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7. 最終話 最低で最高の言葉
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しおりを挟む「んーお礼って言ってもなぁ。別に進路相談は誰にしたわけでもないし、各教科の先生にはフツーに接してたから大して俺なんて印象にないだろうし」
ここはやっぱり有栖川のところへ行って……って「あいつがいればの話だけどな」
ひとりごちりながら職員室の前まで来た。
適当にここにいる先生たちにお礼でも言って─────「そうだったんですねぇ。でもお元気そうでよかったです。有栖川先生がいなくて生徒たちはなんか元気ないですよ」
「そんなことはないでしょう。俺がいなくても日々は過ぎていくし生徒たちは俺を忘れていくもんですよ」
「そんな寂しいこと言わないでくださいよぉ。あ、今夜飲みに行きません?」
「いやいや。少し用事を済ませたら帰らないとなんで」
「たまには良いじゃないですかぁ。最近付き合い悪いですよぉ?有栖川先生?」
「あははぁ」
このやり取り─────
職員室のドアを開けようとしていた手が止まりそのまま動けなくなった。
俺がいる事なんて当然知る由もない中の二人の会話は進んでいく。
「せっかく久しぶりにお会いできたんですから是非!」
「あぁ、あはは。今まであまりそう言う付き合いをしてこなかったので、苦手なんですよ」
「じゃ、これを機にって事で是非!」
「だぁからぁ俺の話聞いてます?」
少しずつイライラが募って気ている様子の有栖川の口調が笑えて思わず口元が緩んでしまった。
「それじゃ、失礼します」
やべっ!!!
惜しむ声をよそに、有栖川の声がこちらに近づいてくるのが分かり焦った俺はあたりを見回した。
ギリ隠れられる掃除ロッカーを見つけ、そこに身体を無理やりに押し込めて息を殺した。
俺が隠れている場所で運悪く有栖川が足を止めている。
『あぁ、倫太郎の匂いがするんだけど』
なんなんだよ!!!
ばれてる気がしてならないのに、有栖川はそのまま去っていってしまった。
完全に足音が聞こえなくなるまで我慢した俺は、勢いよっく掃除ロッカーから飛び出して、身体中を撫で拭いた。
「あいつ何なんだよ!!」
有栖川がいった方向に視線を向けながら、あいつの鋭い感覚に若干の怯えを感じた。
でも逆に考えるとそれだけ俺の事を思ってくれてるって事??なのか?
あいつに限ってそんな執着するようには見えないけど。
でも、少しは俺の事を考えてくれてるって事でいいのかな。
小さくため息を漏らし、職員室に向かった。
職員室内には、先ほど有栖川と話をしていただろう教員が一人と、隅の方でひたすらにパソコンと向き合っている事務の人が一人いるだけだった。
「こんにちは。失礼します」
俺の声に二人同時にこちらに視線を向けてきた。
「武田君。どうしたのですか?」
事務の人はすぐに視線を戻し、作業に入っている。
「あ!君、有栖川先生のクラスだよね?さっき有栖川先生が来てましたよ?会いました?」
「え、え?あ、有栖川先生?」
動揺を見せない様に知らんふりをして、首を横に振った。
「あれ?おっかしいなぁ。今さっきここを出てったばかりなのに」
首をかしげる教員は「有栖川先生本当にお忙しそうでしたよ。卒業式でられるといいですね」と言った。
「そう、ですね……」
それから他愛ない会話を少しして、俺はその教員にお礼を言って職員室を後にした。
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