ナンセンス文学

イシナギ

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融合―あいつが人を辞める時―

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突き刺した手で文の身体からさっきの星型を引きずり出す。あとはコイツを始末して記憶と血を入れれば………

え?

私はそこである事に気がついた。星型から文の「声」が聞こえるのである。星型を離すとそれは聞こえなくなり、触れるとまた聞こえる。今度は文の身体に触れてみた。
やはりか……
「心を喰われてやがる。マズいな…USA達!記憶の方はどうだ?」
「何か結構な量あるけど終わったよ!」とUSAが言うと、パイロンがこう続けた。
「ここに来る前の記憶も全て復元されていました…1度思い起こされてしまった記憶は二度と取り消す事は出来ません。この量を文の体内に収められるのでしょうか?」
確かに、これを全て収め、尚且つ今まで通り動く事が出来る保証は無い。
「もういっそ記憶入れるのを辞めてしまう、というのは?」とタマゴが提案してきた。
「残念だがそれは出来ない。異次元ここで存在を保つには、心と記憶の2つが必要なんだ…」
つまり、記憶を捨てるという選択肢は無い。どうすれば……  その時だった。
「なあ、そういえばナンセンスは?文ちゃんに懐いてたあのドロってした奴」

それだ!!
「セバスチャン、よく言ってくれた!」
セバスチャンは何が何だか分からない様子だったが、私はすぐ次の指示を出した。
「あいつならまだ屋敷のどこかに居るはずだ。なるべく早くここに連れてきてくれ!」
「お、おう。」不思議そうな目をして屋敷へ走っていった。
私はある事を考えたのだ。
完全に人外になるという代償と引き換えに文を助ける方法を。
「ひとつめ様…彼もまた人間では無くなるのですね」と、パイロンが言う。彼女は私が何をしようとしているか分かっているらしかった。
「そうだ。だが、なぜそんなに寂しそうなんだ?」私の問いに、しばしの沈黙の後、こう答えた。
「人間に生まれたのなら、人間のままで生き抜くのが幸せなのでは?と思うのです。何故だかは分かりませんが…」
私も暫く考えたが、生まれ落ちた時から人外である私には、分かるはずもなかった…
すると、向こうからナンセンスがセバスチャンを体に乗せて凄いスピードで這ってきた。
「ナンセンス…文を助けたいなら、1つ頼みがあるんだ。」 ナンセンスは、文の身体をチラリと見てから向き直り、短く返事をした。私は意を決して口を開いた。
「文と一体化してくれ…」

「えええ!?」チビ人外達は驚いて声を上げた。
そう。私が考えたたった一つの方法。それは…

「ナンセンスを文の体内に取り込む」
という事。

文の身体には既にあいつの血が入っている。ここにナンセンス本体を取り込めば、完全に人外になるという代償と引き換えに、記憶を全て収められる程の生命力と、心を喰った怪物ごと支配する精神力を手に入れられる筈だ。
「できるか?ナンセンス」私の最後の確認に、一声鳴いて文の身体に寄り添い、承諾の意志を見せた。
「ひとつめ様、そろそろ仕上げなくては」
そうだ…あまり時間をかけては文の身体に負担がかかる。
「まずは記憶だ。タマゴ!さっき確保した記憶を渡してくれ」
「こちらです!」タマゴから渡された記憶を受け取り、文の頭に詰める。2冊程の分厚い本のようになっていた。次にさっきの怪物を流し込む。
「パイロン。さっきの血を頼む。」これで全部です、と渡されたそれは、人間特有の赤い色は消え、ほとんど黒に近くなっていた。これも頭の中に注ぎ込む。
「仕上げだ…ナンセンス!」
場の緊張が一気に高まった。私が呪文を唱えるのに合わせて、その体を文の頭の中に沈めて行く。
やがて、ナンセンスが全て文の体内に入った。これで終わりの筈だが…と思っていると、バンッ!と何かが爆ぜる音がした。文の身体からだった。驚いて飛び退くと、頭の傷が開いた文が跳ね起きた。次の瞬間。
「あ"あ"…あああ"ああ"!!」急に文の身体が暴れだした。まさか…っ
「止めなきゃだよひとつめ様!」
「ダメだ!」USAの言葉を打ち消し、私は今の文に何が起きてるかを話す。
「文とナンセンスは今、身体の中の怪物を支配出来るよう戦ってる…これに勝たなきゃあいつは助からん」
「外から助太刀することは出来ないでしょうか…?」不安そうにそう言うパイロン。
「いや…文の体内で起こってる戦いに外からは何も出来ないんだ」クソっ、こうなったら一か八かだが…  私はその場に倒れた。
「ひとつめ様!?」一同が驚く中、実体を無くして意識だけとなった私は一言、
「身体を頼んだ」とだけ言い、文の体内に入った。外から助けられないのならこっちが内側に入るまでだ!
その後はあまり覚えていない。数分経った後、怪物を抑え込んだところで意識が体に戻っていた。文の方を見ると、身体や顔が次々と変わっていた。怪物の姿に、ナンセンスの姿に、そして一瞬私の様な姿になった後、元の姿に戻り、溶ける様にして倒れ込んだ…
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