キミがまた笑える日が来るまで

空野そら

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第一章:僕らに慣れるまで

第一章:第五話【寒い】

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 人という生物は必ず何かしらの過ちを犯してしまう。それは過ちの大小関係なしに、人生の経験値として蓄えられるものだ。そして、蓄えた経験値を使って、後の人生を華やかにしていく。
 人生とは大体こんなもんなのだろう。だがしかし、俺は今。過ちと同時に一歩間違えれば人をダメにしてしまう選択肢を取らされていた。


「え~っと、菜美なみ、本当にコーヒーとパンだけでいいのか?」
「......(コク」


 コーヒーとパン。それを朝食に、だ。普通なら優雅なモーニングメニューと思うだろうが、一年半の引きこもり少女が久しぶりの朝食に優雅なモーニングメニューを食べるだろうか。
 ただの偏見で申し訳ないのだが、俺個人的には有り得ないとしか言いようがない。まあ別に俺個人の偏見がどうこうでここまで彼女に聞くことなんてしない。
 ただ、ある個人的な事情から、一時的にもこの場を離れたい。それだけの理由でここまで何回も確認しているのだ。理由と言っても、母専用のインスタントコーヒーを無断で使用し、叱責を食らうのが面倒くさいだけなのだが。
 そんな個人的な理由だからなのか、神が見てくれなかったのか、菜美は一切要望を伝えてから口を動かさずにいた。
 若干焦りを感じるが、まだ万策尽きたという訳ではない。ここは全てを智美紀ちみきに任せ、俺だけがこの場を離れればいい話。だがこれを実行するなら最悪の状況になる一歩手前で——。


「あんた、また勝手に使ったでしょ」


 バレてしまった。もうこうなってしまったら仕方がない。全て開き直ることにしよう。


「なんだよ悪いか?」
「悪いわ! 何なのよいつもいつも、私のお気に入りのコーヒーを......」
「別にインスタントだろ? そこら辺で買えるしいいじゃねぇか」
「よくないですー! これは私のお金で買った、一つしかないものなのよ?」
「へー、さいですか」
「そんなことよりも、パンってどこだ? それと菜美用のマグカップも」
「そんなことって! 私からしたら——」
「はいはい、さっさと教えましょうねー」
「クソォ、覚えてろぉ.......それで? パンはそこの棚で、菜美ちゃんのマグカップはそこの引き出し」
「切り替えが早い」


 切り替えが早いというのは良いことなのだが、こうもいきなり変われば不思議を通り越し、怖さが買ってしまう。まあいつまでもグチグチ言い合うのも疲れると判断したのだろう。
 取り敢えず、一命は取り留めた。次の課題は菜美の朝食と菜美への謝罪か、とどう謝ればいいのか考えながら智美紀に指示されたところから食パンとマグカップを取り出す。
 そしてパンをさらに置き、マグカップに智美紀専用のインスタントコーヒーの粉を投入し、お湯を淹れる。
 マグカップから湯気立ったところで、俺は二つを手にして、ダイニングテーブルへコトという音を立てながら置く。


「菜美、朝食だぞ」
「............」


 呼び付ける。が返事は無し。それでもソファから立ち上がって朝食が置かれたダイニングテーブルの椅子に腰を掛ける。
 そして一口、マグカップにプルンと綺麗な桜色に染まった唇を付けて、コーヒーを啜る。


「まだ...寒い」


 そう一言を零す。
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