召喚召喚、また召喚

アデュスタム

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「魔術師長様、勇者シロー様をお連れいたしました」
「俺が来たからには魔族なんて赤子の手を捻るより容易いぞ。安心してくれ。で、あんたが魔術師長なんだな?」
 志郎とジオラはなんなくスラーデに帰国し魔術師長に会うことができた。
「はい。わたくしが魔術師長でございます。遠いところまでご足労をおかけいたしました勇者様。存分にお力をおふるいくださいませ」
 とうやうやしく頭を下げた魔術師長はその口元をニヤリとゆるませた。
「ああ。で、国王には会わなくてもいいのか?」
「国王でございますか?いえ、この後すぐに謁見していただきます。ジオラ、勇者様と共に来なさい」
「はい」
「それでは勇者様。スラーデ王と謁見していただきます。こちらへ」
 魔術師長の後に続き部屋を出るといくつもの角を曲がり謁見室に着いた。そして豪華なドアをコツコツコツと叩くと中に入る魔術師長。それに続く志郎とジオラ。
 中に入ると玉座にはすでに国王が座していた。だが国王の目は志郎たちを見ているようで見ていないように見えた。
 そしてなぜか魔術師長はササッと壁の方に行くと志郎たちに背を向けた。
「おぬしが ゆうしゃか?」
 なぜか棒読みで国王が話し出した。
「あ、ああ。あんたが国王か。で、俺に何をさせたいんだ?」
「わがくにの となりのとなりのくに ズーダオが まぞくに おそわれ あやつられておる ズーダオにゆき ズーダオおうを たおしてこい ズーダオのこくみんは ……」
 話続ける国王。
「やっぱ変だよなジオラ。国王は無表情で話してるし、あの魔術師長も変だし……、ってジオラ、あの魔術師長、何かぶつぶつしゃべってるみたいだ」
 小声でジオラと話をする志郎。
「へ?はい。陛下は変だと思いますけど……、魔術地長様の声なんて聞こえませんが……」
「そっか。ならちょっと試してみるか」
 志郎はおもむろにズボンのポケットに手をつっこむと小石を取り出した。
「どうするんですそれ?」
「ひひひ、こうするんだよ」
 というとその小石を背中を向けてる魔術師長の頭目掛け投げた。そしてその小石は真っすぐ飛んで行くと、コンッとその後頭部に当たった。
「あ痛っ!」
 魔術師長が叫ぶと、
「あいたっ」
 国王も叫んだ。
「シロー様」
「決まりだな」
 そういうが早いが志郎はその場から魔術師長に向けて拳を突き出した。
「うぐっ……!」
 すると魔術師はその場に倒れた。
「な、何したんですシロー様?」
 「見てのとおり、拳を突き出しただけだ。ただ拳の前にある空気が塊となってあの男にぶつかった。それだけだ」
 二人は魔術師長に近づくとうつ伏せで倒れている身体を仰向けにする。いくら不老不死でも気絶くらいするのであった。
「これか」
 右手に握っていたものを奪うとそれを見た。
「なんでしょうか?」
「たぶん、こういうことだ」
 志郎はそれを自分の口元に当てた。
「この魔術師長がしゃべったことを国王もしゃべるってことだ」
 すると王座に座ってる国王の口が勝手に動いた。
「このまじゅつしちょうが しゃべったことを こくおうも しゃべるってことだ」
「へえ、こうなってたんですか?」
 そしてその後魔術師長の身体を調べるとその懐から魔具がでてきた。それは国王を自由に操れる魔具で志郎がその機能を停止させると王座の国王が気絶した。そして数分後国王は意識を取り戻したのだった。
 また内ポケットからも秘薬が入っていたのだろう袋が出てきたが中身はカラだった。そしてその袋には《不老不死の妙薬’シナヘンデェ’と、そしてその下には’用法要領を守り正しくご使用ください’と書かれてあった。
「なんじゃこりゃ?ははは、こんなもんで不老不死になっても仕方ないのにな。ん?」
 志郎がその袋を何気なくさかさにすると底に何か文字が書いてあるのに気づいた。
「なんだ?めっちゃ小さい文字だな。こりゃ読むの大変だ。……えーと」
 目を凝らし集中しないと読めない程の極小の文字。よく読むとこう書かれていた。
’朝飲めばその日は不老不死。飲み切れば瞬く間に死んじゃうよ’
 志郎は倒れている魔術師長の身体を調べると、すでにこと切れていた。
「どうしたんですかシロー様?」
 志郎は薬の袋をジオラに見せる。
「うわあ、小さい文字。こんな小さかったら魔術師長様には読めなかったんじゃないでしょうか」
「読めてたらこんな薬飲まないよな。……飲み切ったとたん死ぬとはな。それって不老不死か?バカなヤツだ」
「……はい……」


「ふぉっふぉっふぉっ。やりましたなシローさん。これでスラーデも平和になるじゃろうて」
 次の日魔王軍がスラーデに着くとあっという間に総て終わらせた志郎とジオラにねぎらいの言葉をかける魔王。
「さて、シローさん。あなたはどうしますかな?元の世界にお戻りになりますかな?」
「そうだなあ。還りたいけど、やっぱり少し復興の手伝いをしてから還ることにするよ。で、誰に頼めば元の世界に還してくれるんだ?」
「そうですか。やはりシローさんはシローさんですな。ふぉっふぉっふぉっ。元の世界への帰還はビスカさんにお願いしましょうか。どうですかビスカさん」
 うれしそうな魔王はビスカに志郎の帰還を頼む。
「はい。おまかせください」
 と返事をした。
「でビスカ。やっぱり還れるのは一年後か?」
「ふふふふ」
と何故か胸を張るビスカ。首を傾げる志郎にビスカは言った。
「あの頃の私ではないんですよシロー様。今私の魔力はあの頃とは比べ物にならないくらい大きいんですよ」
「へえ。そうか。ということは?」
「はい。魔法陣さえ描けばすぐにでもご帰還できます」
「そうか。それはすごいなビスカ」
「はい。あれもこれもみんな魔王様のおかげです」
 とニコニコしながら二人を見ている魔王をチラッと見るビスカ。
「でも、しばらくはさっきも言ったけど復興の手伝いをしてから還ることにするよ」
「はい」
 とうれしそうなビスカ。

 そして一年後。
「さあ、シロー様。魔法陣の真ん中へ」
 とビスカ。
「結局は一年こっちの世界にいましたね」
 ふふふと笑うビスカ。
「はは。そうだな。でも放って還るなんてできねえし」
「やっぱりシロー様はシロー様です」
 微笑むビスカ。
「さあシロー様、魔法陣の真ん中へ」
「ああ」
「シロー様」
 ジャンプしようとした志郎に声をかけたのはジオラだった。
「シロー様。いろいろとありがとうございました。あたしビスカさんの許でもっと魔術に励みます。……シロー様、お元気で」
 ジオラは魔王の許でビスカとともに使えることとしたのだった。そしてビスカから召喚術を学ぶことにしたのだ。
「ああ。お前も元気でな」
 志郎が魔法陣の中央に立つとビスカが最後の言葉を叫ぶ。
「帰還魔法陣発動!」
 明滅していた魔法陣から一気に白い光が吹きあがった。

 そして目を瞑っていた志郎が目を開けると、その前にはやはり襖があった。
「ふう。還ってきたか」
 志郎が襖をポスポス叩いてスーッと開けた。
「おっかえりぃぃぃぃぃ!」
 と女神ターシァが飛んで迫ってきたが、志郎は一歩横に移動した。
「キョワェェェェェェ、なんで避けるのよぉぉぉ!」
 ドップラー降下とともに上半身裸の女神が志郎の横を通って白い霧の中に飛んで行った。

 襖を占めて中に入るとテーブルの向こう側でターシァが肩を上下させて恨めしそうに座っていた。
「おっ、なんでここにいるんだ?今霧の中に飛んでったのに」
「はあはあはあ、。だってここはあたしの領域なんだから自由自在に場所を移動できるわよっ!それより、なんで避けるのよぉぉぉぉ!」
 と絶叫すると再び志郎目掛け跳んだ。が、志郎はため息ひとつつくとまた横に一歩。
「  ボズッ!
「うぎゃああああ!」
 襖を突き破り再び霧の中に消えた。
「おおっ、またいた。おもしろいなこれ。あはははは」
 と言ってテーブルの向こう側にいるターシァを指さして笑った。
「も、もういいわよ」。ふんっ!
 ターシァはテーブルの上に顎を乗せると上目遣いで志郎を見上げた。
「あははは。悪い悪い。それより、ただいま。勇者として働いてきたぞ」
「うん。お還り」
 笑顔のターシァ。

「なあエロエロ女神」
「何?」
「聞きたいんだけど、なんでいつも裸なんだ?前回は全裸で今回は半裸だったけど」
「うん。あたしら神はね、衣服を着ることが無いのよ。衣服っていうのは身体を隠すもの。しいては魂を隠すものともいえるのよ。高位の神々は魂を隠す必要がないからいつも裸なの」
「そうなんだ。そんなら男の神様も全裸なのか?」
「そう、男神も全裸でブラブラさせてるわよ。まあ、中には前かがみの新米男神もいるけどね」
 それがまたそそるのよねえとニヤニヤする女神ターシァ。
「ねえ、お茶飲む?」
「ああ、いただこうかな」
 ターシァは上半身裸のミニスカート姿でキッチンに行くとすぐにお茶を乗せたお盆を持ってきた。
「はい、どうぞ」
「おう」
 ずずっとお茶を飲む二人。
「慣れたみたいね」
「何が?」
「あたしのおっぱい見てもなんとも思わないみたいだし」
「そ、そんなことはないぞ。今もなるべく視界に入らないようにしてるから」
「そうなんだ。でも、なんかうれしい」
 と少し頬を紅くするターシァ。
「ん?」
 首を捻るがまあいいかとお茶を飲みほした。
「さあ、還るよ」
「う、うん。襖の向こうはシローが来た時の時空で固定されてるから安心して。そしてこっちでの一年という時間は無いものとして存在してるから」
「うん。でも無いのに存在してるとは不可思議だな」
「あなたの経験した時間の記憶は、ちゃんとあなたの胸の中にあるってことよ」
「わかった。それじゃあな」
「うん。またね」
 志郎は襖を開けると元の、召喚された時間に戻っていった。

 おばちゃんズの横で溝から跳び出た志郎。大丈夫?というおばちゃんズの声に大丈夫ですと答えながら自宅に戻る途中。
「あれ?確かあのエロ女神は’またね’って言ってたよな。もしかして……」
 天気のいい日曜日。志郎は大きなため息をついたのだった。
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