編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら

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第14話 編み物中毒にご注意を!

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朝、いつものように編み物をしていると、セバスが大きな包みを持ってきた。

「ニニィアネ様、聖獣の国から荷物が届いております」
「聖獣の国から?」

アス様の眉がぴくりと動いた。

「ヴァイスか」
「手紙もございますよ」

震える手で封を開ける。中には、丁寧な文字で書かれた手紙が。

『ニニィアネ様へ

先日は、私の身勝手な振る舞いで不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
お詫びとして、織文様術の中でも安全な魔法陣を集めた本をお送りします。
聖獣の毛を使用しないのであれば効果は控えめですが、それでもきっと楽しんでいただけるでしょう。
どうぞお納めください。

ヴァイス』

「魔法陣集、ということ……?」

包みを開けると、美しい装丁の本が出てきた。表紙には金と銀で複雑な模様が描かれている。

「わあ、綺麗……!」
「ふん」

アス様が不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「罪滅ぼしのつもりか」
「でも、嬉しいな! 新しい模様がいっぱい!」

ページをめくると、見たこともない魔法陣がずらり。どれも複雑で美しい。

「見て、アス様! これは……『光の雲』を作る魔法陣!」
「ほう」
「こっちは『紫の炎を浮かべる』! あ、これは『陽気な音楽が鳴る』だって!」

興奮のあまり、すぐに編み始めてしまった。

「ニニィアネ、朝食は?」
「後で! 今は、これ試したいー!」

カチャカチャと編み棒が踊る。一時間後――

「できた! 見て見て、アス様!」

編んだモチーフを渡す。

「力を込めてください!」
「ふむ……む。確かに紫の炎。熱くはないな。幻影か」
「きゃー! すごい! 次はこれにしよう! 『音楽を奏でる模様』!」

アス様の返事も待たずに、次の魔法陣に取り掛かる。

「……」

アス様の表情が、少し曇ったような。でも、きっと楽しい音楽が流れたら、アス様も楽しいよね?
昼食の時間には編み終えていた。

「ニニィアネ様~、お食事ですよ~」
「あ、リリス! 見て! このモチーフ、アス様に力を込めてもらったんだけど――」

ポンと触ると、編み物から美しい音色が響いた。

「まあ、素敵!」
「でしょう? ヴァイス様の本、すごいね!」
「……ヴァイス様の本、か」

アス様の声が、低くなった。

「それは、そんなに面白いか?」
「うん! まだ半分も試してないんですよ! いっぱい編まないと!」
「……そうか」

アス様は黙って食事を続けたが、その表情はどことなく不貞腐れているようにも見える。あれ?
そして、夕食の時間。

「……ニニィアネ、そろそろその本は閉じたらどうだ」
「え~、もうちょっと! これ編み終わったら!」
「聖獣の毛を使っていないから、どうせ効果は弱いのだろう?」
「でも楽しい!」
「……」





翌朝。

「主~! 朝ですよ~!」

チューベエが起こしに来たが、私はすでに書庫で編み物をしていた。

「あ、チューベエ。おはよう」
「も、もう起きていらしたんですか!?」
「うん! 早く続きがしたくて!」
「朝食は?」
「いらない! 今忙しいの!」

チューベエが心配そうな顔をした。

「主、食事はとらないと……」
「大丈夫大丈夫! あ、これ見て! 『被ると色が変わる』! 次はこれを――」

その時、扉が勢いよく開いた。

「ニニィアネ」

アス様が、恐ろしい表情で立っていた。

「あ、アス様! 見て見て! 今度は――!」
「ニニィアネ、俺を見ろ。俺が今、どんな顔をしているか、わかるな?」
「う……えっと……怒っている?」
「違う。心配している」

はっきりとそう言われ、私は少ししゅんとなる。

「ずっと編み続け、睡眠も食事もおざなり……心配になるに決まっている」
「で、でも、楽しくて……」
「楽しい?」

アス様が一歩近づく。その迫力に、思わず後ずさり。

「ヴァイスの本がそんなに楽しいか?」
「そ、それは……」
「もうその本は没収だ!」
「ええっ!?」

アス様が本に手を伸ばす。慌てて抱きしめた。

「やだー! まだ半分も試してない!」
「知るか。お前の健康の方が大事だ!」
「ちょっとくらい大丈夫ーっ!」
「大丈夫じゃない! こら、ニニィアネ!」

本を取り上げようとするアス様と、必死に抵抗する私。当然、幼女では彼にかなうわけもなく、あっけなく本はとられてしまった。

「返して~!」
「ダメだ」
「けち!」
「けち!?」

珍しい私たちのやり取りに、チューベエはあわあわ、と慌てている。そんな中、アス様がふと息をついた。

「ニニィアネ……頼む、健康で、幸せに、過ごしてほしいんだ。意地悪がしたいわけじゃない。君を想っている」
「……う……」

少し冷静さを取り戻した私は、目をそらした。確かに、これは私が悪い。

「ごめんなさい……」
「よし。編み物を楽しむのはいいが、節度は守りなさい」
「はい……あ、あの」
「ん?」
「心配してくれて、ありがとうございます……」

アス様がゆっくりと優しく私の頭を撫でた。

「当然のことだ。君を大切にすると決めている」
「う、うん……」
「あと、ヴァイスの本なんかに夢中になるな」
「え」

低い声で、アス様が言ったので、私はぽかんとした。
あ、これって……。

「もしかして、ちょっと、嫉妬も入ってます……?」
「!」

アス様の顔が、みるみる赤くなった。

「いや、心配だ。流石に本に対抗意識など……!」
「ふふ……」
「ニニィアネ!」
「だって、少し、面白くて――」

その時、セバスが慌てて入ってきた。

「アスタロト様! なぜか転移魔法陣の準備がされているようですが……!」
「……ああ、俺がやった。気にするな」
「行き先が聖獣の国方面になっておりますが……!?」
「そう設定したからな」

へ?

「ちょ、ちょっと待って! なんで聖獣の国に!?」

アス様が不敵に笑った。

「決まっているだろう。あの狼に文句を言いに行く」
「も、文句!?」
「うちのニニィアネを編み物中毒にした責任を取ってもらう」
「わー! ごめんなさいごめんなさい! 私がやりすぎただけですっ!」

このままだと争いになっちゃう。せっかく平和にノルンの問題が解決したのにーっ!

「聖獣の国に乗り込むなんてダメですーっ!」
「いや、一言文句を言わねば気が済まない」

アス様の闘志が燃え上がっている。

「アスタロト様! このチューベエもお供します!」
「チューベエまで!?」
「はい! あの狼め、主を惑わすとは許せません!」
「そうだろう? よし、行くぞ、聖獣の国へ!」
「おー!」

ダメだ、この二人完全にやる気だ!
セバスが困り果てている。

「アスタロト様、せめて書状を送ってからでは?」
「必要ない。直接乗り込む」
「外交問題になります!」
「構わん」
「構いますよ!?」

大混乱の中、私は叫んだ。

「みんな一度落ち着きましょうー!」

全員が私を見た。

「本当に、ごめんなさい。私が夢中になりすぎた。それは間違いないです」
「ニニィアネ……よかった、分かってくれて」
「でも、アス様も大げさすぎます!」

アス様に向き直る。

「本に嫉妬して、聖獣の国に乗り込もうなんて!」
「嫉妬ではなく心配だが……いや」

アス様が観念したように、肩を落とした。

「……少し本に嫉妬、していたかもしれない」
「少し?」
「……かなり」
「ふふ」

思わず笑ってしまった。

「アス様、可愛い」
「か、可愛い?」

アス様の顔が真っ赤になる。

「俺は魔族の公爵だぞ」
「可愛い魔族の公爵さんです」
「ニニィアネ……」

恥ずかしそうに俯くアス様。本当に可愛い。
ぎゅっとアス様に抱きついた。

「これからは、ちゃんと食事もするし、夜更かしもしません」
「本当か?」
「うん。でも、編み物は続けさせてね? あと、本も返してほしいかも?」
「……適度にな」
「はい!」

アス様が優しく抱きしめ返してくれる。

「あの、お二人とも~」

リリスが遠慮がちに声をかけてきた。

「転移魔法陣、どうしましょう?」
「ああ、キャンセルだ」
「よかった……」

セバスが安堵のため息をついた。

「では、朝食の準備をいたしましょう」
「はい! 今日はちゃんと食べます!」

和やかな雰囲気に戻った、と思ったその時。

「だが」

アス様がボソッと呟いた。

「狼には、文句の手紙でも送っておくか」
「ダメー!」

騒がしくも楽しい日常は続くのだった。
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