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イノシシみてえな獣

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そうだよな。<ヴェロキラプトルみてえな獣>にしたって決してザコってわけじゃねえ。俺が勝てたのも『蟷姫とうきが加勢してくれた』ってえのもあってのことだからな。

しかも<イノシシみてえな獣>も、おとなしく狩られちゃくれねえだろ。

負けて支払うのは自分の命だ。スポーツとはわけが違う。

もちろんこれはスポーツをバカにしてるわけじゃねえ。『負けても次がある』ってのは、敗けを経験として活かせるってえ大きなメリットがあるからな。

そうだな。人間が進歩できんのは、『負けたらそこで死ぬ』ってえのが減ったからかもしれねえ。

負けてもその経験を次に活かせるようになったってのが大きいかもな。負けて死んじまったらもうそこで終わりだけどよ、経験もへったくれもありゃしねえけどよ、次の機会があるなら自分をもっと磨けるわけだ。

後は、言葉やら映像やらで情報を残せる。他の奴に伝えられる。ってのも大きいよなあ。

勝って生き残らねえと経験を次に活かせねえのと、負けても死ぬことはねえ、死んでも情報を残すことはできる、ってのはやっぱでけえ。

そりゃやたらと勢力を伸ばして増えるわけだ。

その分、人間一人一人は弱っちくなったみてえだけどよ、いや、その上で俺みてえのが普通だったらそれこそ始末に負えねぇってえ話か。だから人間が弱っちくなったのは、むしろ当たり前ってもんかもしれねえ。

ってなことを考えてる俺の前で、ヴェロキラプトルみてえな獣に後ろ足を食らい付かれたイノシシみてえな獣は、さらに食らい付いてきた他の奴に頭突きを食らわして撥ね飛ばしやがった。

しかも二匹連続でだ。まるで車にでも撥ねられたみてえに吹っ飛びやがる。

ははは! すげえな!

動きがまさしく<筋肉の塊>ってえ感じだ。いい! 好きだぜそういうの。

体重は七十キロあるかどうかってえところだろうから、ウェイト的には俺の方が有利だろうが、一対一で真っ向力比べしても簡単には勝てねえかもしれねえ。まったく、野生の獣ってなあ、大した奴らだぜ。

まあそうは言っても、ヴェロキラプトルみてえな獣の方も簡単にゃ諦めねえか。

特に、後ろ足に食らいついた奴は、地面に後ろ足の爪を突き立ててスパイク代わりにして踏ん張って、人間の手と変わらねえくれえに器用に動く前足でイノシシみてえな奴の脚をがっちりと掴み、明らかに自分より圧倒的にでかいウェイトのあるそいつの動きを、一瞬だけとはいえ抑えて見せやがった。

その隙に、他の奴らが一斉に食らい付く。

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