歪んだ愛情と憐憫

春月 黒猫

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巡回者たち

初めて

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「…リ……ユーリ……」

誰かが遠くで俺を呼ぶ声がする。


起きなくては、と思いながらも体に力が入らない。

ちょっと待って、もう少ししたら起きるから。

そう心の中で詫びて、重い頭の靄を跳ね飛ばすように瞼を開けた。



見たことの無い細かな装飾が施された天井。
そこに黒い薄布が寝床を囲うようにたっぷりと掛けられている。
足元にあるランプの灯りでも薄暗く、今は夜なのか外からの光は射してこない。

「起きたか」
「!!」

聞き覚えのある声に身を固くする。
昼間俺を巡回者ウィグルの砦に連れて来た、奴らのボス、ジン。
大きな寝床の傍らに寝かされていた為、ほぼ横にいたのにも気づかなかった。

「エリルが何かしたんだってな…悪い」
「えっ……あ…」

先程されたことを思い出し、しきりに赤くなったり青くなったりして慌てたあと、この後されることを想像して俯いてしまった。

そうだ、エリルはジンが俺を奴隷にする為に必要な準備のためにあんな事をしたのだ。

そして俺は今ジンの部屋であろう場所にジンと並んで寝ていた……
もう詰んでいる。

全力で反抗などしたところで俺に勝ち目などない。


「どうした?どっか打ったか?」

ジンの無骨な手が頭に伸びて、つい身を覆うように膝を抱えた。

「っあ、す、すみません!ごめんなさい!」
「…何で謝るんだよ。……と、頭にコブはねーみてえだな」

わしゃわしゃと頭に傷はないかと、野良猫を撫でるように撫でられ確認される。
…やましい事を想像していたのが何だか申し訳ない。

「ジンさんは……その…もっと怖いかと思ってました……俺がコブなんて作っても気にしないかと。ごめんなさい」

そう言うと、ジンは一瞬びっくりしたような顔で動きを止めた。

「俺が知らないところで俺のモノに手を出されるのが嫌なだけだ。勘違いするな」

ピシャリとそう言われ、ベッドに弾き飛ばされる。

「ッ…!」

酷薄そうな笑みで舌舐めずりして俺の体を組み敷いてくる。
…前言撤回だ。


「にしてもお前細いな…まあ【ネズミ】達はろくな飯食えてねえだろうしな。」

薄い服の隙間から腹をまさぐられ、肌が粟立った。

「っ…」
「俺の言う通りにしてればこれから飯には困らねえようにしてやるよ。もっと肉をつけろ」
「……俺たちから奪ったもので食ってるくせに」
「ああ?」

しまった、と思ったがもう後の祭り。

乱暴に服が引き裂かれ、全身がジンに晒される。


「言うじゃねえか、さっきまで縮み上がってたくせによ」

ずしりと筋肉質な体が覆いかぶさり、俺の視界いっぱいにジンの顔が迫る。
もうどうにでもなれと思い切り睨み返して口を開く。

「俺の父さんも母さんも巡回者ウィグルに食べ物を奪われて…俺に食べさせるのも苦労して死んで行ったんだ!これ位言ってもいいだろ!」

ぎゅっと目をつぶり、殴るなら殴ってみろと歯を食いしばったが、衝撃は来なかった。

恐る恐る目を開くと、眉間に皺を刻んだジンの姿があった。

「……」

それは今まで出会ってきたどの巡回者ウィグル達とも違う反応だった。
俺たちが苦労してかき集めた食糧を、血も涙もなく奪っていった奴らとは何かが違う。

「そうか……すまなかったな」
「……」

素直に謝ったり威勢のいい言葉で威圧したり、どっちが本当のジンなのか。
どうも調子が狂う。

「俺は親父とは違う。…俺の母親はどっかの貴族の屋敷から攫われて来たけどここの暮らしで狂って死んじまった」

無骨な指先が、花を扱うように優しく俺の頬に触れる。

「俺はエリル達みたいな奴隷を増やさねえ。…お前だけ居ればいい」

熱を込めたような視線で見つめられ、掴まれていた片腕にくちづけが落とされる。

「……そんなの…今日初めて会ったのに……本当か分からない…」
「そうだろうな。…見ててくれよ」

自嘲するように薄く笑うと、ジンは俺の首筋に顔をうずめてくる。

「っう、わ…!」
「くすぐってえか?」

そう言いながら、くちづけが先程より性急に落とされる。
そのまま耳に移動し、甘噛みされる。

「…ゃ、めろっ!」
「かーわいい声だな。耳が弱いのか」

いたずらを思いついた子供のように、しつこく耳を甘噛みされ、舌で弄られだして俺は身をよじる。

じたばたと手足を動かすと、がっしりと掴まれあっという間に身動き出来なくなる。

「っん…っ!ぁ……!」
「力抜いとけよ」

両脚の間に膝を差し込まれ、閉じられなくされる。
両手を片手でまとめられてしまい、力が抜けかけていた体が一気に硬くなる。

「…今まで本気で欲しいと思ったのはお前だけだ」

そう言われ、唇にジンのそれが重ねられる。
きつく閉じていたその場所は、体への愛撫でだんだんと力が抜けていき、声が漏れ始めたのと同時に舌でこじ開けられる。

「んっ…!ふ…ぅ、んんっ……!」

水音が鼓膜に響いて、ジンの舌に口腔がまさぐられていく。

今まで経験したことのない【それ】は、
俺の中では好きになった女の子と、という淡い希望は暴力的なまでに打ち砕かれた。
想像していたそれとはあまりにかけ離れすぎていた。

なんで俺が。

舌先で上顎をくすぐるようにされると、思いもかけず甘い声が漏れた。

脳が痺れるような、初めての感覚。
体に込めていた力が抜けていく。

「いい子だ、ユーリ」


ジンは、荒い息を吐く俺から一度離れ、舌先から零れた糸を舐めとり、妖艶に微笑んで再び口づけを深く落とした。
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