召喚召喚、また召喚

アデュスタム

文字の大きさ
8 / 17

3. 猛暑に召喚

しおりを挟む
「ふう、暑かったぁ。なんて猛暑だほんと。あせびっしょりだ」
 三十五度を超える外からマンションに帰ってきた志郎は着ていたものをすべて脱ぐとシャワーを浴びに風呂場に急いだ。
  ガチャッ。
 風呂のドアを開けると……。
「……な、なんでやねん……」
 目の前は真っ白だった。そして後ろを見ると風呂のドアも無くなっていた。
 志郎は全裸のまま立ちすくんだがこのままではどうしようもないと数歩前に進んだ。
「やっぱり……」
 目の前にはあまり見たくもない襖があった。
  ポスポス。
 襖を叩くと中から声がした。
「はーい。どうぞぉ」
 女性の声がした。
「やっぱりエロ女神の声だ」
 志郎は襖を少し開けて中を覗く。いつもの風景があったが今回はテレビもついてないしこの部屋の主の女神の姿もない。
「シローでしょ?ちょっと待っててねぇ」
 横の方から声がした。
「あ、ああ。急がなくてもいいぞ」
 志郎は片手で前を隠してテーブルに近寄る。そしてちょうどテーブルの横に置いてあった新聞を拡げるとそれで下半身を隠した。
 カチャカチャと音がする方を見ると女神ターシァがキッチンで洗い物をしているのが見えた。
「おお、今日はちゃんと服着てるじゃないか」
 膝上までの真っ白なワンピースを着ている女神ターシァ。
「えへへへ」
 後ろ姿のままうれしそうな女神の声が聞こえた。
「なあ、もしかしてまた召喚か?」
「そうなのよねえ。なんでか最近多いのよねえ」
 困っちゃうわといいながら洗い物を続ける。
「そっか。そんなに多いのか?」
「うん。こないだなんて三日連続で勇者召喚よ。それが終わったなあと思ったら今度は聖女召喚。ほんっと忙しいったらありゅゃしないわ」
 とかちゃかちゃと食器を洗う音が少し強くなった。
「そりゃ大変だな。で、どんなヤツを召喚したんだ?」
「えとね、一人は巨大魔獣の討伐だったんだけど、『駆逐してやる』って言って異世界に行ってくれたのよ。そして一人はオーガって鬼の軍勢の制圧だったんだけど、なんかさカードみたいな耳飾りつけてたし、大きな箱を背負ってたわよ。なんか鼻が滅茶苦茶効くみたい。それとあとの一人はさ、変なの召喚しちゃったのよねえ」
「変なの?」
「うん。なんか青いタヌキみたいなの。『ボクはタヌキじゃなーい!』っていってたのよ。でも異世界に行ってもらったらへんな道具使って解決してくれたけどね」
 と微笑した。
「そっか大変だな。ちなみに聖女ってどんなヤツを召喚したんだ?」
「えーとね、一人はかなり若いっていうか、子供かな?なんかさ『月に替わっておしおき』とかなんとか言ってたし、一人は人なのかどうかわからないくらいの女の子だったわよ。なんかさ『あなたの人生変わるわよ』なんて言ってたし。あと一人は人じゃなかったわね。キーンって言いながら走るわ頭をポンッて抜くし星をグーでパカンて割るし。大変なの召喚しちゃったわ」
 はははと笑いながら洗い物をするターシァ。
「そうなんだ。そりゃ大変だったんだな」
 と下半身を隠している新聞に目をやると『また召喚事故発生!召喚三度の男神書類送検。召喚魔法陣から遠く離れたところに召喚」とか「三途の川の川開き、鬼たちもゴミ拾い」とか「ゼウスまたも不倫疑惑」とかの見出しに苦笑する志郎。
「それにしてもシロー。今日はなんで上半身裸なの?」
 ターシァが肩越しに志郎を見てニヤニヤしている。
「あ、うん。ちょっとな」
「もしかしてあたしに会うことがわかってて裸でいてくれたのぉ?でへへへへ」
「ちゃうわ!連日猛暑で熱いからシャワー浴びようとしてただけだ!」
「あらそうだったの。悪い時に召喚しちゃったわね。おわびになんか冷たいもの淹れるわね」
「あ、うん」
 ターシァはくすくす笑うと冷蔵庫からジュースを取り出してコップに注ぐと綺麗な氷を数個入れてお盆に乗せた。
「お待たせぇ」
 とジュースを乗せたお盆を持ったターシァがこちらを向いたとたん志郎は絶叫した。
「ななななななんじゃその格好はぁぁぁぁぁぁ!」
「てへっ!」
 チロッと舌を出して小首を傾げた。
 後ろ姿は確かに白いワンピース姿だったのだが、前側は首とウエストを細い紐でちょうちょ結びで止めてるだけだった。そう、後ろ姿はワンピース、前から見たらスッポンポンと完全無欠のド変態エロ女神だった。
「逆裸エプロンやんけぇ!どアホォォォォ!やめんかど変態女神ぃぃぃぃぃぃ!」
 志郎は思わず膝の上に拡げた新聞を丸めるとターシァ目掛け思いっきり投げた。
「ふげっ!」
 奇妙な声をあげるとターシァは後ろに吹っ飛んだ。だがジュースを乗せたお盆は空中に浮かんだままだ。
「い、痛いわよぉシロー!何すんのよぉ!」
 と赤い鼻をしたターシァが怒りの形相で志郎の眼前に急に現れた。
「うわっ!急に出てくるなエロ女神!……ってちょっと離れてもらえないかなと思ったりなんかしたりして」
 と目を泳がせる志郎。眼前のターシァは前がスッポンポン。大きな大きな大きな胸が志郎の上半身裸の胸にくっついてるしさっきまで下半身を隠していた新聞は無いし、いろいろ大変な状況になっている志郎。
「何よ!何よ何よ何よ何よぉぉぉ!何よ……?あれ?なんかお腹に硬いものが当たって……」
 志郎の様子に少しとまどったターシァが視線を下に移した。
「にへら。いひひひひひ。なあんだ、そうだったのぉシロー。あはん。うひひひひ」
 目をこれでもかと開けてそれをじっと見た。
「見るなぁぁぁぁぁ!」
 ターシァを突き飛ばすと志郎は襖を開けて出て行った。
「待ってぇぇぇん。シロー!カムバーック!大丈夫ぅ、襲わないからぁ、戻ってきてぇ!」
 にへらと笑いながら身体をくねらすターシァ。
 ここは女神ターシァの絶対領域。ただの人間の志郎に逃げられるはずもなく気が付くともとのターシァの部屋に座っていた。全裸で。

「あははは。なかなか立派なものを持ってたのねえ志郎」
「言うな!」
「んもう、褒めてるのにぃ。まあ、いいわ。これ着なさいな。ちゃんと男物の服一式よ。ちゃんと下着もあるからね」
 どこから出したのかそれを志郎に渡すターシァ。
「あ、うん。悪いな」
 白いTシャツとデニムという元の世界ではありふれた服だがTシャツには’I LOVE TARSHA’と赤い文字で書かれてあった。が、志郎はあえて気にしないことにした。
 志郎は着替えるとようやく息を着いたのだった。
「で、召喚はどうするんだ?」
「行ってもらうわよ。えとね今度の召喚はね。まあ、いつものとおりだけどさ」
 とテーブルに拡げた地図をトントンと細い指先で叩いた。
 地図には前回同様笑ってしまうほどの島が描かれてあった。
「なんじゃこの島?赤い縁の眼鏡みたいだな。あはははは」
「そうなのよ。笑っちゃうでしょ。それでね、この国はウートラアイ、そしてこの中心にあるのが聖都アースラッガって言うの。でね、ここがいつものとおり魔族に云々なわけ。いい?」
「ああ。で、その魔族を倒してくれってか?」
「そうなのよねえ。魔族にもいい魔族がいるのにねえ」
 と人差し指を唇の端に当てるターシァ。
「あっ、そうだ。ターシァに聞きたいことがあったんだ」
「何?……って、あたしのことターシァって呼んでくれたわねシロー。ありがと」
 とてもうれしそうなターシァの頬は少し紅くなった。
「へ・あ、、いや……。まあ、それよりだな、一回目の召喚の時も二回目の時も同じ魔族の魔王に会ったんだよ。それも魔王のじいさんでさ、なんかターシァのこと知ってるみたいだったぞ」
「へえ。どんなおじいさん?」
「えーとな、浅黒くて頭のツノは二本でねじれてて、口は耳まで裂けててさ、あと白い立派な顎髭があった」
「あはは、それって魔族の中の魔族のおじいさんのことだわ。知る人が見れば平伏するようなお方よ。あたしも何回か会ったことあるけど、素晴らしい魔族よ。一度神にならないかって誘ったんだけど断られちゃったわ」
「へえ、そんなじいさんだったのか。でも会った時って時間も世界も違ったんだけど?」
「ああ、それね。あのおじいさんは何人もの魔族を連れて異なる世界を漫遊しながら世直ししてるのよ」
「そうなのか。なんか水戸の御老公みたいだな」
「御老公?それがどういうのかよくわからないけど、とにかく素晴らしい魔族の王よ」
 と笑うターシァ。
「さてと、そろそろ勇者シローを光臨させないとね。準備いい?」
「ああ。でも今度こそ変なとこに送らないでくれよな」
「あはは。わかってるって。今回はちゃんと転送するって。さ、始めるわね」
 ターシァが人差し指を志郎の額に充てると白く光った。そしてその指を地図の上に持っていく。
「えと、ここよね。シローも確認して」
 どれどれと志郎も地図を見る。
「ここよね」
「そうそう、そこだ。間違いない城の真上だ」
「オッケー。んじゃ行くわよ」
 ターシァがその指をアースラッガ城にポンッと置いた。
「行ってらっしゃい」
「行ってくる」
 志郎の身体が白く輝くとその姿が消えた。
「気を付けてねシロー」
 そしてターシァはテーブルの上をトントントンと三回叩いた。するとアースラッガの召喚師と繋がったのだった。そしてターシァは言葉を送る。一応それは神の声、神託になるのだ。
『勇者はそなたたちの城内に光臨した。手厚く扱うようにするのだ。良いな』
 その言葉に平伏する召喚師。ターシァは返事を聞くことなく繋がりを解いた。
「さてと、おやつでも食べたら様子を診てみようっと」
 フンフンと鼻歌を歌いながらキッチンに行った。
 ポリポリと煎餅を食べながらテレビを見る。このテレビは異世界の番組を見られる神界の特別性だ。なんと三十箇所もの異世界と繋がっていて三百以上の放送が見られるのだ。そして追加料金を支払いプレミアム会員になると異世界の数が百に、見られる放送も千を超えるがターシァは一般会員だ。ただしR指定は契約しているのだった。
「さて、シローはどうしてるかなあ。そろそろ見てみよっと」
 ターシァは微笑むとリモコンでテレビのチャンネルを替えた。
「あっ、いやんもうシロー……。なかなかハーレムしてるじゃない。あははははは」
 テレビに映る志郎を指さして爆笑するターシァ。
 テレビはアースラッガに転送した志郎の姿を映し出していた。
「あははははは!」
 爆笑し続けるターシァ。志郎は裸の女たちに囲まれて袋叩きにあっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...