愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットメイド、アリシアの優雅な日常

アリシア、テロリストの狙いに気付く

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さすがにこの異常事態は火災などではないということがクイーン・オブ・アースの乗員達にも伝わり、乗客の避難が始まっていた。だが、テロリストによる攻撃らしいとは分かったのだが、具体的に相手がどんな連中で何を目的にどういう行動をしているかという肝心なことが全く把握出来ておらず、どこにどうやって乗客を避難させるべきかという判断が下せずにいた。

後部の二等船室辺りが占拠されているらしいということだけは分かっていたので、仕方なく取り敢えずデッキに上がってもらうことにはしたが、救助を呼ぼうにもシステムが乗っ取られている為に詳細を伝えることが出来なかった。今はただ、システムに関係なく発信出来た救難信号を受け取った誰かが助けに来てくれることを祈るしか出来ない状態だ。

しかしその間にも、クグリとその配下と思しきテロリストによる蹂躙が続く。その動きは実に機械的で規律正しかったが、半面、ただ順番に殺戮と破壊を繰りかえすだけで、この船そのものを乗っ取ろうとか人質を取って何か要求を出すとかそういうものが一切ない。それだけに余計に、船長以下この船を管理している者達にもテロリストの目的が掴めず、ただ時間だけが過ぎて行った。

「アリシア、頼む。人間を守ってほしい」

船の方が具体的な対処が出来ないことを理解した千堂が、アリシアにそう言った。

「承知しました」

アリシアは短くそう応え、戦闘モードを起動。表情がスッと冷徹なものになり、自らのセンサーの感度を最大まで上げ、アリシアシリーズだけでなく他のメイトギアともデータ通信により連携を始めた。とにかく今は、何が起こっていてどういう敵がいるのかという情報を得、対処法を構築することが重要だと考えた。だが、連携を始めたロボット達が次々とダウンしていく。攻撃者の情報すら殆ど掴めないままに機能不全に追い込まれているのだ。

そんな中、再起動を終え、メンテナンスモードにより汚染を除去したアリシア2121-HKNと完全にリンクしたアリシアは、その目を通し状況の一部を知ってしまったのだった。アリシア2121-HKNの主人と思しき人間の亡骸が床に伏しているその様子を。

アリシア2121-HKNは、自分の主人が既に死亡し、蘇生の可能性もないことを、自らのセンサーにより知った。その彼女に対し、千堂アリシアは、彼女の戦闘モードを起動させ、自らの一部とする。

千堂アリシアの一部となったアリシア2121-HKNが、船室を出た。周囲を窺うが、既に気配はない。そこでフレンドリー検索を行い、他にアリシアシリーズがいないかを検索。すると通信範囲に三機のアリシアシリーズを捉えた。リンクを開始するが、やはりそれらも不正アクセスの痕跡が検出され、セーフモードでの再起動と自己メンテナンスを実行。しかしその三機は標準仕様だった為、戦闘には適さない。しかも再起動と自己メンテナンスが終了するまでは三十分ほどかかるだろう。当てには出来そうになかった。

次に、他の船室を見て回る。だがそこにあったのは凄惨な光景ばかり。人間の死体が転がり、メイトギアはただ立ち尽くしていた。その頬には赤いバッテンが付けられている。その子供の悪戯のような行為と、老若男女関係なく人間の命を奪っている残虐な行為との落差には、戦慄さえ覚えるものだった。

立ち尽くしていたメイトギア達も、恐らく不正アクセスにより機能障害を起こしているのだろう。当てには出来ないが、今はとにかく目と手が欲しい。取り敢えず直接緊急信号を送信し強制的に待機状態を解除、部屋から連れ出した。しかし皆、主人を亡くし自律行動が出来ない。事故や急病で主人を突然亡くすと、ロボットは、勝手な行動が出来ないようにする為に自律行動が著しく制限される。まあ、制限などしなくても命令する者がいなくては、決められたルーチンワーク以外は殆ど何も出来ないのだが。だから日常とは違うこういう状況では、それこそ命令されないと何も出来なくなってしまうのだ。それでもカメラ替わりくらいにはなるだろう。

「千堂様、この船で最も数が多いフィーナシリーズの協力が必要です。連携を申請していただけますでしょうか?」

アリシアからの申し出に、千堂は躊躇うことなく船長ら管理責任者の下へと走った。

「私はJAPAN-2ジャパンセカンド社の千堂京一です。現在発生中の状況に対処する為に協力したい」

乗客の対応に当たっていた乗員を通じてそれを伝えてもらい、千堂は臨時の対策室となった船長室に赴いた。

「船長のダン=バーニィです。JAPAN-2ジャパンセカンド社の協力がいただけるとは有り難い。こちらこそよろしくお願いします」

白髪交じりのひげを蓄え、がっしりとした体躯を持つ船長が力強く千堂を握手を交わす。

「まず、乗客の中に、ロボットメーカーの役員クラスの方、もしくは開発部の役職クラスの方がいらっしゃるかどうか確認したいのですが」

千堂の狙いは、特殊コード等の使用によって同じメーカーのロボット同士リンクを行い、全体で一つのロボットとして機能させることで効果的に対処するというものだった。出来れば、フィーナシリーズとルシアンシリーズのメーカー、ブランドン社の人間がいてくれると助かるのだが。

だが残念ながら、ロボットメーカーの役員は数人いたものの、その誰も特殊コードによる設定変更等の高度な操作方法を理解していない者ばかりだった。無理もない。技術者上がりの千堂のようにロボットのことを熟知している者の方がむしろ珍しいのだ。ブランドン社の関係者も乗船していたが、やはりそこまで詳しい者は誰一人いなかった。

いや、実際には開発部の主任クラスの人物がいた筈なのだが、どうやら既に殺害されていたようだ。

臨時の対策室となった船長室に、沈痛な空気が漂う。そこに、船に配備されていたフィーナQ3とルシアンF5が次々と破壊、もしくは機能停止に陥っていると知らせが入った。「くそっ!」っと誰かが呻いた。しかし嘆いてばかりもいられない。千堂が申し出る。

「私のアリシアは、戦闘経験が豊富です。リンクが出来れば一番ですが、しかし指揮を取らせていただけるだけでも恐らく今よりは有機的な対応が出来るでしょう。この船のフィーナQ3とルシアンF5の指揮を任せていただけますか?」

この時、千堂以上にロボットの扱いに詳しい者がいなかった。だから逆に、千堂の申し出が果たして適切かどうかの判断すら、この場にいた者の誰にも出来なかった。船の関係者達が協議したが、結論が出ないうちにさらにルシアンF5が破壊されたという知らせが届く。これでもう、フィーナQ3が二機、ルシアンF5が一機となってしまったのだった。

人間達が判断に迷っている間にも、千堂アリシアは何とか事態の対処に当たろうとしていた。連れ出したメイトギア達にそれぞれ部屋を回らせて同じように待機状態にあるメイトギアを連れ出させた。するとその数は瞬く間に三十機を超える。その中には要人警護仕様五機もいた。ただ、それらも、主人を亡くしている為に戦闘モードに入ることすら出来ない状態だったが。

せめてリンクが行えれば、アリシア2121-HKNのように戦闘モードを起動させられ戦力に出来るのだが、出来ないことを望んでいても何も解決しない。千堂アリシアは淡々と自らに出来ることを行った。その途中、船に配備されていた二機のルシアンF5と一機のフィーナQ3を発見。しかしそれらは、あるものはメインフレームを完全に破壊され、そうでないものも不正アクセスにより待機状態にされるどころかOSを破壊され再起動さえ出来ない状態になっていた。そこから、乗客のメイトギアには悪戯書きする程度だが、船に配備されてるロボットは破壊するという意図が窺えた。

ロボット全てを一律に破壊するのではなく、そうやって区別している点が余計に不気味だ。

『…遊んでる…?』

千堂アリシアのメインフレームは、テロリスト達の行動に、そういう意図が垣間見えることを導き出していたのだった。

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