俺……、異世界に行ってた……

アデュスタム

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08 魂の火が!

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「それではヤスヒト様のギルド登録を始めます」
 昼食後康人たちはカノンに連れられギルド登録に入った。
「ではこの書類に記入願います。はい、代筆で大丈夫です」
 盲目の康人に代わりシーディアが書類の代筆を行ない提出する。
「えと、お名前はヤスヒト様。代筆はシーディア様。そして身元保証人はリュウト様。そして特別支援者としてカノンさ…ま……?はいぃ?」
 白い髪の色白の女性が目を点にして書類を見つめた。
「えと、あの、その……」
「気にするな」
 微笑むカノンに担当スタッフの女性は「はい……!」と額に汗をにじませつつ次の作業に移った。
「わ、わかりました。では、ヤスヒト様の魔力測定を行います。この板の上に手を置いて……」
 と説明を始めたが、またカノンが口を挟む。
「ちょっと待て。精密な魔力測定をしてくれ」
「へ?精密な……」
「そうだ。ヤスヒトには魔力がほぼ無いと思われる。だが、魔力以外の何かがあるかもしれないので精密な魔力測定をしてくれ」

 そして精密な魔力測定が行われた康人はカノンの部屋、本部長室まで戻った。
「えーと」
 測定結果を見るカノン。
「ほんとに魔力無いんだねヤッさん。生まれたての赤ちゃんより低い値だよこれ。でも……」
「まあ、魔力なんて無い世界から来たんだから当たり前と言えば当たり前だぞ。それで、でも……って?」
「うん。足底不能があるんだ。何かわからないものがヤッさんの身体の中にあるのはわかるんだけど、それが何なのかわからないんだ。こんなの初めて見た。なんだろう?」
 と悩むカノン。
「足底不能……?もしかしたらそれがヤッさんの能力のことなのかも」
 とシーディア。
「ふむ。かもしれんな」
 まあ、いいけどとカノンは次いでカードを康人に手渡した。
「これは?」
 掌に感じるのはちょうどクレジットカードほどの板だった。触感はほとんどそれらに近いがプラスチックや金属ではないように感じた。
「それがヤッさんのギルドカード。治癒術師のレベルはCだよ。レベルはFから始まってAになってその中から特に優れた人がSやSSになるんだけどね。ヤッさんの知識を目の当たりにした私がCにしろって言ったの」
「そうなのか。ありがとう」
「ううん。でね、表には名前と治癒術師だということが書いてあるし、裏には盲目だということとリュウトが保証人だということと支援者が私だということが書いてあるの」
「そうか。いろいろとありがとうカノンちゃん。カノンちゃんに出会えてほんとよかったよ俺。ありがとうな」
「えへへ。いいっていいって。でも、そんなに喜んでもらえてうれしいよ私」
 ととてもうれしそうなカノンの声ははずんでいた。
 そんなカノンを見てまたシーディアがニコリとする。
「キュン!」

 その時秘書のマーディロスが何かの書類を持って入室してきた。
「カノン様。例の事件の途中報告があがりました」
 その書類をカノンに手渡すマーディロス。
「うむ。どれどれ」
 その報告を読んでいたカノンは眉間に皺を寄せ難しい顔をした。
「若い者というだけで他は関連性が無いみたいだな」
 書類をテーブルに放り投げるとふうとため息をついた。
「どうしたんです?グラマス」
 書類を睨むカノンに声をかけるシーディア。
「ん?ああ、すまない。なあ、話を聞いてくれるか?」
「え、ええ。いいですが」
 リュウトたちと目を合わせるシーディア。

 先月のこと。
 リュウトたちがオッティーの護衛でアーウイナンに出発した頃からオリスメイでは奇妙なことが起こるようになった。
 人や亜人そして獣人が突然狂暴化したのだ。
 誰彼構わず暴力をふるい、周囲にいる者たちを傷つける者が続出した。
 最初は日に一件か二件だったのが日を追うごとに増え今では日に十数件の騒ぎが起ることもある。
 普通のケンカならたまにあったがここまで数が多いのは異常ではないかとグランドギルドマスターであるカノンは捜査を指示した。だが未だに理由がわからない。
 暴れた者たちの関連性もわからない。血の気の多い冒険者ならまだ理解できるが屋台の店主や宿の女将、治安を護る兵士や騎士なども狂暴化した。
 このまま進めば被害も甚大になることは必至だ。
 だがまだその原因もわからないし対処法もない。途方に暮れる毎日をここオリスメイは送っているのだった。

「なんか怖いな」
 康人が心配そうにぼそっと言った。
「そうなんだよヤッさん。でもよくわかんないんだ。このままだとオリスメイが大変なことになってしまう……。そんな気がする……。マーディロス」
「はい、カノン様」
「引き続き捜査を継続してくれ。必ず原因を見つけ出すのだ」
「はい」
 マーディロスは一礼をすると退室した。

「さて、リュウトよ」
「はっ!」
 姿勢を正すリュウトたち。
「二,三日ヤッさんを頼む。その間にマッサージの店を出せるところを捜しておく」
「わかりました」
 とリュウトたちはカノンに敬礼する。。
「ありがとうカノンちゃん」
 康人も頭を下げた。

 康人たちが退室しカノン一人の本部長室。
 大きな机に両肘を着いてその手に顎を乗せてため息をついた。
「ふう。ヤッさんか……。あれだけ似てるとはな。はは……。でも……」
 目を細め異世界から来た盲目の男を思い出す。
「……さ、マーディロスが帰ってくる前に雑務を片付けてしまおうか。もし片付けてなかったらあヤツに何を言われるかわかったもんじゃないからな……。ふう」
 カノンはため息をつくと高く積み上げられた書類に手をのばしペンを手に取った。


 康人たち四人はギルドを出ると大通りに向かい歩き始めた。
「で、これからどこに行くんだ?リュウトたちの家とか?」
 シーディアの肩を持ち手引きしてもらっている康人が尋ねた。
「いや。家じゃないぞヤッさん。俺たちはオリスメイを起点として冒険者やってるが定住してるわけじゃないんだ。まあ一月や二月はこの町にいることもあるがな。冒険者は定住地を持たないのが普通だ」
 とリュウト。
「でもなんにでも例外はあるし、定住してそこを起点にして冒険者続ける人たちもいるけどね。数は少ないけど」
 とシーディアが続く。
「そうなのか。それじゃどっか宿に行くのか?」
「そうなんだよヤッさん。俺たち常宿があるんだ」
 となぜか胸を張るビル。
 そうなんだと康人が関心していると何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どけどけどけ!邪魔だ!邪魔するヤツは殺すぞおおお!」
 前の十字路から目を血走らせた男が無茶苦茶に走って曲がってきた。
「危ない!」
 急に飛び出してきた男から康人をかばうシーディアだったが一瞬遅く二人はその男にぶつかられたのだった。
「きゃっ!」
「いてっ!」
 二人は弾き飛ばされた。そしてその衝撃で康人のサングラスも飛ばされた。
「シーディア!」
「ヤッさん!」
 あわててリュウトとビルが二人に駆け寄る。
「大丈夫かヤッさん」
「ありがとうビル。俺は大丈夫だ。それよりシーちゃんは?!」
「ああ、大丈夫そうだ。なあ」
「う……うん。大丈夫よ。ヤッさんは?」
「俺はなんともない。シーちゃん、本当に大丈夫か?」
 ビルに起こしてもらった康人がシーディアの方を見る。
「うん、心配しないでヤッさん、本当に大丈夫だから。これでもあたし高レベルの冒険者よ。これくらいはわけないわ。それより……」
 とシーディアは打ち所が割るかったのか自分たちにぶつかって道の上で唸っている男を見た。
「あっ!」
 康人はその男の方を見ると驚いた。
「火が……、魂の火が!」
 その言葉に康人を見る三人。
「魂の火を赤黒っぽい火が覆い隠してる!」
「赤黒っぽい火が?」
「覆い隠してる?」
「それはどういう意味なのヤっさん?」
 リュウト、ビル、シーディアが頭でも打ったのかまだ倒れて唸ってる男と康人を交互に見た。
「いた!今だ!取り押さえろ!」
「おとなしくしろ!」
 男を追ってきた二人の兵士が十字路の角を曲がってきて取り押さえようと男に飛びかかった。だが男は抵抗し腕を滅茶苦茶に振り回す。
「おとなしくせんか!」
 中年の兵士が抑え込もうとするが強く抵抗し手こずっている。
「いてっ!くそっ!暴れるな!」
 中年の兵士が滅茶苦茶に振り回している腕で殴られた。
「うっ!」
 もう一人の若い兵士は顔を殴られた
「くそっ!おとなしくしろ!」
 二人の兵士は男を羽交い絞めにするとなんとか縛り上げるのに成功した。
「ふう。痛かった」
 殴られた若い兵士は頬を摩りながら口内にに溜まった血を吐き出した。
「おいボニト。そいつ何したんだ?」
 とリュウトが男を睨む若い兵士に尋ねた。
「え?!誰だ……って、リュウトじゃないか。久しぶりだな」
「ああ。で、そいつなんなんだ?」
「ん、こいつか?こいつはフラフラと不審な動きをしていたから職質したら急に暴れだしてな。周囲の屋台を壊しやがったんだ。しかし、最近急に暴れだすヤツが多くてな。困ったもんだ」
「突然か?」
「ああ。ほんと困ったもんだ。お前もへんなヤツを見つけたらすぐに通報してくれ」
「ああ」
「それじゃあな」
 そう言って男を引っ立てると二人の兵士は去って行った。
 三人を見送った康人たち。
「今の人、リュウトの知り合いだったのか」
 と康人。
「ああ。昔からの知り合いの兵士だ。友人ともいう。それよりなあヤッさん、黒っぽい火って?」
 リュウトが地面に落ちていたサングラスを康人に手渡しながら聞いた。
「あ、ありがとう。……あの男の魂の火なんだけど……」
 今見たことを話しする康人。
 普通魂の火は基本的には青白く視えるのだが、男の火は全体的に黒っぽく変色し火の勢いも弱かった。
 青白い火は確かにあったが赤黒っぽい火が青白い火を覆い隠すようにしていたのだ。赤黒っぽい火の隙間から青白い火がチョロチョロと見え隠れしていた。
 赤黒っぽい火が頭から離れず康人はもやもやした気持ちでリュウトたちと常宿に向かったのだった。
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