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生活
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「……」
自分のことを<ママ>と呼ぶみほちゃんに、吉佐倉さんは、
『それは違う』
とは言わなかった。
「ミホ、アヤノは……」
と言いかけたエレーンさんに対して手をかざし、視線を向けて黙って首を横に振り、それを制す。
日本のアニメの大ファンで、その中でキャラクターがよく見せる仕草を学んできたエレーンさんには、吉佐倉さんが何を言いたいのかが察することができて、自分と同じように訂正しようとしたシェリーちゃんを抱き締めて、
「ミホは、アヤノのことをママと思い込むことで自分の心を守ろうとしてるの。だからそっとしておいてあげて」
と英語で話しかけた。
元々、英語しか話せなかったシェリーちゃんとではみほちゃんと話はできなかったものの、
「……分かった……」
と納得し、協力してくれることになった。
その間、アリーネさんはやっぱり横たわったまま、腕で自分の顔を覆い、言葉さえ発しない。
完全に心が折られてしまったということなんだろう。
ただの獣相手に不様に悲鳴を上げ、おしっこまで漏らしたという、戦場でさえ味わったことのない屈辱に。
けれどとにかく、この四人で救助が来るまでは生き延びるしかないことは、自ら記憶を書き換えてしまったらしいみほちゃんを除いた四人の共通認識だった。
……というのが、僕には感じられていた。テントの中も、目で見てるわけじゃないのに、目で見てるみたいに映像が頭に浮かんでくる。それがどうやら、僕に備わった超感覚によるものだというのも、自然と理解できていた。
さらには、エレーンさんやシェリーちゃんが英語でしゃべっていてもその意味が分かる。どうやら、<言葉>を認識してるんじゃなくて、言葉に乗せられた<意図>を知覚してるみたいだ。
しかも何故か、その意図を感じている時に、
『美味そう……』
っていう思考が頭をよぎった。人間が、肉や魚の映像を見た時に『美味しそう』と思ってしまうみたいに。
それが何を意味するのかも、今の僕には分かる。
『どうやら、本当にもうあまり時間がないみたいだな……』
とも、察してしまったんだ。
こうして、五人のサバイバル生活が始まった。
と言っても、必要なものは僕が集めて用意するから、ある意味ではただのキャンプ生活のようなものでしかなかったかもしれないけれど。
その中でみほちゃんも不満を言うこともなく、しかも自分から率先して食事の用意や後片付けを手伝ってくれてた。
「ママ、きょうのごはんもおいしかったね」
ただのレトルト食品を、瓦礫で組んだカマドとホームセンター跡から僕が拾ってきた鍋で沸かした湯を使って温めただけのものだったけど、みほちゃんは笑顔でそう言ってくれたのだった。
自分のことを<ママ>と呼ぶみほちゃんに、吉佐倉さんは、
『それは違う』
とは言わなかった。
「ミホ、アヤノは……」
と言いかけたエレーンさんに対して手をかざし、視線を向けて黙って首を横に振り、それを制す。
日本のアニメの大ファンで、その中でキャラクターがよく見せる仕草を学んできたエレーンさんには、吉佐倉さんが何を言いたいのかが察することができて、自分と同じように訂正しようとしたシェリーちゃんを抱き締めて、
「ミホは、アヤノのことをママと思い込むことで自分の心を守ろうとしてるの。だからそっとしておいてあげて」
と英語で話しかけた。
元々、英語しか話せなかったシェリーちゃんとではみほちゃんと話はできなかったものの、
「……分かった……」
と納得し、協力してくれることになった。
その間、アリーネさんはやっぱり横たわったまま、腕で自分の顔を覆い、言葉さえ発しない。
完全に心が折られてしまったということなんだろう。
ただの獣相手に不様に悲鳴を上げ、おしっこまで漏らしたという、戦場でさえ味わったことのない屈辱に。
けれどとにかく、この四人で救助が来るまでは生き延びるしかないことは、自ら記憶を書き換えてしまったらしいみほちゃんを除いた四人の共通認識だった。
……というのが、僕には感じられていた。テントの中も、目で見てるわけじゃないのに、目で見てるみたいに映像が頭に浮かんでくる。それがどうやら、僕に備わった超感覚によるものだというのも、自然と理解できていた。
さらには、エレーンさんやシェリーちゃんが英語でしゃべっていてもその意味が分かる。どうやら、<言葉>を認識してるんじゃなくて、言葉に乗せられた<意図>を知覚してるみたいだ。
しかも何故か、その意図を感じている時に、
『美味そう……』
っていう思考が頭をよぎった。人間が、肉や魚の映像を見た時に『美味しそう』と思ってしまうみたいに。
それが何を意味するのかも、今の僕には分かる。
『どうやら、本当にもうあまり時間がないみたいだな……』
とも、察してしまったんだ。
こうして、五人のサバイバル生活が始まった。
と言っても、必要なものは僕が集めて用意するから、ある意味ではただのキャンプ生活のようなものでしかなかったかもしれないけれど。
その中でみほちゃんも不満を言うこともなく、しかも自分から率先して食事の用意や後片付けを手伝ってくれてた。
「ママ、きょうのごはんもおいしかったね」
ただのレトルト食品を、瓦礫で組んだカマドとホームセンター跡から僕が拾ってきた鍋で沸かした湯を使って温めただけのものだったけど、みほちゃんは笑顔でそう言ってくれたのだった。
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