オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

文字の大きさ
16 / 95

二つの群れが一つの場所で

しおりを挟む
そういう鬱屈した部分も抱えつつ、ジャックの群れはおおむね平穏だった。新しく子供達も生まれ、時には犠牲を出しつつも順調に育っていた。一般的には最初の数ヶ月で半分になってしまうことも多いのが、一年が過ぎても七割ほどが生き延びている。

ただそうなると、群れが大きくなってしまうことで、餌が不足しがちになる。それをジャック率いる<別動隊>が狩りを行うことで補っているわけだ。

とは言えそれは、事実上、

『二つの群れが一つの場所で暮らしている』

状態でもあり、必ずしも健全とは言えなかっただろう。しかも子供達はジャックを慕っているので、群れを構成している年齢の分布が非常に偏ってもいた。

片方は若すぎ、片方には子供がいない。という形で。

聡いジャックは、すでにそのことも察していた。だからこそ今はまだ群れが分裂するようなことは避けたかった。いくら効率よく狩りができると言っても、成体おとなの雌のほとんどはさすがにキングについているので、群れを分けると、狩りをしている間、子供達を見ていてくれる成体おとなが極端に少なくなってしまう。

それでは意味がない。

だからこそジャックは、敢えてキングに対して下手したてに出て、群れを分かつことなく効率よく獲物を捕らえつつ、子供達にも土竜モグラ狩りなどを上手くこなしてもらって負担を減らす努力をした。

彼としてはそれが最も確実な生存戦略だと考えていたのである。

けれど、そんな彼の想いは、必ずしも正確に仲間に伝わるわけじゃない。むしろ彼が賢過ぎるだけで、実際には他の仲間達の方が<普通>だったのだ。自分達が慕うジャックこそをボスとして担ぎ、キングを排除しようとする者が出始めるのも、自然な流れでしかない。

当然だ。ジャックの方が優秀であると考えれば、排除されるべきはキングの方なのだから。

そして、実際にキングに襲い掛かる者が出ると、ジャックは群れの統率を守るためにキングを庇い、自分を慕う仲間を打ちのめした。それでもなお従わない場合には、その場で噛み殺したりさえした。

すべては<群れ>を守るために。

なのに、ジャックがキングを庇ってもなお、彼を慕う仲間達は、彼こそを敬った。

だからこそ、事あるごとにジャックに服従を強いて彼を蔑むような振る舞いをするキングに対しての反発は収まることがなく、むしろ膨らんでさえいったと言えるだろう。

『どうすればいいんだろう……?』

ジャックは悩んだ。

群れを分けるのは簡単だ。自分が出て行けば自分を慕う者達は勝手についてくるに違いない。けれどそうなれば、年齢構成がいびつな群れが二つできるだけでしかない。

キングの群れの方は新たに子を作れば済むかもしれないが、自分達の方は、本当にそれでやっていけるのだろうか……?

賢いからこそ、それが分かってしまうのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...