召喚召喚、また召喚

アデュスタム

文字の大きさ
上 下
14 / 17

4-3

しおりを挟む
「貴様!」
 文字どおり魔の形相でゾッカー王を睨むキュウベエ。
「ぐわははは!おとなしく殺されればあのガキどもは解放してやる。さあ、どうする!」
 厭らしく笑うゾッカー王。
「く、くそっ!」
 怒りに身体を震わせるキュウベエ。
 その時ゾッカー王の向こうにある魔法陣から白い光が大きく立ち上ったのが見えた。
「陛下!召喚します!」
「おおそうか。でかしたぞ!」
 ゾッカー王は振り向き魔法陣を見ると立ち上った白い光が徐々に消えるところだった。そして数秒後、光が消えるとそこには一人の男が立っていた。
「ほほう、お主が勇者か。さあ勇者よ!あの魔族を殺せ!」
 ゾッカー王はキュウベエにその人差し指を突き出した。
「……」
 そちらに目を向ける召喚された男。
「……」
 キュウベエはその男をじっと見つめるとニやりと笑んだ。
「ふふ」
「はは」
 召喚された男もニヤリと笑い返した。久しぶりに再会したキュウベエと志郎は互いにアイコンタクトで会話したのだった。
「何をしている勇者よ!早くせい!」
 一向に動かない志郎にいらだちの声を挙げるゾッカー王だが志郎はそれにかまわず周囲をゆっくりと見渡した。
「ゆ、勇者様、こ、これを、どうかこれをお飲みください。力を何倍にもする秘薬でございます」
 志郎の目の前に召喚師長があのどぎつい緑色の液体が入った小瓶を差し出した。
「……」
 志郎はそれを受け取るとゾッカー王を見た。
「そうだ勇者よそれを呑むのだ!さすればお主は最強の力を得る!さあ勇者よ、呑め!」
 とニヤつくゾッカー王。
「……はぁっ!」
 志郎が手に魔力を集めると気合とともに炎が上がる。その緑色の小瓶はその炎に呑まれ一瞬にして蒸発した。
「ななな、なんということを!き、貴様!」
 顔を真っ赤にさせて怒るゾッカー王に志郎は小さく答えた。
「こんなものなくても俺は最強だ。それよりゾッカー王、倒して欲しいのはあの魔族なんだな?」
「あ、ああ……」
 志郎の気迫に一歩後退るゾッカー王。
「わかった。だがその前に……」
 志郎はそう言うと兵士に捕まっている子供たちの方に歩き出した。
「ゆ、勇者よ、そいつらはどうでもいい早く魔族を殺さぬか!」
「ちょっと黙ってろ!」
 志郎が人睨みするとゾッカー王はまたも一歩後退った。
 志郎は兵士の前まで行くとその手に囚われてる子供たちを順番に見た。みんな恐怖に怯え顔面は蒼白で唇は紫色になり身体は小刻みに震えていた。
 志郎は少し眉間を寄せると右手を軽く上げた。そしてその瞬間……。
「……!」
 五人もの兵士が呻き声をあげることなく全員冷たい床に倒れ込んだのだった。
「な……?!何をした……」
 驚嘆するゾッカー王。それもそうだ志郎が右手を上げたかと思ったら突然志郎の身体が一瞬の間だけ消えたのだ。そして再び姿を現したと思ったら兵士が倒れ伏したのだから。
「キュウちゃん!やれ!」
志郎はキュウベエに顔を向けるとゾッカー王たちを指さした。
「はい!魔王軍、ゾッカー王たちを捕らえろ!」
「おおっ!」
 魔王軍は一気にゾッカー王たちに突撃した。だがゾッカー王は一瞬早くこの場から逃げ出した。それも召喚師たちをおいて一目散に逃げたのだった。
「くそっ!すみませんシローさん逃げられました。今から追いかけます……、って何やってんですか?」
 ゾッカー王を逃がしてしまい地団太を踏んだキュウベエが志郎にゾッカー王を追いかけることを報告すると、志郎はさっき捕まっていた子供の一人を抱きかかえ号泣している召喚師長を見つめていた。
「シローさん?」
「ん?ああ。この子は召喚師長の子供なんだそうだ。召喚師長が裏切らないよう家族がゾッカー王に囚われていたみたいだ。ほんと糞だよあの男は」
 憤怒の形相の志郎にキュウベエも怒りの目となった。
「シローさん、俺あの男許せません。すぐに捕まえてその報いを受けてもらいます。それじゃ」
 キュウベエは志郎に軽く頭を下げると魔王軍を率いてゾッカー王を捕らえに行った。

 そして一時間後。
「宝物庫の奥で町の宝を抱えて隠れてましたよ」
 ドサッとキュウベエが放りだしたのは縄でグルグル巻きにされたゾッカー王だった。
「うぐっ!き、貴様、余を誰だと思っておる!あとでさらし首にしてやる!」
 じたばたするゾッカー王。
「お前こそ今どういう状況なのか理解しろ!この糞王が!」
 ゾッカー王を足で軽く小突くキュウベエ。
「ところでキュウちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、宝ってなんだったんだ?」
「宝ですか?これですよ、街の宝」
 といって魔族の一人が持っていた小さな像を志郎に見せた。
「これか。これって女神か?」
 それは高さ五十センチほどの像で光輝く金色をしていた。
「はい、そうみたいです。これ、純金製ですよ。そしてこの目はエメラルドですよたぶん。素晴らしい像です、ほんと」
「へえ。俺宝石とかよくわからんけど、綺麗だよな。それにしてもこの女神像、似てるよな……。あはは、そんなわけないか」
 苦笑しているとパタパタと誰かが走ってくる足音が聞こえた。それは数人の足音で志郎はそちらに顔を向けた。
「シロー様じゃ、やっぱりシロー様じゃ!久しいですのう!またまたまたお会いできて私うれしいですじゃ!ごほごほ」
 むせながら一番に走ってきたのは緑の髪で緑の目の女性だった。
「誰だこの婆さん?なんで俺の名前知ってんだ?」
 背は曲がっているが確かな足取りで走ってきたのは自分の名を知ってる老婆だった。
ほんとじゃシロー様じゃ、ほんに懐かしいのう。コホコホ」
 続けて走ってきたのはちょっとくすんだ赤い髪のこれまた老婆。
「ほんとじゃほんとじゃ、かなり若いが確かにシロー様じゃ!。ぜぇぜえ」
 その後からまたまた走ってきたのは青い髪の老婆だった。
「な、なんだなんだ、なんなんだこの婆さんたち?」
 自分に向かってくる三人の老婆に志郎は数歩後退った。
「シロー様、お忘れですか!私です、私ですじゃ、カンダールでお世話になった……」
「あたしのこともお忘れなのですかシロー様。若いころ巨乳だったあたしですじゃ、スラーデでお世話になった……」
「私のことは覚えてますよねシロー様。アースラッガでお世話になった私ですじゃ」
 三人の老婆は志郎を取り囲むとこれでもかというくらい顔を近づけてきた。
「わわわわわ!近い!近いって!わ、わかったわかった。お前らはビスカとジオラとイネリアだよな!」
 こめかみに汗を流しながらあわてて三人の名前を思い出すことができた志郎。
「「「そうです!」」」
 と皺だらけの顔を一層深くして喜ぶ三人の老婆。
「いやあ……、懐かしいな。でも、お前らかなり歳くったみたいだな」
 三人の顔を見渡して苦笑する志郎。
「そりゃそうですよ」
 とイネリア。
「あれから何年たったとおもってるんですか?」
 とジオラ。
「最後に私たちと会ってから百年近くたってるんですよ」
 とビスカが言う。
「ひゃ、百年!?こっちの世界じゃもうそんなにたってるのか。俺の時間だとまだ一年もたってないんだけどな。時間ってのは残酷なんだな」
 しみじみと三人を見る志郎。すると三人の老婆の目が吊り上がり……。
  バシッ!
「あいでっ!」
 頭のてっぺんを手でおさえてしゃがみこむ志郎。
「「「怒りますよ」」」
 三人は笑ってない笑顔で同時に志郎の頭をしばいたのだった。
「そりゃ怒られますってシローさん」
 キュウベエは志郎たちを見て肩を竦めた。その横でゾッカー王は縄から抜け出そうとじたばたしていた。
しおりを挟む

処理中です...