歪んだ愛情と憐憫

春月 黒猫

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巡回者たち

蜜月

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一体何日経ったのだろう。


昼も夜もなく薄暗いランプで照らされて、ジンに体を貪られた。
あの小瓶に入った油が無くなったと思ったら、甘ったるい香りのする違う小瓶が部屋に持ってこさせられ、行為が続けられた。

終わったと思ったら甘い果物を渡され、ジンに食べるように言われるがそれ以外はほぼ抱かれたままだ。

ジンの部屋からちょっとした庭に出ることが出来、そこに体を洗う場所も設えられており、そこから砦の全体や今まで過ごしていた砂漠一帯が見渡せる。

切り立った岩山にある神殿を利用して作った砦の最奥部になっているようで、外から訪れられるものは鳥くらいしかいなかった。

ここから脱出するとしたら、命はないだろう。


「ユーリ」

寝床で重い体のまま微睡んでいると、ジンから声をかけられる。

また抱かれるのか、と半ばうんざりしながら目を開けると、いつの間にかジンは外に出かけていたようできちんと服を身につけていて、土の香りがした。

「これを着て一緒に来い」

そう言うと薄い布で出来た服を渡された。
今まで触ったことの無い、さらさらとした上質な布地だ。

「お前の日に灼けた肌と黒い髪にはこの白い布が映える」

そう言うと、銀と藍色の石が着いた耳飾りをジンが俺の耳につけた。

服を着てみたが、足元が短く太腿の真ん中ほどまでしかなく、胸元が開き、スースーして落ち着かない。

「…下着とかは…?」
「付けるな、抱きたい時すぐ抱けない」

理由がやっぱり自分勝手すぎると思いながら、諦めてジンの後ろについて部屋を出た。


今は夕方のようで、砂漠で暖められた熱気が残る風が砦の回廊に設けられた窓から抜け、淡い紫の空が覗いていた。

日が落ちると砦の中は一気に冷える。
巡回者ウィグルたちが集まった砦の集会場のような広い空間にジンとともに入ると、そこには篝火が焚かれていた。

厳しいガラの悪い奴らの視線が一気に集中する。
数にして100人ほどと言ったところか。
薄暗さの中でこんな男達を見ていたら以前の俺なら卒倒していたと思う。
中に見た事のある顔が何人か居ることだけが嫌な思い出もあるもののまだ救いだった。


「よう、お前ら悪さしてねえだろうな」

ジンが用意された何かの獣の皮で出来た敷物の上に俺の手を引いて座り、奴らに声をかけた。

「ジンの言いつけ守って動物捕まえたりしかしてねえよ」
「あれはあれで疲れるがケンカの腕がなまっちまうな」

あちこちで野太い声が上がる。
言いつけとはどういう事だろうか?

「それにしてもジン、長い間お楽しみだったな」
「そんなにその細っこいのが良かったか?」
「俺はエリルにお願いしたいね」

そんなに遠くない位置に座っていたエリルが軽口を叩いていた奴を睨み付ける。

「組み敷く方で良かったらお相手しますよ」
「それはお断りだ」

下卑た笑いがあちこちで起こる。
こいつら、やはりこういうことに目がないようだ。

「お前らも仲間内で揉めないなら好きにやりな」

そう言うとエリルがジンをすごい表情で睨んだ。


「まあこいつは俺のだから。手出したヤツは容赦しないから覚えとけ」

そう言うと一瞬空気がピリッと張り詰める。

「出さねえよ、おっかねえ」
「惚気だよ、若いっていいなあ」

そう言いながらも、上下関係にはあまり厳しくないようですぐに軽口が挟まれる。
全員の手元にはよく見ると酒や肉類が置かれていて、ジンや俺にもすぐにそれらが運ばれてくる。
この食料や物資の乏しい地域でどうやってこれらを集めたのだろう?


キョロキョロと食料を見ている俺の様子に気づき、エリルが苦笑する。

「この食料が気になってるようだよ、ジン」

「何だ、欲しかったらいくらでも食べていいぞ」
「そういうことじゃないと思いますけどねぇ」
「あ?…これの入手経路か?」

こくこくと頷くと、ジンは俺を腕の中に抱き寄せ、得意げに懐にしまっていた紙を取り出した。
広げると、どうやらこの砦ーもとい元神殿の見取り図のようで何ヶ所かに○印が描かれている。

「この砦を作る時に出てきたモノの1部をな、砂漠の外のキャラバンに少し前に渡したんだが…失われた技術で作られてるとかで結構な対価が手に入ったんだ。ここら辺の気候でも生きるような家畜とかだな」

それって。

青ざめた俺を見て、すかさずエリルが頷く。

「まあ言いたいことはわかりますよ。でも、ジンがもう【ネズミ】には手を出さないって言うんです。食い扶持を稼ぐには罰当たりだろうが売れるものは売りますよ」

やっぱりか…
元々あった信仰が最近では廃れているとはいえ、神殿の財宝を食料や酒に変えやがった。

「ユーリが着てるその服と耳飾りなんか家畜10匹分位はしたんじゃないですか?」
「は!?」
「おお、12匹分だ」

信じられない。
どう考えてもこの大所帯では食料の方が大事だろう。

「これ要らないから元の服と替えて!」

青ざめる俺を見て広間にどっと笑い声が起きる。

「もらっといてやりなよ、ジンがお前さんのためにわざわざ誂えたんだぜ」

訳が分からない。
何故俺がここまで甘やかされるのか。
というより、これはジンが言うように"嫁"への愛情だというのだろうか?

記憶にうっすらと残っている俺の母親と父親は、こんな関係ではなかった。
一方的に愛を注がれるのではなく、互いに苦しい時は支え合い、ほんのささやかな事で笑いあっていた。

熟れすぎた果実から漏れる蜜のような、むせ返るような甘ったるい関係。
それでいて、俺からは離れることが出来ない。
ジンの腕の中で甘えることだけが許されているー

これは愛情と言えるのだろうか?
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