召喚召喚、また召喚

アデュスタム

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「あっ、映った」
 志郎がテレビを見るとそこには黒いローブを来た数人の人たちが複雑怪奇な光る魔法陣に向いて立ってる映像が映った。
「なんだこれ?」
 と志郎がターシァを見る。
「召喚の儀式の真っ最中の映像よ。ここから三日前に勇者を召喚してほしいってあたしんとこに願いがとどいたのよ」
「そうなのか。ってこれもしかしてゾッカー国の映像なのか?」
「そうよ。今現在のリアルタイムの映像。あきもせずまだやってるのよねえ」
「そうなんだ。でもなんかあっち側は昼間みたいだな。なんか陽の光が入り込んでるみたいだし」
 と少し不思議そうに志郎。
「そうね昼間よね。でも、そりゃそうよ、時差があるんだから。地球でもあるでしょ時差」
「あ、うん。あるな。そっか。で」
「うん。ちょっとボリューム上げるわね。向こうの声を聞かないとね」
 ターシァが音量ボタンを押すとテレビから声が聞こえてきた。

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「まだか!まだ勇者は召喚されんのか!」
「はっ!陛下!申し訳ございません。三日前に召喚の女神様から一度返事はあったのですがそれきりで。しかし女神様とは繋がっておりますので今しばらくお待ちください」
「早くしろ!早くしないとあの魔王どもが城に攻め入ってくるではないか!あんな奴らに余の宝を渡してたまるか!早く早く勇者を、魔王を倒せる勇者を召喚しろ!でないと、召喚師長、お前の家族がどうなるかわかっているのだろうな」
 卑しく笑うゾッカー王。
「は、ははっ!今、今しばらくおまちください陛下!」
 ひれ伏す召喚師長。その顔は苦痛で歪んでいた。
「それと、例の物はちゃんとあるだろうな。勇者が召喚されたらすぐに飲ませるのだぞ。わかっておるな」
「は、ははっ!承知しております。ここにちゃんと」
 といって懐からどぎつい緑色の液体が入った小瓶を取り出してゾッカー王に見せる召喚師長。
「うむ。絶対に呑ませるのだぞ。決して悟られてはならぬ。勇者をわがしもべとして使うために」
 うくくくくと不気味に笑うゾッカー王。そしてひれ伏す召喚師長。召喚師長の手は強く握られ震えていた。
----------


「なあターシァ」
「なあに?」
「俺、あんなの飲みたくないぞ」
「そうね。あんな毒ですよって色の飲んだらどうなるかわかったもんじゃないわよね」
 うんうんと頷く二人。
「で、あれなんだと思う?」
「そうね。どうも飲ませた相手を服従させるみたいだけど、見ただけじゃわかんないわね。まあ、どっちにしろ腹立たしい物にまちがいないようだけど」
 と少し怒りの目でテレビの向こうで召喚の間を去っていくゾッカー王を睨むターシァ。
「で、どうするんだ?」
「そうねぇ……。うん、どんな魔族が攻めてきてるのかちょっと調べてみて考えるわ」
 そう言うとリモコンを捜査して画面を切り替えると男の雄叫びが聞こえてきた。
『そろそろだ!。皆の者城に乗り込むぞ!!』
 『うおぉぉぉぉぉ!!』
 一人の少し弱そうにみえる男の魔族が軽く二百人を超えて整列している魔族たちに命令する。
「あっ!あれキュウちゃんじゃないか!」
「キュウちゃん?知り合い?」
「あ、うん。あの魔王のじいさんの仲間だ。もしかしてまたあのじいさんが一枚かんでるのか。忙しいな魔王のじいさん」
 と微苦笑する志郎。
「ああ、あの魔王のおじいさんの。ふーん。これはもしかしてもしかするわね」
「そうだな。まあ、たった今俺はキュウちゃんを見てゾッカー国が嘘ついてるのを確信したぞ。さて、どうするターシァ」
「そうねえ……。もうちょっと様子を見ましょ。魔王のおじいさんがどうするのか知りたいし、それにゾッカーの王様の宝も気になるし」
 とリモコンを捜査するとテレビが左右の二画面になった。左は魔王軍、右はゾッカー国の様子を上から映していた。

 進行してくる魔王軍は城に近づくにつれ左右に拡がるとあっという間に城を取り囲んだ。
 それに対するゾッカーの兵士たちは城壁に昇ると弓を射り槍を投げる。だがあまり命中率は高くないようで魔王軍は余裕でそれらを躱していた。
 魔王軍のキュウベエたちはというと、正々堂々と正門に向かう。そして一人の魔族が閉ざされていた分厚い扉に向けて拳を一発。とても頑丈そうな扉は木端みじんに砕け散った。
 城内に流れ込む魔王軍。次々と兵士たちを行動不能にしていきながら王の部屋へと進軍した。

「ゾッカーの兵士ってぜんぜん役に立たないんだな。キュウちゃんたち、あっさり城内に侵攻していったぞ」
「そうね。シローを、っていうよりあれじゃ勇者を呼びたくなるのがわかるわね。ほんと弱っちぃわねゾッカーの兵士」
 あきれる志郎とターシァはお茶を啜りながらテレビの向こうの異世界の様子を見ていた。

 そしてまたまたあっと言う間に魔王軍は王の間にたどり着いた。がそこには王の姿はなかった。
「ちっ!どこにいきやがった」
 鋭い目で周囲を見るキュウベエ。
「ん?そうか、あそこか」
 キュウベエは王座の座面が少し傾いているのに気が付いた。
 椅子に近づくとその座面を下から上に蹴り上げた。そして床に手を伸ばすと一気に床を剥がしたのだった。
「階段か。螺旋階段だな」
 キュウベエたちは王座の床下にあった螺旋階段をゆっくりと降りて行く。そして一番下まで降りるとそこには鋼鉄でできた扉があった。
 キュウベエはその扉のノブに手をかけると一気に開け放った。
「だ、誰だ!」
 扉を開けたキュウベエに驚愕の目を向けたのはゾッカー国の国王ゾッカーだった。
「こんなとこにいやがったか。さあゾッカー王、神妙にしろ!民の宝を返せ!」
 睨むキュウベエ。
「な、なんだと!あれは渡さん余の物だ!消えろ!」
 絶叫するゾッカー王の向こう側には白く光る魔法陣があった。そしてその周囲には黒いローブの魔法師たちが呪文を呟き続けていた。
「まだか召喚師長!早くしろ!」
「は、はいっ!もうしばらくお待ちください!」
 召喚師長はふらふらの身体でゾッカー王に叩頭する。
「ほお、そういうことか。勇者召喚はさせない!てめえら覚悟しろ!」
 いまにも飛び出しそうなキュウベエにゾッカー王は高笑いをしてこう言った。
「動くな!動けばどうなるか。あれを見ろ!」
 ゾッカー王が指さした方に目を向けたキュウベエはギシリと歯を軋ませた。
「き、貴様……!」
 そこには五人もの子供たちの首元に剣の切っ先を押し当てているゾッカーの兵士たちがいた。
「あ、うぅぁ……。あ、あれは……」
 その子供の一人を見て召喚師長が目を見開き両腕をわなわなと震わせた。


「ターシァ!」
「うん。行って来てシロー!」
 ターシァはその人差し指を光らせると志郎の額に当て、そして拡げた地図のゾッカー城の魔法陣のある部屋の上にトンッと置いた。
「頼んだわね」
「ああ」
 志郎の身体は白い光に包まれると部屋の中から消えた。
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