Rainy Cat

mito

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Past#3 一日-oneday-

Past#3 一日-oneday- 6

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肩越しに見た岡やんはいつになく真剣で。
何が、と言わなかった彼は、実は自分が何を拾ったか知ってるんじゃないかという考えが頭を掠めて、背筋がひんやりする。


「何が?」

「何がって……その顔。泣いたんだろ?」


彼がじっと見つめているのは自分の瞼で。
一瞬で肩に入っていた力が抜けた。


やましいことがあるから、へんに勘ぐってしまう。

冷静になればすぐ分かること。猫休みの次の日、この心優しい幼馴染みたちは普段以上に明るく振舞って、そしていつも本気で心配してくれてる。

物覚えついた頃からずっと一緒に居たのだ。
初めて猫を拾った日からの全ても当然彼らは知っていて、今回の休みが三日だった上に、泣き腫らした顔で登校してきたことで、余計に心配をかけたに違いない。


自分が泣く理由はいつもただ一つだから。



「大丈夫、猫生きてるから」

「……大丈夫だったのか」

「うん……でも危なかったから、ちょっと傍離れられなくて」

「そっか」


ほっと相互を崩した岡やんは、でも次の瞬間、整った眉を片方、器用に上げる。


「じゃぁ何で泣いたんだ、コタローは」


そして一番突かれたくないとこを手加減なしで突いてきた。



まさか言えない。

『その助けた猫に殺すと脅されました。
それが怖すぎて泣きました』

約束も当然あるけど、彼を猫として説明した自分はこう説明しなければならないわけで。

……こんなの、彼との約束云々前に、男のプライドにかけても言えるわけない……!!


「あはは、ちょっと今回のは凶暴で」

「死にかけてたのにか」

「うんその、人見知り激しくて、起きた瞬間から攻防戦が。傷開くようなことばっかするし、それが痛すぎて」

「マジで?」


とんでもねぇの拾ったな、ってしみじみ岡やんが言うけど、その通り過ぎて思わず頷いた。


「まぁコタローの拾い食いは今に始まったことじゃねぇけど」

「……拾い癖って言って。食べてないし」

「高校入ってから、一回もなかったじゃん?」

「それはだって、高校はシズさんにお金出してもらってるから」


小中は義務教育だった。でも高校はそうじゃない。高校は自分で進学したいと決めて、いつか絶対返すつもりだけど、今はシズさんに費用を出してもらってる。だから、出来るだけ休まないでいいよう、猫を拾うにしても休日にしてた。加えて、最近はそんなに酷い怪我を負った猫を見なかったというのもあるけど。


「まぁ……無理だけはすんなよ。いいな、なんかあったら絶対先頼れよ」

「大丈夫だって」

「大丈夫じゃねーよ。……今回実はちょい焦ったんだよ。あん時みたいになるんじゃないかって」

「……岡やん」

「だってお前、あの日以外は猫休みいつも一日だったろ?」


岡やんの目は真剣だ。そして酷く苦しそうで。
そんな目をさせてしまうのは、岡やんが言う『あの日』の自分のせい。


遠くで担任がSHRの終わりを告げている。次は教室移動だから、みんなガタガタと席をたち始めてる。

寝ているマサと、自分と岡やんだけが、その空間から切り離されたように静かだった。


「俺も、マサも。チハルももちろん。もう二度とあんな思いはしたくない」

「……うん」

「だから何かある前に絶対俺らに言えよ?」


分かった、そう一言言えば岡やんは安心する。
言葉だけでもそうするべきだったんだろう。

でも、現実問題言えない自分は、大切な幼馴染みを裏切るそんな言葉はとても口にはできなくて。

頷いたか、俯いたかぐらいの自分の返事に岡やんは少し厳しい顔をしたけれど、こういう時の自分はラチがあかないと知っている彼は、それ以上は何も言わなかった。


「……行こう、岡やん。マサも起こそう」


だから変わりに自分から話しかけて、心の中だけで呟く。


ごめん、岡やん。
でも絶対繰り返さないから。絶対、もう岡やんたちにそんな想いをさせないから。


岡やんがいつもの調子でマサを起こしているのを聞きながら、ふと窓の外を見た。

朝は晴れていたのに、また西の方から雲が広がっている。


……何をしてるかな。

ぼんやり思う。
方角的には合ってるけど、道場は学校からは見えない。

後で気づいたんだけど、今朝の彼は立つことも、メモをシズさんから預かってたってことは歩くこともできていた。

昨夜の時点では、あの局面で立たなかったことから、彼は予想通り立てなかったはず。

もしかしたら朝のうちにリハビリしてたのかもしれない。
不覚にも相当寝入っていたらしい自分は全然気づかなかったが……。


危ないことをしてないだろうか。
片手で無茶してあわよくば、とか。あぁどうしよう。想像が容易すぎる。


「コタロー行くぞー」

「あ、うん」


雲行きの怪しい空をもう一度だけ見上げて、それから二人の跡を追いかけた。

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