蝶々の夏

月丘きずな

文字の大きさ
1 / 16

プロローグ

しおりを挟む
 最近仲良くなった葉という男は、晴に横顔ばかり向けている気がする。キラキラと音がしそうなほど輝いている瞳は、今は赤いチューリップにとまる黄色い蝶に夢中だ。金曜日の五限目の最中だからか、大学の中庭はやけに静かである。この中庭は葉の城だ。花壇の前に二人でしゃがみ込んで、一体どれほど時間が経っただろう。
「ねえ、葉くん」
 隣の彼の名前を呼ぶと、彼は小さな声で「うん」と答えた。その目は未だに蝶を捉えている。そんな葉にムズムズするのは、端的に言えば晴は葉と話がしたいのだ。特に用事があるわけでも無いけれど、くだらないことを話して楽しく笑っていたい。他の友人相手なら願う前に至極当然に叶う願いだろう。もしかしたら当たり前のことでありすぎて願いもしないことかもしれない。それが葉相手になると途端に難易度が高くなるのだから不思議だった。
「葉くん」
 もう一度呼びかけてみると今度は返事もない。この晴を蔑ろにするだなんて、随分といい度胸だ。自分で言うのもどうかと思うけれど、晴は昔から人間関係に苦労したことなどなかった。生きていれば男女問わず人が寄ってきて、晴はいつだって主人公だったのだ。それが葉の前では全く通用しないらしい。少し不貞腐れた気持ちになりながら膝の辺りで頬杖をつく。こんなに相手にされないならそろそろアルバイト先に向かおうか。まだシフトには早い気がするけれど、寂しい気持ちにさせた葉が悪い。一つ息を吐いて、立ちあがろうと足に力を入れる。
「晴」
 もう少しで立ち上がると思ったところで名前を呼ばれた。その声と共に晴を振り返った葉は、なぜだか嬉しそうに笑みを浮かべている。
「なに」
 晴は怒っているのだ。でもやっと晴を見てくれたことが嬉しいのも事実で、心の中に喜びと怒りが複雑に混在している。
「モンキチョウ、可愛いな」
 それはきっと黄色い蝶の名前なのだろう。晴は少しも虫が好きではないから、正確にはよくわからない。でも否定する気持ちにはなれずに、適当に頷いて見せた。それに対して葉はさらに嬉しそうに微笑む。
「晴と一緒にこうしていると、すごく楽しい」
 そこまで言われてしまえば、悪い気はしないというものだ。にやけそうになる頬を強引に引き締めて、「そう?」だなんて言ってみる。葉は丸い目を優しく緩めて「そうだよ」と応えた。
 それから葉は再び蝶を観察し始めてしまった。その横顔を、頬杖をついたままに眺める。まるで落とし穴にハマった気分だ。まんまとたらし込まれて、こうやって彼の隣から離れられない。晴はそんな自分に少し笑って、黄色い蝶が羽ばたくまでそのままでいてやるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

闇に咲く花~王を愛した少年~

めぐみ
BL
―暗闇に咲き誇る花となり、その美しき毒で若き王を  虜にするのだ-   国を揺るがす恐ろしき陰謀の幕が今、あがろうとしている。 都漢陽の色町には大見世、小見世、様々な遊廓がひしめいている。 その中で中規模どころの見世翠月楼は客筋もよく美女揃いで知られて いるが、実は彼女たちは、どこまでも女にしか見えない男である。  しかし、翠月楼が男娼を置いているというのはあくまでも噂にすぎず、男色趣味のある貴族や豪商が衆道を隠すためには良い隠れ蓑であり恰好の遊び場所となっている。  翠月楼の女将秘蔵っ子翠玉もまた美少女にしか見えない美少年だ。  ある夜、翠月楼の二階の奥まった室で、翠玉は初めて客を迎えた。  翠月を水揚げするために訪れたとばかり思いきや、彼は翠玉に恐ろしい企みを持ちかける-。  はるかな朝鮮王朝時代の韓国を舞台にくりひげられる少年の純愛物語。

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

処理中です...