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大希

気配

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世の中には、我儘邦題に振る舞ってもなお、多くの人に愛される、尊敬される方がいらっしゃいます。

しかしそれは、その方が持つ<才能>や<才覚>に基づいた<魅力>があるからこそではないですか?

その場の思い付きや気分で社員を解雇したりするワンマン経営者であっても、傍若無人に振る舞うスターであっても、何度も不祥事を起こすタレントであっても、許され、認められたりするのは、ダメな部分を差し引いてもなお愛される強烈な何かを持っているからなのでしょう。

ですがそういう方は、ごくごく一部の例外でしかありません。それだけのものを持ち合わせない方が同じように振る舞うと、たちまち周囲から疎まれ、孤立することになるはずです。

自分の思い通りにならないと声を荒げ、非合理的で破綻した理屈で子供をやり込めようとする<我儘な親>が子供から信頼を得ることができるのでしょうか?

私には到底無理としか思えません。少なくとも、私が千早に対してそのように振る舞ったとしたら、彼女はここまで私を信頼してはくださらなかったでしょうね。

私は、ヒロ坊くんに信頼される人間になりたい。

それはすなわち、千早から信頼される私であるということでもあります。

千早にさえ信頼してもらえない私が、ヒロ坊くんに信頼される筈もない。

私の腕の中で、私の胸に顔をうずめてすうすうと寝息を立てる千早を感じながら、私もとても穏やかなまどろみへと落ちていったのでした。



翌朝、私は、部屋の前を行き来する人の気配で目が覚めました。

決して大きくはない足音ですが、お客様の安眠を妨げないようにと気遣ってするすると歩く彼女の気配は、私にとっても心地好いものでした。

アンナです。アンナがもう仕事を始めていたのです。

勤勉で実直なアンナを、私は尊敬しています。確かに単純な学歴で言えば見るべきところはないかもしれませんが、彼女の人柄はそんなものでは測れないでしょう。

現に彼女は、世界の名だたる名門ホテルを定宿になさっているお客様からさえ、非常に優秀なビジネスパーソンとして高い評価を得ています。そんな彼女を正当に評価できないような私を、私は評価することができません。

私の両親がたくさんの秀でた友人に囲まれているのは、間違いなく彼女の力による部分もあるのです。

彼女は、父方の祖父の四十年来の友人の娘さんです。祖父は、六十という若さで心筋梗塞を患い亡くなりましたが、たくさんの<人の繋がり>という得難い財産を私達に残してくださいました。

アンナの存在も、そのうちの一つなのです。

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