ナンセンス文学

イシナギ

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悪魔の過去

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昼食、と言っていたが何を作るんだろう…。怪物が食べる物だから、まさか人肉とか?いやカエルとか動物の血とかのゲテモノか?キッチンの入り口でそんな事を考えていると、奥からひとつめ様の声がした。
「文、冷蔵庫のほうれん草とまな板の上に置いてあるじゃがいも切っといてくれ。切り方は何でもいい。あとな、ジンガイだからってゲテモノばっか食うと思うなよ」
最後の一言は呆れたような言い方だった。手を洗うと、僕はシンクで何かブツブツと呟くひとつめ様をしり目に、先程言われた通り材料を切り始めた。ひとつめ様が顔だけこちらに向けて「それを炒めといてくれ。オリーブオイルがそこに置いてあるからそれを使うといい」とシンクの隣のコンロを指さした。
調理していると匂いに釣られてきたのか、USAやセバスチャンがスキを見てつまみ食いしようとする。油が飛ぶから危ない、と言ってコンロ台から降ろしても懲りずに登って来て、ひとつめ様に叱られていた。叱られてモジモジする可愛い仕草も彼には通用しないらしい(笑)
指示された事を終えると部屋に戻っていいとのことだったので、セバスチャン達の遊び相手をすることにした。するとこの間から世話をする事になったあの怪物も、構ってとばかりに擦り寄ってくる。タマゴは昼寝中だったので起こさないように場所を変えた。そういえばずっと怪物、と呼んでいるコイツの名前を決めていなかった。見た目がお世辞にもカッコいいとは言えないから...あ!と思いついた名前を呼んでみる。
「ナンセンス!」すると怪物━━ナンセンスは目をこちらに向けて一声鳴いた。気に入ってくれた様だ。少しホッとしながら、先に行ってしまったUSA達の後を追う。
暫く経って昼食の支度が出来たのでリビングに向かった。さっき作った野菜のソテーと、ひとつめ様が作ったであろうピラフが食卓に並んでいた。
「なぜ料理だけは能力を使わずにするんですか?」
「そこは私のこだわりでな。自分の知識と力量だけで作りたいんだ。」
意外な一面があるものだ...。そういえばパイロンはどこに居るんだろう?
「パイロンはまだ降りてきてないな...。兄の事だろう。今はそっとしといてやりなさい」と、ひとつめ様は少し沈んだ声で言った。

昼食が終わると、僕はやっぱりパイロンの事が気になったので彼女の部屋に行った。一度呼んでみると、奥から、入れば、と返事が来た。そっとドアを開けて足を踏み入れる。部屋にいる彼女は、まるで別人のような暗い顔をしていた...。思わず駆け寄る僕。
「兄との思い出を全部思い出したのに...あの人の名前を覚えてないの...っ」消え入るような声でそう言ったパイロンの目は、自分自身を責めているように見えた。何か言葉をかけようとしたが、僕には出来なかった...。僕も大事な人を失ったことが一度だけある。僕の場合は名前以外、1つの事を残して全て忘れてしまった。だがそれが何の慰めになる?そう考えてしまうと、頭に浮かんだ言葉は全て消えてしまうのである。

数分してから僕は自室に戻った。パイロンの部屋を出てからずっと、ある事を回想していた。僕が失った大事な人...。
......あれは7年程前。バカで友達がいなかった僕と唯一一緒にいてくれた幼馴染がいた。名前はガク、だったと思う。その頃から両親は居らず、施設の中でも浮いていて職員にまで避けられていた僕には、学だけが友達だった。それでも、学といるのは楽しかったし、不満は無かった。だが...事件ソレは突然起きた。
当時施設近隣では、子供が沢山いる場所を狙った殺人鬼が出没し、様々な場所で凄い数の被害者が出ていた。当然子供が沢山いるこの施設にもそいつらは来たのだ。皆が寝静まった夜に。そこからはあっという間だった...。1番頼りにしている職員達や、いつもはしゃいでる子供達がそこらじゅうに倒れていた。学は無事かと探し回っていた僕は、ある光景を見て目を疑った。
......学は調理室でその体から赤黒い液体を流し、あの殺人鬼の男に首を掴んで持ち上げられていたのだ。その瞬間、僕の中で何かが切れた。そして━━━━━━━
「うわぁああああああぁああああ!!!」
相手の銃口が火を吹くのもお構いなしに駆け出し、握り締めた包丁をそいつの腹に突き刺した。何度も、何度も。  当然殺人鬼は死んだ。友達を殺されたから復讐した。それで良かったハズなのに。僕は人殺しという行為に快感を覚えてしまった...。


ドクンっ

!?「な、何これ...。ヤバい、手が震えるし...」声が出ない...!さっきの大きな心拍音と同時に、全身に異変が現れた。脳裏をよぎるあの光景。ニヤニヤと下品な笑いを浮かべたあいつの顔。やめろ...出てくるな!ここは異次元。もうあいつはいないんだ...。そんなこと分かってるはずなのに、怒りが収まらない。それどころかどんどん酷くなる一方だ。落ち着け!自分をコントロールしろ!そんな心の声もすぐに掻き消えてしまった。ダメだ!本当の僕はこんなんじゃ...!  
───あれ?そもそも「本当の僕」なんか居たっけ?ただ快楽を得るために殺し続けてきた僕か?憎しみに呑まれて仇討ちをした僕か?   いやどれも違う。正解なんて...っ
その時だった。
「コロセ」

あの声が聞こえたのは。


「ぁぁあああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

そして目の前が真っ暗になった...。
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