らしい行動を心がけて下さい。お二方に迷惑をかけた挙げ句に騎士団の顔に泥を塗るなんて…」

「うぐぐ…」

 何やら仲間割れをしている二人に困惑するロイを尻目にウィルがこれでは話が進まないと判断し仲裁する。

「わかったこの馬車で構わん。だから喧嘩は帰ってからやれ」

「これは失礼しました。ほらレヴィルも謝ってください」

「いや、そちらの青年の謝罪は不要だ。元はと言えばお前が原因だろ」

「はい、大変申し訳ありませんでした…」

 先程までとは違いションボリするマーカスを気にせずレヴィル感謝の言葉を述べ、今後の予定の確認をする。

「ウィル様のお心遣い感謝いたします。出発日時がお決まりになりましたら、わたくしめにお伝え下さい。日中であればこちらのギルでお待ちしておりますので」

「ああ、わかった…ロイ一度宿屋に戻るぞ」

「は…はい」

 こうして二人は宿屋へと戻って行った。





 二人を見送ったマーカスとレヴィルは真剣な表情で今日の一連の出来事を振り返っていた。

「…それで、何故あの様なことをされたのですか?」

 普段ではあまり見ることのないマーカスの不自然な対応に疑問を覚えていたレヴィルは素直に尋ねる。

「ウィルという男についてすこし気になったことがあったんですよ」

 その発言を聞きレヴィルは首を傾げる。

「気になることですか?」

「ええ」

 マーカスは頷くと未だ付近で馬車の準備をしている部下たちを見ながら、気になる点を説明しだす。

「まず気になったことは魔族です。この周辺では直近20年間の魔族出現報告が一切ありませんでした」

「そうですね。もし魔族が出たらすぐ王都で討伐隊が組まれるはずです。ですが出現自体は対して珍しいものではないのでは?」

「ええ…出現自体は何も不思議な点はありませんが、今回出現したのは獣人種です」

「あの種は強い警戒心と縄張り意識を持っている。それに同種感でも殺し合いをするような危険な魔族です」

「それがどうかしたのですか」

「…西側の街で賊が魔族に襲撃される事件がありました。その魔物は獣人種だと生存者は報告しています」

「西側…ロベータですか?そこで出た魔族と今回の魔族が同一個体だと...?」

「ええ、魔素鑑定は一致でしたので恐らくは同一個体でしょう…そしてここからが本題です」

 マーカスはいちど息を吸い真剣な面持ちで話を続ける。

「その魔族は【虎牙の剣鬼】によって撃退されたとの情報が入ったのです」

「虎牙の…最近噂の辻斬りですね」

「ええ、そして剣鬼は撃退後賊を殆ど殺した後にすぐ姿をくらましたそうです。まるで魔族の後を追うように…」

「まさか、あの2人のどちらかが剣鬼だと?」

「いえ、ロイさんは限りなくシロです。王都の登録証を照合しましたし、身元も判明していますから…問題はウィルさんの方です」

 マーカスは懐から数枚の紙束を出しレヴィルにわたす。

「これは?」

「【夜目】を通じて調べ上げた、ウィルさんの調査記録です。」

 レヴィルは渡された調査記録を確認する。そしてとある一文に目が留まる。

「ほとんど身元を証明できる情報はなし…ですか」

「面白いくらいに綺麗さっぱり情報がなくなっていたようです。私も見たことがない武術に得体のしれない身元…これは明らかに」

「裏の人間ですね」

「私もそう睨んでいます。今回の魔族の件…それに得たいのしれない剣士と【虎牙の剣鬼】。これらが完全に無関係とはどうしても思えない」

「それはいつもの勘ですか?」

「はい、勘ですね」

「流石に直感が理由では捕らえられませんよ?」

「だから彼と戦ったんでしょう」

 その発言にレヴィルまた首を傾げる。

「どういうことですか?」

「…気が付きませんか。まだまだ甘いですね。ルーク準備はできましたか?」

「ええ、準備完了です。どうぞ馬車の荷台に乗ってください」

 決闘を観戦しているときに何かを察していた騎士団員…ルークは荷台でなにかの準備をしそれも完了したのか荷台から顔を出してくる。

「ルーク先輩? なんの準備をしていたんですか?」

「お前なぁ…一番若いんだから話してないで手伝えよ…まあそれはいいや。とにかく今準備していたのは魔素鑑定用の魔導具だ」

「魔素鑑定…あ!?」

 ここでようやくレヴィルはマーカスの思惑に気がつく。

「やっと気が付きましたか。そうです…私が彼と戦った本当の理由は彼の魔力を調べるためです」

「なるほど。【虎牙の剣鬼】は強化魔法を使う事がわかっているから彼の魔力と比較して同一人物か調べるんですね!!」

「その通りです。よくできました!!」

 そう言いながら笑ってレヴィルの頭を雑に撫でる。その行動にレヴィルは顔を紅く染めながら抵抗する。

「ちょっと…!?セクハラですよこれ!?」

「頭を撫でただけでセクハラはちょっと純情過ぎませんか…?」

 苦笑いを浮かべるマーカスに対し更に顔を赤く染めるレヴィルは頭に乗せられた手を払う。

「ちょっとマーカスさん。イチャつくの後にしてくださいよ。魔素鑑定は時間が経つと精度が落ちてしまいますから」

 そんな2人を見かねてかルークは荷台に入るよう催促してくる。

「それもそうですね。ではレヴィルあとの処理は任せましたよ」

「…はい、わかりました」

 レヴィルは未だ紅い顔を隠すように手で覆いながら、口をすぼめ了解すした。

「彼がもし【虎牙の剣鬼】だったら馬車内から出れないよう結界を展開し即捕縛して下さい。それから王都の牢へと一時収容します」

「「了解しました!!」」

 いつの間にか集まっていた他の団員が整列しながら命令を聞き受けた。その顔は少し口角が上がっているようにも見える。

「…どこまで見てました?」

「…まあまあ最初からというか」

「…まあその、なぁ?」

「…わかりました。剣鬼より先に貴方達を成敗します!!」

 団員を追いかけ回すレヴィルを横目に荷台へ入ってマーカスは魔素鑑定の準備をする。そんなマーカスへルークは笑いながら尋ねる。

「いいんですか放っておいても」

「まあ、彼女は我らチーム期待の新人ですから。今のうちだけでも楽しませてあげげましょう。もうすぐそうも言ってられなくなりますからね…」

「…あの噂はほんとうなのですか?」

 ルークのその発言に準備の手を止め顔をあげる。

「法国の使者が正式に国王へ伝を持ってきたそうです」

 マーカスは深刻そうな面持ちで一度息を吸い、そして…

「【聖人の再誕】その【予兆】が出現したと…」

 マーカスの発言を聞き、新たな【伝説】の幕が開けたことをルークは瞬時に悟った。
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