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ばあばのスマホデビュー
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「みよちゃん、一緒にケータイショップに行って欲しいの」
通ってる大学が夏休みで暇だった私は、近所に住んでいる父方のおばあちゃんの家に遊びに来ていた。
「ばあばのガラケー、調子悪いの?」
私は、幼いころから、おばあちゃんの事をばあばと呼んでいる。
「違うのよ!スマホにしたいの!」
ばあばの突然の申し出に、そういえばそろそろガラケーの生産が終了するんだったなあと思い出した。
「だいじょうぶ~~? 固定電話とパソコンでいいんじゃない?」
ばあばはかろうじて、パソコンで文字を打ったり、ネット検索することはできる。ただ、タイピングは人差し指だ。
「自転車にね! スマホつけてる人を見てね。あーゆうふうにすれば、スマホが道案内してくれるんでしょ? それにばあばは、昔から自転車にテレビがついてたらいいなと思ってたのよね」
「あーー、なるほど」
ばあばは、七十三歳だが、足腰が強く自転車でどこまでも行ってしまうほど活発だ。
「昔じゃ考えられないことよ~。夢が広がるわ」
「自転車乗りながら、テレビ見るのは危ないけど、ナビは良いかもね」
ばあばが出してくれたおせんべいと100%のオレンジジュースを飲み込みながら、どこのケータイショップに行こうかなと考えていた。
「契約は安いのがいいの!格安シムにするわ!」
ばあばも、結構調べてんな。パソコンで何時間もかけて調べたのかな。
そして、二人で近所のケータイショップに行って、ばあばのスマホを契約してきた。
とりあえず、電話のかけ方をばあばに教えた。なかなか覚えるのに時間がかかりそうだ。
「明日もまた来るから。またスマホの操作教えてあげるね」
「みよちゃん、ありがとう」
次の日。ばあばの家にくると玄関に見慣れない靴が二足あった。
「ばあば、誰か来てるの?」
勝手知ったるや、という感じで、いつものように居間に入っていく。
「こんにちは」
「まぁ、みよちゃん。すっかり垢抜けて、綺麗になったわね」
そこには、ばあばと、ポロシャツの上に薄めのジャケットを羽織ったイケメン風のおじいさん。そして、ばあばの親友の礼子おばあちゃんがいた。
二人とも、手には真新しいスマホが握られていた。
「こんにちは。えっと、こちらの方は?」
私の前にケーキとりんごジュースを並べるばあばに問いかけた。
「こちら、ゲンさん。源一郎さんっていうの。老人会でね。知り合ったの。二人にもスマホ教えてあげて、みよちゃん」
おーー!まさかのスマホ教室開催ですか。
そう思いながらも腕がなる。
私はスマホもパソコンも中学生の頃から使いこなしているので、分からないことなどない。
「いいよいいよ~~!」
「このケーキ、ゲンさんが買ってきてくれたのよ。皆で食べましょ!」
ばあばは、お茶とケーキを皆の前にも並べた。
「ちょっとだけね。息子の嫁さんに習ってきたの。電話はもうかけられるようになったのよ」
礼子さんが、私にスマホを見せながら、アドレス帳から電話をかけるまでをたどたどしく操作する。
「うんうん」
私はりんごジュースを飲みながら、礼子さんの手助けを少しする。
「よろしくね、みよちゃん。僕はね、孫にね。習ってきたんだ。ライムってのを入れてもらったんだけど、花さんと礼子さんとライムできるようにするにはどうしたらいいのかな?」
花さんとは、ばあばのことだ。
ゲンさんのスマホを見て驚く。これはアイホンだ。
「ゲンさんのスマホ、アイホンじゃないですか~~! 奮発しましたね」
ばあばがにこにこしながら、話に入ってくる。
「昨日お店で見たけどアイホンって高かったものね。ゲンさんは大きい会社を経営してる役員さんだからね。頭もいいからすぐ覚えちゃうと思うわ」
ゲンさんは、頭をかきながら照れてる。
「今は、息子が社長なんだけどね。楽させてもらってるよ」
「そうなんですね~~。じゃあ、とりあえず今日はライムのやり方を教えますね」
三人にじっくりライムのID交換のやり方を教えた。ゲンさんは覚えが早くて驚いた。御歳七十五歳とのことだ。
女性陣二人は、たどたどしくて、たまに変なところに指が当たって画面が変わって驚いていた。教えるのに苦労したが、とても楽しい。
「ゲンさんはね。花ちゃんのことが好きなのよ」
礼子さんが私にこっそり耳打ちしてきて、私のワクワクが爆発しそうだった。
ばあばは七年前におじいちゃんを亡くしていて、一人暮らしだ。
とても仲良さそうに、ゲンさんにアドバイスをもらってるばあばを見て、こりゃ私もがんばらなきゃ⋯⋯! と張り切る気持ちになる。ばあば、すごくゲンさんとお似合いじゃん!
ゲンさんは教えたことをすぐ覚えてしまうし、だいぶお孫さんに習ってきたようで、私がゲンさんに教えることはあまり無かった。
私よりゲンさんがばあばにたくさん教えていた。
私は礼子さんにライムの操作を教えながら、横目に二人を見ていた。
ゲンさんの買ってきてくれたケーキは甘くて口の中ですぐにとろけてなくなるような生クリームがのっていた。
数ヶ月後。
【みよちゃん、今日はゲンさんとチューリップ畑を見に行ったのよ】
ばあばからのライムのメッセージと色とりどりのチューリップの写真。
ゲンさんとばあばは、スマホのおかげでどんどん仲良くなってるようだ。
ばあばはゲンさんの車に乗せて貰ってるので、せっかくスマホのナビもじっくり教えたのに、あまり自転車は乗ってないみたいだ。
礼子さんのもとにも、ばあばから同じようなメッセージが届いているんだろう。
ゲンさんは私に大学を卒業したら、うちの会社にこないかと言ってくれている。
こうして就活も終わったようなもんな暇な私は、ばあばの家にプラプラと遊びに行っている。
「花さんの活発で、臆せずになんにでも挑戦する所が好きなんだ」
ゲンさんは後にこう語っていた。
終
※この作品は、2024年に地元の障害者ふれあいフェスティバルに応募したものです。
通ってる大学が夏休みで暇だった私は、近所に住んでいる父方のおばあちゃんの家に遊びに来ていた。
「ばあばのガラケー、調子悪いの?」
私は、幼いころから、おばあちゃんの事をばあばと呼んでいる。
「違うのよ!スマホにしたいの!」
ばあばの突然の申し出に、そういえばそろそろガラケーの生産が終了するんだったなあと思い出した。
「だいじょうぶ~~? 固定電話とパソコンでいいんじゃない?」
ばあばはかろうじて、パソコンで文字を打ったり、ネット検索することはできる。ただ、タイピングは人差し指だ。
「自転車にね! スマホつけてる人を見てね。あーゆうふうにすれば、スマホが道案内してくれるんでしょ? それにばあばは、昔から自転車にテレビがついてたらいいなと思ってたのよね」
「あーー、なるほど」
ばあばは、七十三歳だが、足腰が強く自転車でどこまでも行ってしまうほど活発だ。
「昔じゃ考えられないことよ~。夢が広がるわ」
「自転車乗りながら、テレビ見るのは危ないけど、ナビは良いかもね」
ばあばが出してくれたおせんべいと100%のオレンジジュースを飲み込みながら、どこのケータイショップに行こうかなと考えていた。
「契約は安いのがいいの!格安シムにするわ!」
ばあばも、結構調べてんな。パソコンで何時間もかけて調べたのかな。
そして、二人で近所のケータイショップに行って、ばあばのスマホを契約してきた。
とりあえず、電話のかけ方をばあばに教えた。なかなか覚えるのに時間がかかりそうだ。
「明日もまた来るから。またスマホの操作教えてあげるね」
「みよちゃん、ありがとう」
次の日。ばあばの家にくると玄関に見慣れない靴が二足あった。
「ばあば、誰か来てるの?」
勝手知ったるや、という感じで、いつものように居間に入っていく。
「こんにちは」
「まぁ、みよちゃん。すっかり垢抜けて、綺麗になったわね」
そこには、ばあばと、ポロシャツの上に薄めのジャケットを羽織ったイケメン風のおじいさん。そして、ばあばの親友の礼子おばあちゃんがいた。
二人とも、手には真新しいスマホが握られていた。
「こんにちは。えっと、こちらの方は?」
私の前にケーキとりんごジュースを並べるばあばに問いかけた。
「こちら、ゲンさん。源一郎さんっていうの。老人会でね。知り合ったの。二人にもスマホ教えてあげて、みよちゃん」
おーー!まさかのスマホ教室開催ですか。
そう思いながらも腕がなる。
私はスマホもパソコンも中学生の頃から使いこなしているので、分からないことなどない。
「いいよいいよ~~!」
「このケーキ、ゲンさんが買ってきてくれたのよ。皆で食べましょ!」
ばあばは、お茶とケーキを皆の前にも並べた。
「ちょっとだけね。息子の嫁さんに習ってきたの。電話はもうかけられるようになったのよ」
礼子さんが、私にスマホを見せながら、アドレス帳から電話をかけるまでをたどたどしく操作する。
「うんうん」
私はりんごジュースを飲みながら、礼子さんの手助けを少しする。
「よろしくね、みよちゃん。僕はね、孫にね。習ってきたんだ。ライムってのを入れてもらったんだけど、花さんと礼子さんとライムできるようにするにはどうしたらいいのかな?」
花さんとは、ばあばのことだ。
ゲンさんのスマホを見て驚く。これはアイホンだ。
「ゲンさんのスマホ、アイホンじゃないですか~~! 奮発しましたね」
ばあばがにこにこしながら、話に入ってくる。
「昨日お店で見たけどアイホンって高かったものね。ゲンさんは大きい会社を経営してる役員さんだからね。頭もいいからすぐ覚えちゃうと思うわ」
ゲンさんは、頭をかきながら照れてる。
「今は、息子が社長なんだけどね。楽させてもらってるよ」
「そうなんですね~~。じゃあ、とりあえず今日はライムのやり方を教えますね」
三人にじっくりライムのID交換のやり方を教えた。ゲンさんは覚えが早くて驚いた。御歳七十五歳とのことだ。
女性陣二人は、たどたどしくて、たまに変なところに指が当たって画面が変わって驚いていた。教えるのに苦労したが、とても楽しい。
「ゲンさんはね。花ちゃんのことが好きなのよ」
礼子さんが私にこっそり耳打ちしてきて、私のワクワクが爆発しそうだった。
ばあばは七年前におじいちゃんを亡くしていて、一人暮らしだ。
とても仲良さそうに、ゲンさんにアドバイスをもらってるばあばを見て、こりゃ私もがんばらなきゃ⋯⋯! と張り切る気持ちになる。ばあば、すごくゲンさんとお似合いじゃん!
ゲンさんは教えたことをすぐ覚えてしまうし、だいぶお孫さんに習ってきたようで、私がゲンさんに教えることはあまり無かった。
私よりゲンさんがばあばにたくさん教えていた。
私は礼子さんにライムの操作を教えながら、横目に二人を見ていた。
ゲンさんの買ってきてくれたケーキは甘くて口の中ですぐにとろけてなくなるような生クリームがのっていた。
数ヶ月後。
【みよちゃん、今日はゲンさんとチューリップ畑を見に行ったのよ】
ばあばからのライムのメッセージと色とりどりのチューリップの写真。
ゲンさんとばあばは、スマホのおかげでどんどん仲良くなってるようだ。
ばあばはゲンさんの車に乗せて貰ってるので、せっかくスマホのナビもじっくり教えたのに、あまり自転車は乗ってないみたいだ。
礼子さんのもとにも、ばあばから同じようなメッセージが届いているんだろう。
ゲンさんは私に大学を卒業したら、うちの会社にこないかと言ってくれている。
こうして就活も終わったようなもんな暇な私は、ばあばの家にプラプラと遊びに行っている。
「花さんの活発で、臆せずになんにでも挑戦する所が好きなんだ」
ゲンさんは後にこう語っていた。
終
※この作品は、2024年に地元の障害者ふれあいフェスティバルに応募したものです。
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