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7. 最終話 最低で最高の言葉
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連れて来られたのは、落ち着いた雰囲気の小さな店。
こんな遅い時間に開いてるなんて完全にこいつが仕組んでるとしか思えないんだけど、店主の白髪の老人は、ゆっくりとした動作で作業をしている。
俺はあたりを見回しながら店の装飾に目を向けていた。
向かいに座った有栖川は、何も言わず置かれているコップに手を取り飲んでいる。
コトンとコップを置く音に何故かビクッと肩が上がってしまった俺を見ていた有栖川は「何処から話をするのがいいのかな」と独り言のように言っている。
視線はこちらに向けているという事は、俺に何かを求めてる?
そう思ってたけど、その視線は言葉と共にふわりとどこかに行ってしまった。
まただ。
また、この妙な距離感。
『距離を置こう』ってそういう意味?
明らかに壁を作られているような気がしてならないのは今から話をしてくれることとなんか関係があるのか?
「お前ってさ────」
我に返り有栖川の目を見ると、学校でよく見ていたあの黒アリスと同じだった。
「えっ……」
思わず声が漏れた。
大きく大袈裟にため息を漏らした有栖川は「お前それ無意識?」と言われ「な、何がだよ」と聞けば「ずっと気になってたんだよ。何か酷く考え込んでる時って爪を噛んでる。そう言うとこ、あいつにそっくりだ」
頭を抱えるように最後は何て言ってるかよく聞こえないくらいしりつぼにみになっていた。
「有栖川……なに、言ってんだ……あいつって、誰?」
言葉にならない。
ひっつきそうなほど喉がカラカラ。なんでこんなに緊張してるんだろう。
「お前の癖だよ。俺の事考えてる時は特に酷い。それ意識した方が良いぞ?」
「──せいで……んだよ……」
「ん?」
睨むように視線を向け口を開きかけた所へ店主の老人がコーヒーを淹れたカップを持ってテーブルに来た。
「遅くにすいません」
「恭平君の願いじゃ、店を開けんわけにいかんだろう。ゆっくりしていくといい」
穏やかそうなその老人は俺の方を見て驚いた顔をした。
小首を傾げ老人を見ていると有栖川は何かを察したのか「あぁ、こいつはあの人の弟です」そう言った。
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