3 / 17
1-3
しおりを挟む
「やっぱり力出ないな」
「そりゃそうですよ。魔力封じの手枷なんですから」
今志郎の左手首とビスカの右手首には、黒くまがまがしい輪っかがはめられ、その間を同じく黒くまがまがしい鎖が繋がれていた。
「ふーん。これが魔力封じの手枷か。すごいなこれ。ほんとに力でないもんな」
マジマジと手枷を見てうなる志郎。
カンダールの港に着いた二人は下船すると瞬く間に魔族に囲まれた。それもあっという間にビスカを人質にとられ志郎はチートな力を発揮することなくビスカとともに魔力封じの手枷をはめられたのだった。
「ちょっとあんたら!この鎖はずしなさいよ!」
その大声で魔族たちがビクッとなりビスカを見た。
「トイレ行く時どうすんのよ!まさかシロー様と一緒に行けって言わないわよね!」
と目を吊り上げて怒るビスカ。
「えと、あの、その時ははずしますから心配ないです」
一人の魔族がおどおどしながらビスカに答えたがビスカの迫力に押され気味だ。
「本当なんでしょうね!」
「は、はい。えと、その時はおっしゃってください。魔族の女が付き添いますので、はい」
「ふう。まあ、いいわ。それよりさ、今の状況ってどうなってるの?見たところカンダールは魔族に落とされたみたいだけど」
今志郎とビスかの二人は馬車に乗せられカンダール城に向かっている。
「あとで話するんで待っててくれませんか」
と身体を縮こま背ながらそういう魔族。
「ちょっとあんた!それくらい話してもいいじゃないの。それともあんたはこの町の状況を把握してないっていうの?それほどあんたの状況把握力は劣ってるの?そんなことでよく偉そうなことが言えるわね。ほんっと、あきれた」
ゴミでも見るような目でその魔族を睨んだ。
「おいおいビスカ、そこまで言わなくても……。ほら見ろ、あの魔族俯いたぞ」
「ふんっ。それらな説明してちょうだい」
腕組みをして魔族を見下ろすビスカ。
「わ、わかりましたよっ。もう、そんなに言わなくてもいいじゃないですか」
「いいから話しなさい」
「わかりましたよ、ほんと怖いなぁこの人。……えと、今から三か月ほど前、俺達魔王軍はカンダールに攻め入ったんです。で、抵抗はあったんですが我らの敵ではなかったです。一週間ほどで城を落としカンダール王を捉え町の民を解放したということです。これでいいですか?」
魔族はちょっとだけふてくされたように話をした。
「おいちょっと待て。今なんて言った?カンダール王を捕らえ民を解放したって?その言い方だとカンダール王が民を虐げてたように聞こえるんだが?」
と志郎。
「あ、まあ、そういうことなんですけど?何か?」
「い、いや、俺はさ、カンダールが魔族に攻めてこられて滅亡しかけてるから助けてくれって頼まれたんだけど……。ビスカ、そうだったよな?」
「……」
目を伏せるビスカ。
「ビスカ?」
心配そうな志郎。
「……シロー様、私……。私、やっぱり、カンダールに騙されてたみたいです」
と馬車の窓から外を見る。そこには魔族と楽しそうに話をするカンダールの人々がいた。
「入ってください」
志郎たちを連れてきた腰の低い魔族が豪華で煌びやかで華美な装飾された謁見室のドアを開けて志郎とビスカに入室を促した。
中に入ると真っ赤なカーペットが真っすぐ敷いてあり、その先には数段の階段。そしてそこにはこれでもかと色とりどりの宝石が散りばめられた、あまり趣味がいいとは言えないような豪華で煌びやかな王座があった。
「たぶん魔王が来るんだよな」
「はい。たぶんそうだと思います」
二人はとりあえず階段の下まで行くと立ち止まった。
そして30秒もたたないうちに誰かが壇上に現れた。
頭の上には捩じれたツノが二本。肌は浅黒く耳まで避けた口からは鋭い牙が一本覗いていた。そしてその顎には白く立派な顎髭。
「魔王……か?」
「たぶん……、でも……」
二人がその魔族を見て不思議に思ったのも無理はない。その魔族は手に抱えたものをその豪華すぎる椅子のすぐ前に置くとそこによっこらしょと座った。そう、魔族が抱えていたものはパイプ椅子だった。
「こほん」
わざとらしい咳払いをすると魔族は志郎たちを見た。だがビスカは気になって気になってしょうがない。つい口に出してしまった。
「なんで牙が一本?」
「うっ……」
ビスカが聞こえないような声で呟いたがどうやら魔王には聞こえてたようだ。
「ふぉっふぉっふぉっ。この牙はな実はバナリンゴをかじったら折れてしまってな。わははは。恥ずかしいからあまり見んでくれますかな」
と本当に恥ずかしそうに両手で口を隠した。
「「は、はあ……」」
脱力する二人。
「コほん。ま、まあ、そんなことはどうでもいいんです。あなたたちのことが重要なのです。いくつか尋ねさせてくださらんかな?」
と魔王は仕切り直しとばかりにわざとらしく咳払いをした。
「あ、そうだな。えと、魔王のじいさん」
「ふぉっふぉっふぉっ。ワシが魔王とよくわかりましたな。まあ、しかたありませんな。魔王としてのオーラは隠せるものじゃありませんからな」
今度はカッカッカッと笑う魔王。おまけに胸をそっくり返している。椅子に背もたれがなければ絶対に後ろに倒れて頭を撃ってただろう。
「あなたたちは何者でしょうかな?そしてあなた方二人はなぜ今頃ここカンダールに戻ってきたのですかな?」
真剣に二人に尋ねる魔王。
「えーとだな。何から離せばいいのやら。なあ、ビスカ」
「あ、はい。それじゃ私がお話しましょうか」
ビスカが二人の素性を話し出した。
「私はビスカ。カンダール魔術団所属の召喚魔法師。五か月前に異世界勇者召喚の儀式をしました。そしてここにおられるシロー様を召喚しました。でも、何かの手違いでカンダールより南に千キロの孤島にシロー様は召喚されてしまい、私がお迎えに行ったのです」
志郎をチラット見るビスカ。
「ああ。そうだ」
そしてまたビスカが話し出した。
「私は生まれつき魔力がとても強く、そして召喚魔法の適正がとても強かった。それを知ったカンダール王は私がまだ子供の時、強制的に登城させられました。そしてそれから一度も城からでることなくこれまで生きてきました。私の召喚魔法は平和なカンダールを襲いくる対魔族にとても効果的だと教えられて来て疑うこともなかった。けど、シロー様の召喚トラブルの時にわかったのです」
ビスカは一息つくとまた話し出した。
「十隻の船団でシロー様を迎えに行く海の上で船長と騎士団長が話しているのを聞いたのです。魔族が来たら愚民たちの金や食料、女たちを自由にできなくなってしまうと」
俯き口を強く結ぶビスカ。深呼吸をすると前を向いて魔王を見つめた。
「シロー様と無事出会えカンダールに戻ってみれば……。魔族と民たちが仲良くしている光景が目に入ってきました。そして民たちはとても幸せそうでした。船長と騎士団長の言ってたことが真実なんだとわかりました。私、私は……」
何かを言おうとしたが魔王がそれを制した。
「そうでしたか。もう、もういいのですよ。そのような辛いことはもうこの先起こりませんよビスカさん」
「ま、魔王様……」
ビスカは両手で顔を覆うと号泣した。
「さて、シローさんでしたかな?確かビスカさんが勇者と言っておられましたな」
「あ、ああ。一応勇者ってことになってるけど、俺なーんにもしてないぞまだ」
「ふぉっふぉっふぉっ。そうじゃな。で、お前さん、これからどうする?」
「どうするって……」
「勇者としての仕事もなくなったんじゃよ。この世界にいてもしかたないと思いますがな」
と魔王。
「そ、そうだよな。なあビスカ。俺はどうやったら元の世界に戻れるんだ?」
「えと、あの……」
「もしかして還れないとか?」
「いえ、還れますが、今はちょっと無理なんです。あの魔法陣を起動させるのにはたくさんの魔力が必要なんですが、私には注ぎ込む魔力が少なく、たぶん数ヶ月はかかると思います。すみません」
「でも数ヶ月たてば還れるんだよな」
「は、はい……」
「だいたい何か月くらいかかりそうだ?」
「えと……。たぶん七か月くらいかと……。すみません」
と涙目のビスカ。
「七か月くらいか」」
「あ、はい」
「わかったよ。そんな悲しそうな顔しなくていいぞ。還れることがわかってるなら安心だ」
微笑む志郎。
「それじゃ俺、この町の復興の手伝いするよ。まあ、俺にできることだけだけどな」
「ありがとうございます」
とうれしそうなビスカ。
「ところで魔王のじいさん。カンダールの王様は今どうしてるんだ?」
「あの愚王ですか。ぐふふふふ。もうこの世にはいませんよ」
それを聞いて驚いたのはビスカだった。
「もしかして死んだの?」
「ワシらが城を落とし王を引きずって城から出たら民たちが王を渡してくれと頼んできてな、それで暴れる王を民に渡した」
そして続けてこう言った。
「民に取り囲まれた王はしばらく苦悶の声や絶叫をあげていたが次第に聞こえなくなってな。民が引き上げたあとには何やらミンチが残っておったよ。ぐはははは」
愉快愉快と笑う魔王。こんなところはやはり魔王なんだなとしみじみ思う志郎とビスカだった。
そして志郎が召喚されてから一年。
ここはカンダール城の中庭。
その芝生の上には複雑怪奇な魔法陣がピカピカと明滅を繰り返している。
「世話になったなビスカ」
「すみませんシロー様。七ヶ月でご帰還できるのに一年も町の復興を手伝っていただき申し訳ございませんでした」
「いや、気にすんなビスカ。俺が勝手に復興を手伝いたかっただけだから」
「ありがとうございましたシロー様。感謝いたします」
深々と叩頭するビスカ。
「私、この平和なカンダールを護っていけるように頑張ります」
「ああ。頑張れよ」
「はい!」
志郎に笑顔を向けるビスカ。
「さて、ビスカさん。そろそろじゃよ」
「あ、はい。魔王様」
ビスカは今では魔王の許で魔術団長をしている。カンダールを発展させたいと魔王に頼み家臣にしてもらったのだった。
「さあシロー様。魔法陣の中央へ」
「ああ」
志郎はそう返事をすると魔法陣の中心にピョンと飛び移った。
「それではシロー様。ありがとうございました」
「ああ。みんな元気でな」
「帰還魔法陣、発動!」
ビスカは両手に持った煌びやかな杖を魔法陣目掛け振り下ろした。
いままで明滅を繰り返していた魔法陣は白く強い光を放った。そして十数秒後、ゆっくりと光は消えた。
そこには志郎の影も形もなく、そして魔法陣もきれいになくなっていた。
「シロー様」
ビスカは青い空を仰ぎ見てうれしそうに微笑んだ。
「あっ、お還り~!」
「うぐっ!ふがががが!」
白い光がまぶしくて目を瞑った志郎、そろそろいいかと目を開くと目の前に迫る大きな大きな大きな二つの山。山頂にはピンク色に輝く突起物。
志郎はそれが何かと認識をした瞬間その山の谷間に挟まれて息ができなくなった。
「ようやく還ってこられたのねえ。お姉さんうれしいわぁ~!」
「ふごっ!ふがふがっ!い、息が……できん!」
じたばたもがく志郎だがガッチリと頭をホールドされててまったくビクともしない。
「……し、死ぬぅ……」
その言葉が耳に入ったのだろうあわてて志郎の顔を解放した。
「あはははは、ごめーん。苦しかったぁ?あははは」
と笑う金髪緑目の美女。
「ぐほっ!がはっ!ごほごほっすーはー、すーはー。く、苦しかったぁ。死ぬかと思ったぞこのエロ女神ぃ!」
というと志郎は机の上に置いてあった新聞を丸めると女神の頭目掛けフルスイングした。
バシッ!
「いったぁぁぁぁぁぁい!」
頭を押さえて涙目になる女神ターシァ。
「何すんのよぉ!痛いじゃない!愛の抱擁をしただけなのにぃ~」
「黙れエロ女神!……って今回も全裸か!服を着ろ、服を!変態エロ女神!」
「あはん。いやん。そんなに怒らなくてもぉ」
と言いながら身体をくねくねくねらせる女神。
「く、くそっ!逆効果か!」
脱力する志郎。
「も。もういい。おいエロ女神。異世界のカンダールは平和になったぞ。俺の仕事も終わったから元の世界に戻してくれ」
「え、ええええええ!も、もう戻っちゃうの!あたしとはまだあんなこともこんなこともしてないのにぃ~!プウー!」
と頬を膨らませる女神ターシァ。
「せん!なーんにもせん!だから早く元の世界に還せ!」
丸めた新聞を再び振り上げる志郎。
「わわわわわかった、わかったからぶたないでぇ!痛いのはいや~ん、うふっ」
とニヤニヤしながら頭を抑えた。
「うっ……。ま、まあいい。どうでもいいから早くしろ」
「んもう。わかったわよ。……って言ってもその襖の向こうはもう元の世界よ」
志郎の後ろの襖を指さすとほほ笑むターシァ。
「へ?そうなのか。わかった。それじゃあな」
志郎はサッと立つとターシァに背を向けると襖に手をかけた。
「ところで時間軸はどうなってる?元の世界の時間も進んでるのか?」
「いいえ。こっちに来た時の同じ時間に戻るから大丈夫よ。シローは行方不明になってないから安心して」
「そっか。それなら安心だ。ありがとなエロ女神」
「うん」
「それじゃあな」
志郎は襖を開けて元の世界に還っていった。
「そりゃそうですよ。魔力封じの手枷なんですから」
今志郎の左手首とビスカの右手首には、黒くまがまがしい輪っかがはめられ、その間を同じく黒くまがまがしい鎖が繋がれていた。
「ふーん。これが魔力封じの手枷か。すごいなこれ。ほんとに力でないもんな」
マジマジと手枷を見てうなる志郎。
カンダールの港に着いた二人は下船すると瞬く間に魔族に囲まれた。それもあっという間にビスカを人質にとられ志郎はチートな力を発揮することなくビスカとともに魔力封じの手枷をはめられたのだった。
「ちょっとあんたら!この鎖はずしなさいよ!」
その大声で魔族たちがビクッとなりビスカを見た。
「トイレ行く時どうすんのよ!まさかシロー様と一緒に行けって言わないわよね!」
と目を吊り上げて怒るビスカ。
「えと、あの、その時ははずしますから心配ないです」
一人の魔族がおどおどしながらビスカに答えたがビスカの迫力に押され気味だ。
「本当なんでしょうね!」
「は、はい。えと、その時はおっしゃってください。魔族の女が付き添いますので、はい」
「ふう。まあ、いいわ。それよりさ、今の状況ってどうなってるの?見たところカンダールは魔族に落とされたみたいだけど」
今志郎とビスかの二人は馬車に乗せられカンダール城に向かっている。
「あとで話するんで待っててくれませんか」
と身体を縮こま背ながらそういう魔族。
「ちょっとあんた!それくらい話してもいいじゃないの。それともあんたはこの町の状況を把握してないっていうの?それほどあんたの状況把握力は劣ってるの?そんなことでよく偉そうなことが言えるわね。ほんっと、あきれた」
ゴミでも見るような目でその魔族を睨んだ。
「おいおいビスカ、そこまで言わなくても……。ほら見ろ、あの魔族俯いたぞ」
「ふんっ。それらな説明してちょうだい」
腕組みをして魔族を見下ろすビスカ。
「わ、わかりましたよっ。もう、そんなに言わなくてもいいじゃないですか」
「いいから話しなさい」
「わかりましたよ、ほんと怖いなぁこの人。……えと、今から三か月ほど前、俺達魔王軍はカンダールに攻め入ったんです。で、抵抗はあったんですが我らの敵ではなかったです。一週間ほどで城を落としカンダール王を捉え町の民を解放したということです。これでいいですか?」
魔族はちょっとだけふてくされたように話をした。
「おいちょっと待て。今なんて言った?カンダール王を捕らえ民を解放したって?その言い方だとカンダール王が民を虐げてたように聞こえるんだが?」
と志郎。
「あ、まあ、そういうことなんですけど?何か?」
「い、いや、俺はさ、カンダールが魔族に攻めてこられて滅亡しかけてるから助けてくれって頼まれたんだけど……。ビスカ、そうだったよな?」
「……」
目を伏せるビスカ。
「ビスカ?」
心配そうな志郎。
「……シロー様、私……。私、やっぱり、カンダールに騙されてたみたいです」
と馬車の窓から外を見る。そこには魔族と楽しそうに話をするカンダールの人々がいた。
「入ってください」
志郎たちを連れてきた腰の低い魔族が豪華で煌びやかで華美な装飾された謁見室のドアを開けて志郎とビスカに入室を促した。
中に入ると真っ赤なカーペットが真っすぐ敷いてあり、その先には数段の階段。そしてそこにはこれでもかと色とりどりの宝石が散りばめられた、あまり趣味がいいとは言えないような豪華で煌びやかな王座があった。
「たぶん魔王が来るんだよな」
「はい。たぶんそうだと思います」
二人はとりあえず階段の下まで行くと立ち止まった。
そして30秒もたたないうちに誰かが壇上に現れた。
頭の上には捩じれたツノが二本。肌は浅黒く耳まで避けた口からは鋭い牙が一本覗いていた。そしてその顎には白く立派な顎髭。
「魔王……か?」
「たぶん……、でも……」
二人がその魔族を見て不思議に思ったのも無理はない。その魔族は手に抱えたものをその豪華すぎる椅子のすぐ前に置くとそこによっこらしょと座った。そう、魔族が抱えていたものはパイプ椅子だった。
「こほん」
わざとらしい咳払いをすると魔族は志郎たちを見た。だがビスカは気になって気になってしょうがない。つい口に出してしまった。
「なんで牙が一本?」
「うっ……」
ビスカが聞こえないような声で呟いたがどうやら魔王には聞こえてたようだ。
「ふぉっふぉっふぉっ。この牙はな実はバナリンゴをかじったら折れてしまってな。わははは。恥ずかしいからあまり見んでくれますかな」
と本当に恥ずかしそうに両手で口を隠した。
「「は、はあ……」」
脱力する二人。
「コほん。ま、まあ、そんなことはどうでもいいんです。あなたたちのことが重要なのです。いくつか尋ねさせてくださらんかな?」
と魔王は仕切り直しとばかりにわざとらしく咳払いをした。
「あ、そうだな。えと、魔王のじいさん」
「ふぉっふぉっふぉっ。ワシが魔王とよくわかりましたな。まあ、しかたありませんな。魔王としてのオーラは隠せるものじゃありませんからな」
今度はカッカッカッと笑う魔王。おまけに胸をそっくり返している。椅子に背もたれがなければ絶対に後ろに倒れて頭を撃ってただろう。
「あなたたちは何者でしょうかな?そしてあなた方二人はなぜ今頃ここカンダールに戻ってきたのですかな?」
真剣に二人に尋ねる魔王。
「えーとだな。何から離せばいいのやら。なあ、ビスカ」
「あ、はい。それじゃ私がお話しましょうか」
ビスカが二人の素性を話し出した。
「私はビスカ。カンダール魔術団所属の召喚魔法師。五か月前に異世界勇者召喚の儀式をしました。そしてここにおられるシロー様を召喚しました。でも、何かの手違いでカンダールより南に千キロの孤島にシロー様は召喚されてしまい、私がお迎えに行ったのです」
志郎をチラット見るビスカ。
「ああ。そうだ」
そしてまたビスカが話し出した。
「私は生まれつき魔力がとても強く、そして召喚魔法の適正がとても強かった。それを知ったカンダール王は私がまだ子供の時、強制的に登城させられました。そしてそれから一度も城からでることなくこれまで生きてきました。私の召喚魔法は平和なカンダールを襲いくる対魔族にとても効果的だと教えられて来て疑うこともなかった。けど、シロー様の召喚トラブルの時にわかったのです」
ビスカは一息つくとまた話し出した。
「十隻の船団でシロー様を迎えに行く海の上で船長と騎士団長が話しているのを聞いたのです。魔族が来たら愚民たちの金や食料、女たちを自由にできなくなってしまうと」
俯き口を強く結ぶビスカ。深呼吸をすると前を向いて魔王を見つめた。
「シロー様と無事出会えカンダールに戻ってみれば……。魔族と民たちが仲良くしている光景が目に入ってきました。そして民たちはとても幸せそうでした。船長と騎士団長の言ってたことが真実なんだとわかりました。私、私は……」
何かを言おうとしたが魔王がそれを制した。
「そうでしたか。もう、もういいのですよ。そのような辛いことはもうこの先起こりませんよビスカさん」
「ま、魔王様……」
ビスカは両手で顔を覆うと号泣した。
「さて、シローさんでしたかな?確かビスカさんが勇者と言っておられましたな」
「あ、ああ。一応勇者ってことになってるけど、俺なーんにもしてないぞまだ」
「ふぉっふぉっふぉっ。そうじゃな。で、お前さん、これからどうする?」
「どうするって……」
「勇者としての仕事もなくなったんじゃよ。この世界にいてもしかたないと思いますがな」
と魔王。
「そ、そうだよな。なあビスカ。俺はどうやったら元の世界に戻れるんだ?」
「えと、あの……」
「もしかして還れないとか?」
「いえ、還れますが、今はちょっと無理なんです。あの魔法陣を起動させるのにはたくさんの魔力が必要なんですが、私には注ぎ込む魔力が少なく、たぶん数ヶ月はかかると思います。すみません」
「でも数ヶ月たてば還れるんだよな」
「は、はい……」
「だいたい何か月くらいかかりそうだ?」
「えと……。たぶん七か月くらいかと……。すみません」
と涙目のビスカ。
「七か月くらいか」」
「あ、はい」
「わかったよ。そんな悲しそうな顔しなくていいぞ。還れることがわかってるなら安心だ」
微笑む志郎。
「それじゃ俺、この町の復興の手伝いするよ。まあ、俺にできることだけだけどな」
「ありがとうございます」
とうれしそうなビスカ。
「ところで魔王のじいさん。カンダールの王様は今どうしてるんだ?」
「あの愚王ですか。ぐふふふふ。もうこの世にはいませんよ」
それを聞いて驚いたのはビスカだった。
「もしかして死んだの?」
「ワシらが城を落とし王を引きずって城から出たら民たちが王を渡してくれと頼んできてな、それで暴れる王を民に渡した」
そして続けてこう言った。
「民に取り囲まれた王はしばらく苦悶の声や絶叫をあげていたが次第に聞こえなくなってな。民が引き上げたあとには何やらミンチが残っておったよ。ぐはははは」
愉快愉快と笑う魔王。こんなところはやはり魔王なんだなとしみじみ思う志郎とビスカだった。
そして志郎が召喚されてから一年。
ここはカンダール城の中庭。
その芝生の上には複雑怪奇な魔法陣がピカピカと明滅を繰り返している。
「世話になったなビスカ」
「すみませんシロー様。七ヶ月でご帰還できるのに一年も町の復興を手伝っていただき申し訳ございませんでした」
「いや、気にすんなビスカ。俺が勝手に復興を手伝いたかっただけだから」
「ありがとうございましたシロー様。感謝いたします」
深々と叩頭するビスカ。
「私、この平和なカンダールを護っていけるように頑張ります」
「ああ。頑張れよ」
「はい!」
志郎に笑顔を向けるビスカ。
「さて、ビスカさん。そろそろじゃよ」
「あ、はい。魔王様」
ビスカは今では魔王の許で魔術団長をしている。カンダールを発展させたいと魔王に頼み家臣にしてもらったのだった。
「さあシロー様。魔法陣の中央へ」
「ああ」
志郎はそう返事をすると魔法陣の中心にピョンと飛び移った。
「それではシロー様。ありがとうございました」
「ああ。みんな元気でな」
「帰還魔法陣、発動!」
ビスカは両手に持った煌びやかな杖を魔法陣目掛け振り下ろした。
いままで明滅を繰り返していた魔法陣は白く強い光を放った。そして十数秒後、ゆっくりと光は消えた。
そこには志郎の影も形もなく、そして魔法陣もきれいになくなっていた。
「シロー様」
ビスカは青い空を仰ぎ見てうれしそうに微笑んだ。
「あっ、お還り~!」
「うぐっ!ふがががが!」
白い光がまぶしくて目を瞑った志郎、そろそろいいかと目を開くと目の前に迫る大きな大きな大きな二つの山。山頂にはピンク色に輝く突起物。
志郎はそれが何かと認識をした瞬間その山の谷間に挟まれて息ができなくなった。
「ようやく還ってこられたのねえ。お姉さんうれしいわぁ~!」
「ふごっ!ふがふがっ!い、息が……できん!」
じたばたもがく志郎だがガッチリと頭をホールドされててまったくビクともしない。
「……し、死ぬぅ……」
その言葉が耳に入ったのだろうあわてて志郎の顔を解放した。
「あはははは、ごめーん。苦しかったぁ?あははは」
と笑う金髪緑目の美女。
「ぐほっ!がはっ!ごほごほっすーはー、すーはー。く、苦しかったぁ。死ぬかと思ったぞこのエロ女神ぃ!」
というと志郎は机の上に置いてあった新聞を丸めると女神の頭目掛けフルスイングした。
バシッ!
「いったぁぁぁぁぁぁい!」
頭を押さえて涙目になる女神ターシァ。
「何すんのよぉ!痛いじゃない!愛の抱擁をしただけなのにぃ~」
「黙れエロ女神!……って今回も全裸か!服を着ろ、服を!変態エロ女神!」
「あはん。いやん。そんなに怒らなくてもぉ」
と言いながら身体をくねくねくねらせる女神。
「く、くそっ!逆効果か!」
脱力する志郎。
「も。もういい。おいエロ女神。異世界のカンダールは平和になったぞ。俺の仕事も終わったから元の世界に戻してくれ」
「え、ええええええ!も、もう戻っちゃうの!あたしとはまだあんなこともこんなこともしてないのにぃ~!プウー!」
と頬を膨らませる女神ターシァ。
「せん!なーんにもせん!だから早く元の世界に還せ!」
丸めた新聞を再び振り上げる志郎。
「わわわわわかった、わかったからぶたないでぇ!痛いのはいや~ん、うふっ」
とニヤニヤしながら頭を抑えた。
「うっ……。ま、まあいい。どうでもいいから早くしろ」
「んもう。わかったわよ。……って言ってもその襖の向こうはもう元の世界よ」
志郎の後ろの襖を指さすとほほ笑むターシァ。
「へ?そうなのか。わかった。それじゃあな」
志郎はサッと立つとターシァに背を向けると襖に手をかけた。
「ところで時間軸はどうなってる?元の世界の時間も進んでるのか?」
「いいえ。こっちに来た時の同じ時間に戻るから大丈夫よ。シローは行方不明になってないから安心して」
「そっか。それなら安心だ。ありがとなエロ女神」
「うん」
「それじゃあな」
志郎は襖を開けて元の世界に還っていった。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる