35 / 95
情
しおりを挟む
頑強な肉体を手に入れ、急速に力をつけたジョーカーは、遂に自身の兄姉までをも獲物とし始めた。
まだジョーカー自身も<成体>と言えるほどの体ではなかったものの、群れにいるとどうしても成体よりも餌を得られる順番が後になる上に、成体に守られて外敵と直接戦う機会が少ないことにより、力が逆転していたのだ。
そしてこの日も、群れから離れて一頭でいた同じ母親から生まれた兄である雄に狙いを定め、襲い掛かった。この<兄>も、体が大きくなってきて自分に力がついてきたと感じたからこそ、冒険心を見せてしまったのだろう。
『このくらいなら自分だけでも大丈夫』
と。
けれどそれはとんでもない思い上がりだった。
「ヂッッ!!」
小さく声を上げつつ草の陰から姿を現したジョーカーに、血の繋がった自分の弟に、首筋に食らい付かれ、それを振りほどくことができなかった。咄嗟のことに反応できず棒立ちの状態で急所を捉えられて地面に叩き付けられ、パニック状態のまま腹にも爪を立てられ、頸椎を噛み砕かれ、死んだ。
実に呆気ない最後だった。
こうして仕留めた実の兄の死骸を、ジョーカーは草むらの中へと引っ張っていって、そこでゆっくりと貪った。
本当はジョーカーもそれが実の兄であることは気付いていなかったものの、何とも言えない満足感と共にブヂブヂと肉を食いちぎりジャグジャグと噛み締め、ングリと飲み下すと、たまらない気分になった。いつもの食事では得られない恍惚感のようなものすらあったようだ。
だがその時、
「ッ!?」
ジョーカーは全身を何かで叩かれたような感覚を覚え、飛び退いた。直後、彼がいた空間にバグンッ!と牙が噛み合わされる。
すんでのところで間合いを取って身構えつつ視線を向けると、そこには彼よりまだ二回り以上大きな、成体のオオカミ竜の姿があった。
幼体の姿が見えなくなったことで探しに来た母親だった。
そう。ジョーカーの実の母親だ。オオカミ竜は、その名の由来となった<オオカミ>に比べると<親子の情>のようなものは希薄な傾向はあるものの、このようにして目の前で我が子を殺されれば、攻撃衝動が格段に高まる程度には<情>も持ち合わせていた。
「ガアッッ!!」
我が子を食い殺され、その報復のために母親は猛り狂った形相で、我が子の一頭であったはずのジョーカーに襲い掛かった。
明らかに勝てるはずのない相手に、彼は逃げの一手を選ぶ。そしてそれが正解だった。
逃げ切れれば、だが。
まだジョーカー自身も<成体>と言えるほどの体ではなかったものの、群れにいるとどうしても成体よりも餌を得られる順番が後になる上に、成体に守られて外敵と直接戦う機会が少ないことにより、力が逆転していたのだ。
そしてこの日も、群れから離れて一頭でいた同じ母親から生まれた兄である雄に狙いを定め、襲い掛かった。この<兄>も、体が大きくなってきて自分に力がついてきたと感じたからこそ、冒険心を見せてしまったのだろう。
『このくらいなら自分だけでも大丈夫』
と。
けれどそれはとんでもない思い上がりだった。
「ヂッッ!!」
小さく声を上げつつ草の陰から姿を現したジョーカーに、血の繋がった自分の弟に、首筋に食らい付かれ、それを振りほどくことができなかった。咄嗟のことに反応できず棒立ちの状態で急所を捉えられて地面に叩き付けられ、パニック状態のまま腹にも爪を立てられ、頸椎を噛み砕かれ、死んだ。
実に呆気ない最後だった。
こうして仕留めた実の兄の死骸を、ジョーカーは草むらの中へと引っ張っていって、そこでゆっくりと貪った。
本当はジョーカーもそれが実の兄であることは気付いていなかったものの、何とも言えない満足感と共にブヂブヂと肉を食いちぎりジャグジャグと噛み締め、ングリと飲み下すと、たまらない気分になった。いつもの食事では得られない恍惚感のようなものすらあったようだ。
だがその時、
「ッ!?」
ジョーカーは全身を何かで叩かれたような感覚を覚え、飛び退いた。直後、彼がいた空間にバグンッ!と牙が噛み合わされる。
すんでのところで間合いを取って身構えつつ視線を向けると、そこには彼よりまだ二回り以上大きな、成体のオオカミ竜の姿があった。
幼体の姿が見えなくなったことで探しに来た母親だった。
そう。ジョーカーの実の母親だ。オオカミ竜は、その名の由来となった<オオカミ>に比べると<親子の情>のようなものは希薄な傾向はあるものの、このようにして目の前で我が子を殺されれば、攻撃衝動が格段に高まる程度には<情>も持ち合わせていた。
「ガアッッ!!」
我が子を食い殺され、その報復のために母親は猛り狂った形相で、我が子の一頭であったはずのジョーカーに襲い掛かった。
明らかに勝てるはずのない相手に、彼は逃げの一手を選ぶ。そしてそれが正解だった。
逃げ切れれば、だが。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる