5 / 9
悪魔の過去
しおりを挟む
昼食、と言っていたが何を作るんだろう…。怪物が食べる物だから、まさか人肉とか?いやカエルとか動物の血とかのゲテモノか?キッチンの入り口でそんな事を考えていると、奥からひとつめ様の声がした。
「文、冷蔵庫のほうれん草とまな板の上に置いてあるじゃがいも切っといてくれ。切り方は何でもいい。あとな、ジンガイだからってゲテモノばっか食うと思うなよ」
最後の一言は呆れたような言い方だった。手を洗うと、僕はシンクで何かブツブツと呟くひとつめ様をしり目に、先程言われた通り材料を切り始めた。ひとつめ様が顔だけこちらに向けて「それを炒めといてくれ。オリーブオイルがそこに置いてあるからそれを使うといい」とシンクの隣のコンロを指さした。
調理していると匂いに釣られてきたのか、USAやセバスチャンがスキを見てつまみ食いしようとする。油が飛ぶから危ない、と言ってコンロ台から降ろしても懲りずに登って来て、ひとつめ様に叱られていた。叱られてモジモジする可愛い仕草も彼には通用しないらしい(笑)
指示された事を終えると部屋に戻っていいとのことだったので、セバスチャン達の遊び相手をすることにした。するとこの間から世話をする事になったあの怪物も、構ってとばかりに擦り寄ってくる。タマゴは昼寝中だったので起こさないように場所を変えた。そういえばずっと怪物、と呼んでいるコイツの名前を決めていなかった。見た目がお世辞にもカッコいいとは言えないから...あ!と思いついた名前を呼んでみる。
「ナンセンス!」すると怪物━━ナンセンスは目をこちらに向けて一声鳴いた。気に入ってくれた様だ。少しホッとしながら、先に行ってしまったUSA達の後を追う。
暫く経って昼食の支度が出来たのでリビングに向かった。さっき作った野菜のソテーと、ひとつめ様が作ったであろうピラフが食卓に並んでいた。
「なぜ料理だけは能力を使わずにするんですか?」
「そこは私のこだわりでな。自分の知識と力量だけで作りたいんだ。」
意外な一面があるものだ...。そういえばパイロンはどこに居るんだろう?
「パイロンはまだ降りてきてないな...。兄の事だろう。今はそっとしといてやりなさい」と、ひとつめ様は少し沈んだ声で言った。
昼食が終わると、僕はやっぱりパイロンの事が気になったので彼女の部屋に行った。一度呼んでみると、奥から、入れば、と返事が来た。そっとドアを開けて足を踏み入れる。部屋にいる彼女は、まるで別人のような暗い顔をしていた...。思わず駆け寄る僕。
「兄との思い出を全部思い出したのに...あの人の名前を覚えてないの...っ」消え入るような声でそう言ったパイロンの目は、自分自身を責めているように見えた。何か言葉をかけようとしたが、僕には出来なかった...。僕も大事な人を失ったことが一度だけある。僕の場合は名前以外、1つの事を残して全て忘れてしまった。だがそれが何の慰めになる?そう考えてしまうと、頭に浮かんだ言葉は全て消えてしまうのである。
数分してから僕は自室に戻った。パイロンの部屋を出てからずっと、ある事を回想していた。僕が失った大事な人...。
......あれは7年程前。バカで友達がいなかった僕と唯一一緒にいてくれた幼馴染がいた。名前は学、だったと思う。その頃から両親は居らず、施設の中でも浮いていて職員にまで避けられていた僕には、学だけが友達だった。それでも、学といるのは楽しかったし、不満は無かった。だが...事件は突然起きた。
当時施設近隣では、子供が沢山いる場所を狙った殺人鬼が出没し、様々な場所で凄い数の被害者が出ていた。当然子供が沢山いるこの施設にもそいつらは来たのだ。皆が寝静まった夜に。そこからはあっという間だった...。1番頼りにしている職員達や、いつもはしゃいでる子供達がそこらじゅうに倒れていた。学は無事かと探し回っていた僕は、ある光景を見て目を疑った。
......学は調理室でその体から赤黒い液体を流し、あの殺人鬼の男に首を掴んで持ち上げられていたのだ。その瞬間、僕の中で何かが切れた。そして━━━━━━━
「うわぁああああああぁああああ!!!」
相手の銃口が火を吹くのもお構いなしに駆け出し、握り締めた包丁をそいつの腹に突き刺した。何度も、何度も。 当然殺人鬼は死んだ。友達を殺されたから復讐した。それで良かったハズなのに。僕は人殺しという行為に快感を覚えてしまった...。
ドクンっ
!?「な、何これ...。ヤバい、手が震えるし...」声が出ない...!さっきの大きな心拍音と同時に、全身に異変が現れた。脳裏をよぎるあの光景。ニヤニヤと下品な笑いを浮かべたあいつの顔。やめろ...出てくるな!ここは異次元。もうあいつはいないんだ...。そんなこと分かってるはずなのに、怒りが収まらない。それどころかどんどん酷くなる一方だ。落ち着け!自分をコントロールしろ!そんな心の声もすぐに掻き消えてしまった。ダメだ!本当の僕はこんなんじゃ...!
───あれ?そもそも「本当の僕」なんか居たっけ?ただ快楽を得るために殺し続けてきた僕か?憎しみに呑まれて仇討ちをした僕か? いやどれも違う。正解なんて...っ
その時だった。
「コロセ」
あの声が聞こえたのは。
「ぁぁあああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
そして目の前が真っ暗になった...。
「文、冷蔵庫のほうれん草とまな板の上に置いてあるじゃがいも切っといてくれ。切り方は何でもいい。あとな、ジンガイだからってゲテモノばっか食うと思うなよ」
最後の一言は呆れたような言い方だった。手を洗うと、僕はシンクで何かブツブツと呟くひとつめ様をしり目に、先程言われた通り材料を切り始めた。ひとつめ様が顔だけこちらに向けて「それを炒めといてくれ。オリーブオイルがそこに置いてあるからそれを使うといい」とシンクの隣のコンロを指さした。
調理していると匂いに釣られてきたのか、USAやセバスチャンがスキを見てつまみ食いしようとする。油が飛ぶから危ない、と言ってコンロ台から降ろしても懲りずに登って来て、ひとつめ様に叱られていた。叱られてモジモジする可愛い仕草も彼には通用しないらしい(笑)
指示された事を終えると部屋に戻っていいとのことだったので、セバスチャン達の遊び相手をすることにした。するとこの間から世話をする事になったあの怪物も、構ってとばかりに擦り寄ってくる。タマゴは昼寝中だったので起こさないように場所を変えた。そういえばずっと怪物、と呼んでいるコイツの名前を決めていなかった。見た目がお世辞にもカッコいいとは言えないから...あ!と思いついた名前を呼んでみる。
「ナンセンス!」すると怪物━━ナンセンスは目をこちらに向けて一声鳴いた。気に入ってくれた様だ。少しホッとしながら、先に行ってしまったUSA達の後を追う。
暫く経って昼食の支度が出来たのでリビングに向かった。さっき作った野菜のソテーと、ひとつめ様が作ったであろうピラフが食卓に並んでいた。
「なぜ料理だけは能力を使わずにするんですか?」
「そこは私のこだわりでな。自分の知識と力量だけで作りたいんだ。」
意外な一面があるものだ...。そういえばパイロンはどこに居るんだろう?
「パイロンはまだ降りてきてないな...。兄の事だろう。今はそっとしといてやりなさい」と、ひとつめ様は少し沈んだ声で言った。
昼食が終わると、僕はやっぱりパイロンの事が気になったので彼女の部屋に行った。一度呼んでみると、奥から、入れば、と返事が来た。そっとドアを開けて足を踏み入れる。部屋にいる彼女は、まるで別人のような暗い顔をしていた...。思わず駆け寄る僕。
「兄との思い出を全部思い出したのに...あの人の名前を覚えてないの...っ」消え入るような声でそう言ったパイロンの目は、自分自身を責めているように見えた。何か言葉をかけようとしたが、僕には出来なかった...。僕も大事な人を失ったことが一度だけある。僕の場合は名前以外、1つの事を残して全て忘れてしまった。だがそれが何の慰めになる?そう考えてしまうと、頭に浮かんだ言葉は全て消えてしまうのである。
数分してから僕は自室に戻った。パイロンの部屋を出てからずっと、ある事を回想していた。僕が失った大事な人...。
......あれは7年程前。バカで友達がいなかった僕と唯一一緒にいてくれた幼馴染がいた。名前は学、だったと思う。その頃から両親は居らず、施設の中でも浮いていて職員にまで避けられていた僕には、学だけが友達だった。それでも、学といるのは楽しかったし、不満は無かった。だが...事件は突然起きた。
当時施設近隣では、子供が沢山いる場所を狙った殺人鬼が出没し、様々な場所で凄い数の被害者が出ていた。当然子供が沢山いるこの施設にもそいつらは来たのだ。皆が寝静まった夜に。そこからはあっという間だった...。1番頼りにしている職員達や、いつもはしゃいでる子供達がそこらじゅうに倒れていた。学は無事かと探し回っていた僕は、ある光景を見て目を疑った。
......学は調理室でその体から赤黒い液体を流し、あの殺人鬼の男に首を掴んで持ち上げられていたのだ。その瞬間、僕の中で何かが切れた。そして━━━━━━━
「うわぁああああああぁああああ!!!」
相手の銃口が火を吹くのもお構いなしに駆け出し、握り締めた包丁をそいつの腹に突き刺した。何度も、何度も。 当然殺人鬼は死んだ。友達を殺されたから復讐した。それで良かったハズなのに。僕は人殺しという行為に快感を覚えてしまった...。
ドクンっ
!?「な、何これ...。ヤバい、手が震えるし...」声が出ない...!さっきの大きな心拍音と同時に、全身に異変が現れた。脳裏をよぎるあの光景。ニヤニヤと下品な笑いを浮かべたあいつの顔。やめろ...出てくるな!ここは異次元。もうあいつはいないんだ...。そんなこと分かってるはずなのに、怒りが収まらない。それどころかどんどん酷くなる一方だ。落ち着け!自分をコントロールしろ!そんな心の声もすぐに掻き消えてしまった。ダメだ!本当の僕はこんなんじゃ...!
───あれ?そもそも「本当の僕」なんか居たっけ?ただ快楽を得るために殺し続けてきた僕か?憎しみに呑まれて仇討ちをした僕か? いやどれも違う。正解なんて...っ
その時だった。
「コロセ」
あの声が聞こえたのは。
「ぁぁあああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
そして目の前が真っ暗になった...。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる