剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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女神の奇跡と凶兆

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 出発から数日たったある日のこと。一度馬車を止め詳しい位置の確認をしている騎士団員を横目にウィルとロイはとある現象を目の当たりにしていた。

「あっ!!先生みてください女神の奇跡ですよ!!」

 ロイは空を指差しながら興奮気味にウィルへと話しかける。それにつられて空を見てみると、遠くのに薄っすらと7色の帯が森の彼方へと伸びていた。

「女神の奇跡か…あんまり好ましくはないな」

「え、どうしてですか?」

 ロイは不思議そうな顔でウィルに聞き返す。

「旅人の間ではあの現象は凶兆と言われている。嵐の前触れまたは既に嵐が通り去った後に出来るとされている」

「へぇーそうなんですね。でも王都で見かけたことは何度かありますけど嵐にはならんかったですよ?」

「本当に嵐が起きるのかは分からない。実際に雨の後には小さな奇跡が現れることは多いらしい」

 ウィルとロイがそんな事を話していると窓から騎士団員がノックしてくる。ロイは窓を開けるとそこにはレヴィルが立っており

「ウィル様、ロイ様。もうそろそろ中間拠点に到着する予定だったのですが、どうやらここから南西の村で嵐が直撃したらしく一番近くにいた我々が一度現状の確認をすることになりまして…」

 レヴィルは申し訳無さそうな顔をしながら頭を下げてくる。

「申し訳ないのですが…そちらを通ってのルートに変更させていただいてもよろしいでしょうか?」

「僕は全然いいですけど、先生どうします?」

「そうだな…特に急いでいるわけではない。好きにしろ」

「はい、本当にありがとうございます!!」

 そう言いレヴィルはもう一度深々と頭お下げながら本の配置へと戻っていった。

「先生、本名に嵐が置きましたね?」

「ああ、正直本当に起こるとは思っていなかったが、やはりこういった商人の噂は馬鹿にならないな」

「そうですね。というか嵐が直撃して騎士団が向かうってことは、だいぶ大きな嵐だったんですかね」

「下手をしたら死人が出ているやもしれないな」

「わかってはいましたが…やっぱり王都の外は危険が多いんですね。父はやはり…」

 ロイはこの数日間で師匠でもある父の手がかりを探しながら旅をしていた。先日の開拓村では商人に似た人物を見かけたことはないか聞き、ギルドでは行方不明者の捜索依頼を出していた。

「…」

「あっ…すみません。先生にこんなこと言っても仕方ないですよね!!」

「いや、かまわない。それはお前にとって重要なことだろう。それを否定する事はオレにはできないからな」

「?...そうですか?」

 ロイはそんなこんなでしばらく話していると馬車が突然止まり外が騒がしくなり始める。

「どうしたんでしょうか?なんか騒がしいですし」

「…ロイ。武器を準備しろ」

「え…」

「…賊だ」

そうウィルが言うと数瞬遅れて騎士団員が窓を開き焦った顔で警告してくる。

「ウィル樣ロイ樣。賊が出現しました。危険ですのでコチラから動かないようにして下さい!!」

 それだけ伝えると騎士団員は周囲を警戒しだす。どうやら賊が現れたのは正面だが、まだ周りに隠れている可能性もある。その為見えなくても周囲を警戒することが重要なのだ。

「ロイ。敵は15人以上20人以下の大人数だ。行けるか?」

「…ボクが嫌だと言っても先生は、尻を蹴って戦いに行かせるでしょう?」

 ロイの発言に口元を緩ませる。

「わかってきたじゃないか」

「そりゃああんだけ蹴られたら…先生はどうするんですか?」

「もちろんお前の戦いっぷりを見学させてもらう。失望させるなよ」

「もちろんです!!」

 そう元気よく返事するとロイは馬車の扉を勢いよく上げ戦地へと向かおうとするが、それをウィルは一度呼び止める。

「ロイ。一度に相手取れるのは多くて2人までだ。それ以上は相手にするな。卑怯な行為でも躊躇せずに利用しろ、使えるモノは何でも使え…いいな?」

「…はい!!」

 ウィルのアドバイスを聞いたロイは改めて戦地へと赴向いた。
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