編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら

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第15話 世界樹のほころび

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大騒動からしばらくして朝食を終えた私たち。
お茶を飲みながら次に編むモチーフを考えようと本を拾い上げた瞬間――

「あれ、このページ……?」

後ろの方に、まるで、置き忘れたかのように、古いしおりが挟まっていることに気づいた。

「なんだろう?」

そのページを開くと――

「え……っ?」

古ぼけた紙片が、ぽろりと落ちた。

「これは……?」

黄ばんだ羊皮紙に、見慣れない魔法陣が描かれている。
他のページとは明らかに違う、古いものだ。

「なんだ、これは」

アス様も眉をひそめて紙片を見つめる。

「ヴァイスの奴、こんなものまで入れて……いや……これは、意図せず勝手に入り込んだ、という感じか? このページ事態に、異様な魔の気配がある……」

私の目は魔法陣に釘付けになっていた。
この模様……見覚えがある。

いや、見覚えがあるというより――

「樹の……ほころびを直す……?」

無意識に呟いていた。

「ニニィアネ?」

アス様の声が遠い。
魔法陣を見つめていると、頭の中に映像が流れ込んでくる。


巨大な樹。

世界を支える、途方もなく大きな樹がある。
その幹には、無数の糸が絡みついている。

それはすべて運命の糸。千年の歴史、いやそれよりさらに遥か前から絡み続けた、運命の糸。
でも、糸が多すぎて、樹が……軋んでほつれている。

「世界樹のほころびを直さないといけない……?」

震える声で続ける。

「世界樹?」

アス様が心配そうに肩に手を置いた。

「ニニィアネ、大丈夫か?」
「世界樹が……崩れてしまう……」

涙が溢れてきた。
なぜだろう。悲しくて、苦しくて、胸が張り裂けそう。

「糸が多すぎる……運命が重すぎる……このままじゃ……」
「ニニィアネ――!」

アス様に抱きしめられて、はっと我に返った。

「あ……私……」
「大丈夫か? 顔が真っ青だ」
「だ、大丈夫……」
「ああ……本当に驚いた……君に何か起きたら……」

心配そうに細められた目に少し申し訳なくなる。

「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていい。いったいどうしたんだ?」
「なんだろう……変な映像が見えたの……」

震える手で、魔法陣を指差す。

「この魔法陣を見てたら、巨大な樹が……」
「巨大な樹……世界樹……か」

アス様が険しい顔で紙片を手に取った。

「セバス!」
「はっ!」

すぐにセバスが現れた。

「古文書庫から、世界樹に関する文献を全て持ってこい」
「世界樹でございますか?」
「急げ」
「はっ、直ちに!」

セバスが慌てて出て行く。

「アス様、世界樹って……?」
「伝説に残るもの……古いおとぎ話のようなものだな」

アス様が説明してくれた。

「この世界を支えているという、巨大な樹だ。全ての運命がその枝に支えられ、世界の理を保っているという」
「運命が……」

また、あの映像が蘇る。
無数の糸に絡まれて、苦しそうな樹。

「でも、それがほころんでいる、と君は言ったな?」
「うん……糸が多すぎて、重すぎて……樹が壊れそうだった」
「……世界樹が、壊れる……」
「信じられない、かもしれないけれど……」
「いや君の言うことだ。信じる。何か意味があるはずだ」

やがて、運ばれてきた古文書を、アス様と一緒に調べる。
そして、二人とも表情を凍らせた。

「これは……」

アス様の顔が青ざめている。

「世界樹には定期的に織文様術での手入れが必要……それを行うのは白銀の糸を操る姫。なんということだ、完全にヴァイスの話と一致する」
「ということは……」
「世界樹はおとぎ話の伝説などではない……確かに実在する」
「……っ!」
「だが、世界樹はただの伝説だと思われていたのだ……もう千年以上、誰も世界樹の手入れなどしていないはずだ……!」
「千年……!」

ヴァイス様が待っていた時間と、同じ。そうだ、姫が不在だったというのなら……!

「まさか……」

恐ろしい推測が、頭をよぎる。

「前世の私は、それを知っていた?」
「おそらく」

アス様が険しい表情で言った。

「だからノルンを作ったのだろう」
「ノルンを?」
「ああ。姫がいなければ、世界樹にはいつか限界が来る。だが姫の転生がいつになるかわからない」
「千年以上かかる可能性もある……それに、転生しても、覚醒しないかも……」
「そうだ。そうして運命の糸がたまっていって、世界樹に限界がきてしまった……そんな最悪の状況の場合は、世界をリセットすることで、新しい世界樹を作り直して世界の崩壊を防ぐ――!」
「でも!」

私は首を振った。

「私はもうノルンは使わないって決めた……!」
「ああ、分かっている。だが、このままでは……」

古文書の一節が、目に飛び込んできた。

『世界樹が崩壊すれば、全ての運命は霧散し、世界は混沌に還る』

「そんな……」

このままでは、世界が壊れてしまう……?

「まずは、世界樹を探そう」

アス様が立ち上がった。

「伝承に残る場所――世界樹に至る入口とされる丘の花畑。何もないと思われていたが、きっとそこに君がいけば、何かが起きる」

私が編み棒をぎゅっと握りしめると、アス様が私の頭をそっと撫でた。

「すまないな、また君に苦労をかける」
「いいえ……! 私は、アス様とずっと一緒にいたい」
「ニニィアネ……」
「だから……行きましょう、世界樹へ……!」

まだ、どうやって世界樹を救ったらいいか、何もわからない。けれど、だからって諦められない。きっと何か方法が見つかると信じて。

新たな挑戦が、始まろうとしていた。
世界の運命を背負う、大きな挑戦が――。
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